彼女にシミュレーションゲームをさせたらポンコツだった
「彼女は、シミュレーションゲームの才能が1mmもないのかもしれない。」
三浦満は、自分が最後まで進めて勝ちが見えていたシミュレーションゲームを、加藤もみじが大敗北に導くのを見て確信した。
負けの原因を作ったもみじは、なぜか満足そうに満を見ながら言い放つ。
「満君。戦史物は史実通りにやるのが大切なのだよ。」
満ももみじも、地方の高校3年生で、県大会を最後に陸上部を引退した。
陸上部はこれから主体的に活動する2年生のため、つまり代替わりのため、3年生の教室を貸切って放課後に代替わり式を行う。
代替わり式も終わり、満はこれであとは受験勉強だけの生活、と思いながら放課後の教室でスマホのゲームを始める。
いくら受験生といえども、はやりのゲームは押さえておきたい。
ログインボーナスをもらうのは日課だった。
「お、満君もゲーム好きなんだ。」
話しかけてきたもみじは、満のスマホを珍しいものを見るようにのぞき込む。
満はいきなり話しかけられて驚いたが、自分がやっているゲームに興味を持ってもらって口数が増える。
「あぁ、最近始めたゲームだけと、毎日ログインボーナスがもらえるから、欠かさずやってるんだ。」
「へ~。あ、私もそのゲームやってるんだ。良かったフレンドにならない?」
もみじは手早くスマホを取り出し、同じゲームを立ち上げる。
満は、もみじがゲーム好きなのを初めて知った。
部活をやっていたころは、3年間二人で話すことはほとんどなかった。
だが、フレンド登録が終わった後もゲームの話が途切れることはなかった。
そして、毎日帰りにゲームの話をしているうちに、二人は付き合う仲になるのに時間はかからなかった。
(今日遊びに行くから、適当にゲームを準備したまえ!)
紅葉が終わり始めたころ、もみじからLINEが届いた。
スマホでの対戦ゲームも好きだが、どちらかというと二人とも据え置き機でお互いのゲームを鑑賞する方が好きだ。
もみじは、FPSや格闘などのアクションゲームを好む。
「もみじの好きなゲームは…とりあえず最初は格闘系でいいかな。」
満はゲームソフトを並べて、もみじが楽しめそうなものを選んでいた。
ちなみに満はシミュレーションゲーム派で、アクションゲームの腕はそこそこ。
満はやりかけになっているパソコンの太平洋戦争もののゲームをそのままにして、もみじと遊ぶゲームの準備をした。
「おっじゃまっしまーす。」
この元気な声はもみじだ。
ずんずんと階段を上がってくる音が聞こえる。
「今日は何やるの~、って何してるの?」
もみじが不思議そうにつぶやく。
満がゲームソフトを凝視してしていたからだ。
「ああ、ごめんごめん。どの順番でやろうか考えていたとこだったから。」
「そんなに考えてくれたの?ありがとう!あれ、このパソコンのゲームはなに?」
もみじは、パソコンのゲームを見ながら、あごに人差し指を当てていた。
「これは…ミリタリーかな?」
「そう。太平洋戦争が題材で、日本軍かアメリカ軍かを選んで始めて、ターン制で兵器を進めていくゲーム。んで、相手の拠点をすべて押さえれば勝ち。」
「へー…」
もみじはパソコンから目を離さない。
シミュレーションゲームがそんなに珍しいのだろうか?
「私、これ系のゲームやったことないからやってみたい!」
「やってもいいけどシューティングゲームと違って、見てても面白くないぞ?」
「うん。だから私がパソコンでゲームしている間、満は準備してたゲームで遊んどいて。彼女と同じ部屋でゲームなんてうれしいでしょ。」
正直うれしい。
うれしいが、同じ部屋で別々のゲームをするのもな。
満が何か言いたさそうにもみじに目を向けると、もみじはすでにマウスをかちかちしながらゲームを始めていた。
「あー、負けちゃった。」
え、うそ。
満は思わずパソコンに目をやる。
このゲームは、日本軍から始めると難易度が上がる。
満は日本軍から始めてもう3ターンくらいで終われるくらいまで進めていたのに、負けたとはどういうことだ。
「いや、戦艦とか戦車とかめちゃくちゃ作ってたから、負けようがないんだけど。」
「そりゃたくさんあったよ、戦艦とか。でも、日本軍が大量の戦艦を作って戦うってなんか違和感があるんだよね。」
なんだそのわけのわからない敗北論は。
勝ちたくないのか。
そう言いたげな満にもみじは言い放つ。
「満君。戦史物は史実通りにやるのが大切なのだよ。」
その後も、やっては負けやっては負けの繰り返しだった。
「あのさ。武器開発の画面で、パラメーターをいじって新しい兵器を作ってみたら。例えば偵察機だったら武装はないけど、マップの端から端まで飛べるようにするとか。」
「それだと現実離れすぎかな。」
たかだかシミュレーションゲームで何にこだわっているのだろう。
満は思わず声が強くなる。
「負け続けて何が楽しいの?普通に遊べばいいのに。」
「私には私なりのやり方があるの!じゃましないで!」
もみじはそう言い放つと言い過ぎたと思ったのか、「ごめん」とつぶやくように言う。
「今日はもう帰るね。」
じゃあね、とだけ言って、雨の降る中もみじは玄関を出て行った。
もみじとけんかした後は、満がもみじをゲームにさそうことはなかった。
もともと受験勉強をしなければいけない。
でも、心に引っ掛かりを残したまま時間だけが過ぎていった。
もみじからLINEが来たのは、雪が降り始めてマフラーが似合う季節だった。
(もう一度あのゲームをやりたい)
満はけんかしたあの日を思い出した。
(わかった。待ってる。)
LINEに返信して、満はけんかした日から手をつけられなかったゲームを久しぶりに起動した。
「ごめん。どうしてもあのゲームをしたくて。」
もみじは満の部屋でつぶやく。
「やってもいいけど、どうしてこのゲームにこだわるの。」
「それは…いまもう一度遊んでみてから答えていいかな?」
満は「うん」とうなずくともみじにノートパソコンを手渡した。
もみじはあの日と変わらず日本軍を選択して、同じように負け続けた。
「やっぱり勝つのは違うと思うんだよね。」
もみじは納得したようにつぶやく。
今日はけんかをしたくない。
満は、言葉を選ぶようにもみじに問いかける。
「もみじがこのゲームで勝ちたくない理由ってなに?」
もみじは、無言のままパソコンの画面を見つめていたが、意を決したように満に向かい直す。
「実は私のひいおじいちゃんが、太平洋戦争でゼロ戦に乗っていたんだ。」
もみじが話を続ける。
「ひいおじいちゃんは、日本本土に爆撃に来るB29の追撃をする戦闘機乗りだったの。でもさ、B29の機銃がひいおじいちゃんの機体にあたって墜落して…戦死したんだ…」
「私はおじいちゃんと仲が良くて、ひいおじいちゃんがすごくいい人だって知ってるの。でももう死んじゃってるから、会いたくても会えない。だから、戦争の史実のゲームは、できるだけ歴史通りにやりたい。」
ああ、そうか。
だから、もみじはわざとゲームで日本が負けるようにしていたのだ。
「もちろんゲームだから、勝つようにやればいいのはわかってる。でもね、それだとひいおじいちゃんを否定することになるんじゃないかって。ひいおじいちゃんは日本のために戦ったけど日本は負けたのに。日本が勝っちゃったらダメなんじゃないかな…て…」
もみじはそう言うと涙が止まらなくなった。
満はそんなもみじをしっかり抱きしめ、耳元でささやく
「ダメじゃないよ。俺こそ何も考えてなくてごめん。もみじの好きなようにやればいいよ。」
「ありがとう。私もわがままにまきこんでごめん。」
もみじは、帰るころにはすっきりした表情で、満の家を後にした。
受験も終わり、満ももみじも第一希望の大学に合格することができた。
雪の降る中、もみじは満の家を尋ねる。
「あのね、新しいゲームを買ったんだ。太平洋戦争の海戦がメインで軍艦を自由に作って遊ぶゲームなんだけど…」
きっともみじは自由に軍艦を作ることはない。
ゲームケースを持っているもう片手には、『第二次世界大戦ミリタリー図鑑』と戦艦が表紙を飾っている本を持っていた。
もみじには、もみじなりの戦い方がある。
もみじは、本を凝視しながら画面で軍艦を組み立てていた。
そんなもみじを見て、満はもみじの太平洋戦争にかける思いを知っているのは自分だけだとわかり、ほっとした表情を浮かべる。
勝つことだけがゲームじゃない。
満は、大切なことを教えてくれたもみじを見つめていた。
完




