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婚約破棄されたので悪役ヒロインはじめました  作者: ぴゅあぴゃあぴんく
婚約破棄編

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きらびやかな日々と影

前に投稿していた作品をプロットを見直し再構築しました。もう、受けなくても修正はしません(笑)

夜の沼地から吹き付ける風は、じっとりとした湿気を含んで、わたくしの頬をいやらしく撫でた。


きらびやかな帝都の灯りが恋しくなる。

夜でも昼のように照らしていた光は、この見果てぬ辺境の地までは届かない。


「なぜ、わたくしがこんな場所に……」


呟いても、返ってくるのは不気味な虫の羽音だけ。

そのざわめきが、まるで嗤うように耳の奥で鳴り響く。


わたくしは、もう二度と戻れないのだと、その時ようやく悟った。



――あの日、あの夜から、わたくしの人生は音を立てて崩れ落ちてしまったのだから





——帝都レオンハイム・白月邸



「お嬢様、朝でございます」


「ん……っ」


侍女のアンの優しい声が、わたくしの耳を撫でた。

まだ、目覚めきってない重い身体を起こし、眠い目を擦る。


「ふぁぁぁ、もうそんな時間ですの?」


「はい、お嬢様。 侯爵様が朝の散歩からお戻りになるお時間です」


「お父様は相変わらず几帳面ですこと……」


まだ、夢現の中アンに身支度をさせる。

自慢の金髪を櫛で流し、コルセットを締めてもらう。


「お嬢様、少々きつく締めさせていただきますわね」


「ん……っ! もう、あまり無理に締めなくてよろしいのに……」


きゅっと腰を締め付けられると、

その分、自分のふくよかな輪郭が強調されるように感じる。


鏡の前で出来栄えを見て微笑む。


白地に愛らしい花柄を散らしたモーニング・ドレスが、

身じろぐたびふわりと揺れた。


(今日は特に予定もないし、のんびりと読書でもしようかしら)



——ふと、彼の顔が頭に浮かぶ



(……いいえ、それよりも贈り物の刺繍を進めないと。 きっと喜んでくださるはず)


机に向かい、白い布を広げ、糸を針に通す。

花の模様を縫いながら、指先が彼の笑顔をなぞるように動いていく。


すると、廊下の向こうから慌ただしい足音が響いた。

アンが激しく部屋のドアを叩く。


「お嬢様大変です! 公爵殿下がお見えになりました!!」


「……えっ!? 今日は何の約束もない筈ですわ!?」


針を持つ手がぴたりと止まる。


わたくしの前で『公爵殿下』と呼ばれる方は、彼以外にいない。


「す、すぐに支度を!」


椅子を引く音も軽やかに、鏡の前へ駆け戻る。

髪の乱れを整え、ドレスの裾を撫でながら、心の中でそっと呟く。


(会いたいと願ったそばから……)


嬉しさと焦りが入り混じるまま、わたくしは彼を迎える準備に移った。




急いで着替えを済ませて、応接間に向かう。


逸る気持ちにつられ、胸元を飾るレースが上下に弾む。

コルセットでも抑えきれない、自分の膨らみが少しだけ気恥ずかしい。


心臓の鼓動を抑えながら扉を開けると、陽の光を背に浴びて立つ、彼の姿があった。銀の髪がきらきらと輝き、まるで彼から光が発しているかのようだった。


「レディ・エリカ、突然の来訪をお許しください」


彼はわたくしが室内に入ったのに気づくと、優雅に微笑んだ。


わたくしの婚約者リオン・ヴァン・アルブレオ公爵殿下。皇位継承権第五位にして、次代の皇帝とも噂される、誇らしいお方。


そんな彼の丁寧な挨拶に、

わたくしはかえって恐縮してしまいました。


「いえ、とんでもないですわ! まさかリオン様が直々にいらしてくださるなんて……」


「君にどうしても会いたくなってね」


「まぁっ……!」


冗談と分かっていても心が溶けるようだった。


そして、彼は後ろで控えていた侍女たちを、ちらりと見て静かに告げた。侍女たちはその視線に、息を詰め身を固くした。


「少し、二人だけで話がしたい。 席を外してくれるかい?」


「……かしこまりました」


侍女たち硬い表情で一礼し、部屋を出ていく。


(ふっ……二人きりですって……!?)


ドアが閉まった瞬間、

わたくしの胸は夢見るような期待でときめいた。


静まり返った部屋に、二人の息遣いが響く。


リオン様はゆっくりとわたくしに歩み寄り、手を取った。その仕草はあまりに優しく丁寧で、わたくしは頬が熱くなるのを感じた。


(あぁ……リオン様。 なんて素晴らしい紳士的な振る舞いなのでしょうか)


そして、リオン様は瞳でわたくしを見つめながら、口を開く。


「近々、ささやかな催しを開こうと思っていてね……。 その夜、君を私の隣でエスコートさせてほしい」


「まあ……!」


ささやか、とリオン様は謙遜なさるけれど、皇位継承権を持つ方の催し。きっと帝国中の貴族たちが集まる、盛大なパーティになるに違いありませんわ。


もちろん、その目的はわたくしたちの……。


わたくしが期待に瞳を輝かせたのを察知したのか、リオン様は優しく微笑んだ。自分でも分かるくらい顔が熱くなる。


「是非来てくれると嬉しい。 きっと僕達に取って重要な夜になるだろうからね。」


(まぁ……やっぱり……)


そこで、リオン様の視線がわたくしの瞳から胸元へと滑り落ちた。レースの隙間から覗く谷間を、欲望の滲む目で捉える。


その熱に、わたくしは恥ずかしさと女としての喜びで胸が震えた。


(リオン様、そんなに熱くわたくしを……。 きっと催しの後には……!)



——夜のテラスでリオン様とわたくしの唇が重なる



そんな期待を描くほど、わたくしは完全に舞い上がっていました。


彼が視線を戻す時の、歪んだ表情を気にも留めなかった。


「はい、リオン様。 わたくし、とても楽しみにしておりますわっ!」


できるだけ冷静に答えようと努めましたが、

おそらく口元は緩んでいたでしょう。


それでも、彼はその笑みを崩すことはなかった。


「では、私はこれで。 レディ・エリカ、君のドレス姿を楽しみにしているよ。」


リオン様はそう言うと、すっとわたくしの手を離し、背を向ける。わたくしは名残惜しむように、その手を胸元に添えた。


遠ざかるリオン様の背中を追いかけていましたが、熱に浮かされていたわたくしは、彼の足音がいつもより早かったこと。まるで急いでこの場を後にしたかったかのように。


そして、



——リオン様が乗ってきた馬車から覗く黒影に



気づくはずもありませんでした。


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