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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

エアババア

 今日も元気にババアが空を駆ける。この光景が日常になったのはいつからだろう。


 たしか、「ドローンに乗ってみた」って近所の婆がテレビで紹介されたのがきっかけだった。最初は笑い話だった。スーパーの袋をなびかせながら、時速15キロで低空飛行する姿が話題になった。


 空を見上げれば、雲間にシルバーヘアと日除け帽子が舞い、たまに「こら!割り込みすな!」と怒鳴り声が響く。空中道路、通称“婆道ばばみち”は、朝の8時と昼12時がラッシュアワー。ゲートボール帰りのババアとデニーズに行くババアとでごった返す。本日の天気は──晴れ時々ババア。



 ──そんな呑気でいられたのも束の間だった。



 空を飛ぶババアの数は日に日に増えていった。それも急激に。人口の少ない田舎町だ、知らない顔はない。なのに、空を飛ぶババアはいつの間にか知らない顔が多数を占めている。あれもこれも、知らないババアだ。それは、明らかに町内の婆の数を超えていた。


 最初に異変に気付いたのは、町役場の爺だ。間違いなく知らないババアだという。だが、どこか見覚えがある。そんな既視感のあるババアが何匹かいる。ババアのくせにパッチリ二重、ババアに不要な艶ぼくろ、そして特徴的なババアらしい福耳。これらの特徴を併せ持つ婆こそが町役場の一級クレーマー鶴巻カネヨだという。そんなツルカネと同じ特徴を持つババアが何匹か飛んでいる。


 それを確認した瞬間、全身から血の気が引くのを感じた。

「一人でも手に負えない。なのに複数・・・・・・」

 消え入るような声で呟き、ジジイは地中へと帰っていった。


 ババアが空を支配してから数日。ついに陽の光は地上に届かなくなった。空を覆う厚いババアの群れに遮られ、地上は人が住みにくい環境へと変化した。そして時折、制空権争いに負けたババアが降ってくる。それを野生の獣が食べ、ババアとなりまた空へと戻っていく。地上は地獄とかした。


 そんな折、ババア達に変化が起きた。ある一匹の大きなババアを中心に集団を組み、ついには編隊飛行を始めたのだ。その中心こそが鶴巻カネヨだ。そしてその周囲を鶴巻カネヨの特徴を持つババアが固めている。ババアの増殖コピー。地上に縛られていた婆はババアとなり自由となった。もう爺を従える必要はない。一対ではなく一体で増殖することができる、完全体へと婆は進化したのだ。


 このあたり一体はツルカネババアに支配された。びっしりと空を覆うババアは全てツルカネの増殖コピーとなった。手狭になった空をうごめく様は一匹の節足動物のようだ。ズルズルと這うように空を進むのは隙間なく空を支配するためだろう。恐らくこのままゆっくりと世界を飲み込むつもりだ。世界は終わる。ババアによって。それはツルカネによるものか、はたまた別のババアによるものかはわからない。しかし、確実に世界は終わりを迎える。


 俺()()の周りには空から降ってきたツルカネが散らばっている。地上に食料はもうない。

 今日も元気にババアが空を駆ける。明日も明後日も。

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