【第6章(最終章)】 未来人、問いだけを残して“未来人.exe”終了する件
未来人がいなくなってから、世界は少しだけ静かになった。
育DAOは頓挫。
家族NFTも廃止。
育Seedも凍結。
でも、誰も「あれは全部無駄だった」とは言わなかった。
なぜなら──何も変わらなかったのに、“問い”だけは残ってしまったから。
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ある家庭では、子どもにこう言った。
「あなたは、どんなふうに育てられたい?」
言った本人も答えは知らない。でも、その問いを投げたことだけは、確かに何かを変えていた。
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そして、ある日のこと。
閉鎖された育児支援会議室に、一通のデータパケットが届いた。
それは、未来人の最終ログだった。
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【ログ開始:未来人.exe】
各位へ
私は“問いを渡すためだけ”に、制度を壊しに来ました。
笑ってもらってよかった。怒られてもよかった。
ただ、問いが構造に残ってさえいれば、人間はまた育て直せる。
それが、あなたたちの持つ“希望という名のバグ”です。
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最後に、私自身が受け取れなかった問いを、あなたに渡します。
「あなたは、誰に“問い”を育てられましたか?」
それに答えられた時、未来は制度じゃなくて、あなたの中で再起動されるでしょう。
──それでは、“未来人.exe”、終了します。
【ログ終了】
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その瞬間、スクリーンが真っ暗になり、何も残らなかった。
……いや、ひとつだけ、残っていた。
【育育ログ:空白】
そこには、名前も日付も残っていない。
ただ、“問いを記録するための場所”だけが、ポツンと存在していた。
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それを見た会議室の誰かが、静かに呟く。
「……次は、俺たちの番か」
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【エピローグ】
制度は完璧じゃなくていい。
人間も未熟で、間違っていていい。
でも──問いさえ失わなければ、育てることは、やり直せる。
未来人が密輸したのは、正しさじゃなかった。
問いだった。
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【締め】
今日も誰かが、問いを持って育てている。
育てられている。
制度の外で、静かに、でも確かに。
──そして未来は、また別の誰かの問いから始まる。
──今日も制度が、問いで再起動されていく。
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完。