表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

【第5章】 未来人、“親ガチャ”の構造を逆設計して裁判沙汰になる件

「よく“親ガチャ”って言うじゃないですか」

会議冒頭、未来人は開口一番に言った。


「でもあれ、ただの愚痴じゃなくて──制度が感情を無視して機能してる証拠ですよね」


参加者たちはざわめく。


「今日は、その“親ガチャ”を構造レベルで解体しに来ました」



未来人が出してきたのは──

【適正育成環境マッチングシステム “育Seedいくしーど”】


「子どもが生まれる前に、その子の予測される感情特性・認知傾向・成長テンポをAIで解析します」

「そして、それに“最も相性がいい育成環境”を全国から自動で割り当てます」



「……あんた、何言ってんの?」

「つまり……親が子を選ぶんじゃなくて、制度が子に最適な“育成者”を割り当てるってこと?」

「その通り。親の感情、性格、人生設計を超えて、“育つために必要な構造”を第一優先にする。これが育Seed」



「それ、親にとっては地獄じゃない?」

「でも、子にとっては救済です」


未来人は言い切った。


「“親ガチャ”を“構造ガチャ”に変える。それが未来の選択です」

「親のエゴで育てるのではなく、構造に育てさせるんです」



それを聞いたある母親が怒鳴った。


「それって……“私の子じゃなくなる”ってことでしょ?」

「私は、自分で産んだ子を、自分で育てたい。

苦しくても、未熟でも、私が親でありたかったんだよ……!」



未来人はその言葉に、ほんの少しだけ表情を揺らした。


「……その感情は、制度に組み込めませんでした」

「構造は完璧でも、感情を“予測”はできても、“愛”を再現はできなかった」



そして、ひとつの事件が起こった。


育Seedによって“親子が引き裂かれた”家庭が、制度に対して訴訟を起こしたのだ。

「我々の“親である自由”を、奪ったのは誰か」と。



法廷で未来人はこう語った。


「我々は、“問いを渡す社会”を作りたかった」

「でも、問いが制度に吸い込まれて、“感情が処理対象”になった時──

その社会は、“正しすぎるが冷たすぎる”ものになってしまった」



判決は──制度の停止。

そして未来人は、そのまま姿を消した。



数年後。

かつて育Seedに登録された一人の若者が、

かつての“本来の親”に手紙を出す。


「……あなたが育ててくれてたら、どんな問いをもらえてたのかな」

「私は、構造的には完璧な環境で育った。でも、“誰にも似ていない気がする”んです」



そして、手紙の最後にこう記されていた。


「問いが欲しかった。正しさじゃなく、誰かの未熟さごと渡された“問い”が。」

【次回予告】


最終章:未来人、問いだけを残して“未来人.exe”終了する件

制度の最適化に失敗した未来人は、全データを削除し、自らの存在を閉じる。

最後に残るのは、ひとつの問い──「問いは、誰に育てられるべきだったのか?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ