【第5章】 未来人、“親ガチャ”の構造を逆設計して裁判沙汰になる件
「よく“親ガチャ”って言うじゃないですか」
会議冒頭、未来人は開口一番に言った。
「でもあれ、ただの愚痴じゃなくて──制度が感情を無視して機能してる証拠ですよね」
参加者たちはざわめく。
「今日は、その“親ガチャ”を構造レベルで解体しに来ました」
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未来人が出してきたのは──
【適正育成環境マッチングシステム “育Seed”】
「子どもが生まれる前に、その子の予測される感情特性・認知傾向・成長テンポをAIで解析します」
「そして、それに“最も相性がいい育成環境”を全国から自動で割り当てます」
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「……あんた、何言ってんの?」
「つまり……親が子を選ぶんじゃなくて、制度が子に最適な“育成者”を割り当てるってこと?」
「その通り。親の感情、性格、人生設計を超えて、“育つために必要な構造”を第一優先にする。これが育Seed」
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「それ、親にとっては地獄じゃない?」
「でも、子にとっては救済です」
未来人は言い切った。
「“親ガチャ”を“構造ガチャ”に変える。それが未来の選択です」
「親のエゴで育てるのではなく、構造に育てさせるんです」
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それを聞いたある母親が怒鳴った。
「それって……“私の子じゃなくなる”ってことでしょ?」
「私は、自分で産んだ子を、自分で育てたい。
苦しくても、未熟でも、私が親でありたかったんだよ……!」
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未来人はその言葉に、ほんの少しだけ表情を揺らした。
「……その感情は、制度に組み込めませんでした」
「構造は完璧でも、感情を“予測”はできても、“愛”を再現はできなかった」
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そして、ひとつの事件が起こった。
育Seedによって“親子が引き裂かれた”家庭が、制度に対して訴訟を起こしたのだ。
「我々の“親である自由”を、奪ったのは誰か」と。
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法廷で未来人はこう語った。
「我々は、“問いを渡す社会”を作りたかった」
「でも、問いが制度に吸い込まれて、“感情が処理対象”になった時──
その社会は、“正しすぎるが冷たすぎる”ものになってしまった」
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判決は──制度の停止。
そして未来人は、そのまま姿を消した。
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数年後。
かつて育Seedに登録された一人の若者が、
かつての“本来の親”に手紙を出す。
「……あなたが育ててくれてたら、どんな問いをもらえてたのかな」
「私は、構造的には完璧な環境で育った。でも、“誰にも似ていない気がする”んです」
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そして、手紙の最後にこう記されていた。
「問いが欲しかった。正しさじゃなく、誰かの未熟さごと渡された“問い”が。」
【次回予告】
最終章:未来人、問いだけを残して“未来人.exe”終了する件
制度の最適化に失敗した未来人は、全データを削除し、自らの存在を閉じる。
最後に残るのは、ひとつの問い──「問いは、誰に育てられるべきだったのか?」