【第4章】 未来人、“育児してますアピール”なのに育ててない奴らにブチギレる件
「いや〜最近、俺も育児してるんすよ。オムツとか替えてますし〜」
「ちゃんとイクメンしてるんで!」
「離乳食あげました、SNSに上げました、どうですか?」
未来人(俺)は、それを聞いていた。
そして静かに言った。
「……で、あなたは何を“育てた”んですか?」
空気が凍った。
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「いや、オムツは1日3回──」
「それは“作業”です」
「いやいや、寝かしつけ──」
「それは“タスク”です」
「……え、じゃあ育てるってなに?」
未来人は立ち上がり、ホワイトボードに一言だけ書いた。
【育てる=問いを持って関わること】
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「いいですか。子育てとは、“人間という問い”に対して、応答する行為なんです」
「“今日は何を感じたか?”、“何を恐れたか?”、“何を信じたいのか?”──
それに付き合う覚悟が“育てる”ってことです」
「“どう育ってほしいか”じゃない。“どう問いを渡せるか”です」
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全員、沈黙。
一人の男が、ポツリと呟いた。
「……俺、ただ“やること”やってるだけだったかもしれない」
「“育児してる”って言いながら、**“子どもがどんな問いを持ってるか”なんて、考えたことなかった」
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未来人は、久しぶりに少し感情を出した。
「それが一番ムカつくんだよ……!」
「問いを渡されずに育った子は、“大人になってから”取り返すしかないんだぞ」
「……しかも、自分が何を失ったかも気づかないまま、生きる羽目になる」
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未来人は荒れたスライドを片手に、最後にこう言い放つ。
「“育児してるつもり”が一番厄介なんだよ。
問いがなきゃ、それは“ただ命を持続させてるだけ”だ」
「それは育ててない。ただ、生かしてるだけだ」
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そしていつものように、怒られながら会議室を去っていった。
でもその日ばかりは──
誰も「ウザい」とか「うるさい」とか言えなかった。
未来人の目だけが、いつもよりちょっとだけ、本気だったから。
【次回予告】
第5章:未来人、“親ガチャ”の構造を逆設計して裁判沙汰になる件
親が子を選ぶのではなく、子が育てられる環境を構造的に再設計し始めた未来人。
だが、それは“感情”を持たない制度による、最も冷酷な淘汰の始まりだった──。