【第1章】未来人、育児会議に乱入する
俺は未来から来た。
でも別に地球が滅亡したとか、そういう壮大な話じゃない。
ただちょっと──
**「現代の育児制度、なんかおかしくね?」**って思っただけだ。
それだけの理由で、俺は今、市役所の育児支援会議に突撃している。
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「えー……本日は“保育支援の課題と改善策について”ということで──あの、あなたどちらから?」
「未来です」
「ふざけてるんですか?」
「いえ、ガチです」
会議室が一瞬で凍った。
未来人って、こういうとき全然空気読めないのが長所でもあり短所でもある。
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「ちょっと話だけ聞いてもらっていいですか?」
「……まあ、話すだけなら」
俺はホワイトボードの前に立ち、ペンを構える。
そして描いたのは──「保育点数制度チャート」である。
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「この制度、やばくないですか?」
「……やばい、って?」
「要は、親の労働状況・家庭環境・加点要素によって、子どもが保育園に入れるかどうか決まるわけですよね?」
「まあ、そういうことになります」
「すごい!完全に保活バトルロイヤルじゃないですか!」
「やめてくださいその言い方」
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俺は興奮して続ける。
「これ、未来で言う“育児スコアゲーミフィケーション”の初期形態ですね!」
「え、何その嫌な言い方……」
「しかも就労形態によってスコアが上下するということは──つまり、**“働く親ほど子育ての権利がある”**という構造的メッセージがある」
「それを言うなって会議で何度も……!」
やっぱり気づいてたのか。
でもみんな、あえて黙ってたんだな──制度という魔法の壁の前では。
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そこで俺は本題を切り出した。
「というわけで、提案です。“育児DAO”を導入しましょう」
「ダオォ?」
「育児に関わった全員に“共育トークン”を発行し、支援活動をポイント化。
子どもが自立した段階で、その貢献者に報酬を分配する仕組みです」
「……子育てって、投資だったっけ?」
「未来では完全に投資です」
「いやいやいや、ちょっと待って、近所のおばちゃんにインセンティブ発生するの!?」
「はい。“おせっかいDAO”です」
「勝手にDAO化すんな!」
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一人の母親が叫ぶ。
「あなた、育てたことないでしょ!? こっちは寝不足と戦ってんの!」
「そうです。育てたことはありません」
「なのに何が“DAO化”だ!責任取れんのか!」
「だからこそ、制度を見直す余地が見えるんです」
「屁理屈やめろー!!」
俺はペンを置いた。
場は混乱しているが、俺の任務はもう半分終わっている。
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「問いは残りましたよね?」
「……は?」
「“なぜ子育てが孤立してるのか?”、“なぜ親が一人で責任を背負ってるのか?”──
その問いが制度に残れば、もう再起動は始まってます」
会議室がまた、静かになった。
一人、会議の参加者が小さく呟いた。
「……確かに、子育てって、いつから“自己責任ゲーム”になったんだろ」
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俺は満足げに立ち上がる。
制度は変わらなかった。
でも問いだけは、そこに置いてきた。
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そして未来へ戻る間際、最後に言い残す。
「なお、3年後に“育DAO”がベンチャー企業によって実装されたのはまた別の話である──」
【次回予告】
第2章:未来人、NFTで家族契約しようとしてさらに怒られる件
「家族って“絆”じゃなくて“プロトコル”でしょ?」という爆弾発言から始まる制度破壊回!