最強 無敵 頂点 なのに底辺
自分は強い、才能もあり努力もする、経験も積み続けている、隙など皆無だ。
悪を倒した。怪物も邪智な王も暴虐の王も魔王と呼ばれていた者も一振りで倒した。
誰もどれも殺しはしなかった。復讐に身を燃やし炎が自分に燃え移り傷つけることを期待したからだ。
だがこの身に傷は未だに無し。殴られようが切り刻まれようが傷などつかないだろうがそもそも復讐に向かってくる者などいなかったのだ。…何故だ?
自分は不死身ではない歳も取るし病気にもなる。なら自分の死因は己の身からか?答えは否であった。
才能も努力も身を治す為に全力を注いだ。
最強、無敵、頂点であろうと死には恐怖を抱くし単純に怖いのだ。
自身の力を遺憾無く発揮した結果、病を跳ね除け歳という概念すら退けた。…すごくない?
長い年月寝る間すらも惜しみ鍛錬、鍛錬、鍛錬、正直飽きるけどここままでくると趣味と日常になってるので結局寝る間を惜しんで鍛錬、鍛錬、鍛錬。…誰か褒めてぇ
ある日たまには外食をしようと貯金箱を開けてなけなしのお金をもって近くの村に向かったが記憶にあった場所に村はなかった、つうか人がいなかった。怪物の類では無いと思うのだがどういうことだ?
廃村?を散策してみると看板が立っていて絵が描かれていた。絵のクオリティ的に子供達が描いたものだろうか内容を見ると「この村」「四角い銀色の下に四つの黒丸」「街」うーん真ん中のはわからんがもしかして引越したのか?え、村単位ですごいな。…まじかぁ
どうしよっかなぁいつもこの村の食堂に来てご飯食べながら子供達に自分の修行すげぇって褒めてもらうのモチベーションの一つだったんだけどなぁせめてどこ引っ越すか教えてくれたらよかったのに、あぁでもだから看板描いてくれたのか絵ってところも自分が古い人間だから今の言葉解りづらいって分かっててくれたんだろうし。
しばらくどの街に行ったかの看板かなんかを探したが何も見当たらなかった、というかもしかして結構な年月が経ってしまっているのだろうか廃村じゃないか転村の家屋はだいぶ朽ちてしまっている。むしろあの看板が奇跡的に残ってた感じだなこりゃ。
うーんこういざ人との触れ合いを欲した時にいないとなると欲が溢れてくるな、お前は凄いのだと、強いのだと言われたい。てかマジで魔王倒したんだし自分もうちょっと賞賛浴びても良いでしょ今んとここの村に居た子供達しかすげぇって言ってくれてないぞ。
よし!決めた目立って褒められに行こう、否!もっと欲深くチヤホヤされに行くぞ!!うんじゃ早速人がいる所探すかぁムムム、おっと結構遠くだが感じるぞ、人の多さ的に街だろうかちょうど良いいっぱいチヤホヤされたいしここにしようヨッ
ッと着いた!ほへぇ門越しだけど凄い人だなぁそれになんか来てる服もオシャレというかカラフルというか、自分の格好の貧乏臭さが目立たないと良いけど。
「⚪︎×△▫︎」
え、なんて言ったんだろう?門を潜ろうとしたら門番ぽい人に止められてしまった。自分の喋りじゃ古臭いだろうしジェスチャーで聴こなかったとやってみるともう一回言ってくれた。
「⚪︎×△▫︎!」
え、なんて言ったんだろう?思わず2回同じことを思ってしまった。もしかして想像以上に時間経ってるのかなぁまさか言葉が理解出来ないレベルとは。一応中に入りたいと声とジェスチャーで伝えてみるがなんだコイツって顔された。…泣くぞ
うぅんなんか黒いブーメラン?いや良く見るとごちゃごちゃしてるし持ち方も変だなでもとりあえず警告されてるのは雰囲気でわかるぞ、ど、どうしよう、確か門番もう一人いたよね、あぁいたいたこっちはちょっとオシャレになってるが伝統的な魔法使いだろう大きい杖持ってるし!言葉通じるかも!つか魔法使いが門番って動くの好きなタイプの魔法使いさんなんだろうか?
「▫︎⚪︎△×」
わぁおダメそうウッソだろ服だって伝統残してんだから言葉も残せコラ!ヤッベどうしようまさか言葉学習するところから始めないとだめとかやぁだぁ〜…う?なんか大量の人がこっちに向かってません?てヤベ人多すぎて気づかなかったけど小さいけど悪い奴の気配あったよ!さっさと倒す…いや待てよこれは渡りに船という奴では?これをカッコよく倒せば…ヌホホ笑っちまいますぜチヤホヤがこうも目の前に転がるとはな!
てなわけで門番無視して街の中央に来ました。にしても小さい気配の割に大きい怪物ですね。やったぜ大きければ大きいほど目立つからね、よしじゃあさっそくシュチュエーションの確認だ!自分はこの怪物の奥にある建物に入ろうとまるでそこには何も居ないかのように歩く、そしてあの怪物が襲いかかってきた刹那!自分の一太刀が怪物を一刀両断して鞘にシャキンと刀を収める、そしてまた建物に歩いて行く、おいおいカッコ良すぎてチヤホヤ通り越してモテ期来るぞこれは!歩いて近づいている間に同じ格好した人たちが集まって来たし観客もいい感じぃ!…え、殺しはしないんじゃないかって?知るか!復讐来ないし意思疎通出来ないならもう知らん全力で切る!
―――
「止まれ!」「聞こえないのか!止まるんだ!」
クソ!いくら一般人には見えないからってあんな強大な怪物の気配肌に感じそうなものだが、お陰に声も届いてなさそうだし、どうする、どうする私!
「隊長!どうしましょう!」
「今考えてるの!!」
誰かに助けさせる?いや私含めてあの怪物相手に無傷で救助は難しいよくて致命傷悪くて即死!そしてこのメンバー誰が欠けてもあの怪物には勝てない、脳が答えはとっくに決まっているとあの青年を見捨てろと言ってくるがそれでも脳をフル回転させて別の答えを出そうとする。クソクソクソ!どれもこれも実現性に欠ける。
「あぁ!!もうクソが!」
「た、隊長!無策で突っ込んだら!…え」
なんとかなれと思いながら青年に突っ込もうとすると怪物の動きがピタッと止まる。何故かはわからないがチャンスなことには変わりないとにかく青年を助けようと手を伸ばすと
全身を切り刻まれたかのように感じた。
え、え、私、体あるわよね?思わず怪物が頭上にいることも青年を助けることも忘れて体をペタペタと触るもどこも怪我していないしむしろ塵の埃も纏っていない。大丈夫よね、ね?
「隊長!!」
メンバーの一人が駆け寄ってくる。きゃ、客観的にはどうかしらもしかして死んでたりしないわよね私。
「ね、ねぇ私、大丈―――」
言い終わる前に勢いよく抱き抱えられて怪物から離れる。そういえば居たんだった怪物、でもずっと静止した状態から動いていない?どういうことだろうか。
「無茶しないでください隊長!うげぇもう今日だけでどんだけ隊長って叫べば良いんすか!」
助けられたってことは生きてるってことよね良かった、なんであんな感覚に陥ったかはわからないけどあの怪物の能力なのかしら。
「ごめんなさい、助かったわ怪物と青年はどう?」
「怪物はずっと止まっています、青年の方は結局何にも気づかずギルドの中に入って行きましたよ。きっと運とかカンストしてますよあの子」
その言葉に安堵しながら目の前の怪物に注視する、何故動かないのかそれはわからないが青年が居ないならやることは一つ。
「全員で全力でぶっ放すわよ!じゃないときっと倒せないわ!」
『はい!』
メンバー全員で息を合わせ力を一点に集中させていく、そして溜まった力を怪物に目掛けて放とうとすると。
「隊長…あれ」
「石化…死んだ、いや死んでいたってことね」
何故?あの青年が?いや何も動いている様子はなかったただただ歩いていただけ、あの青年に疑問があるとするならこちらの呼びかけに反応しなかったことだが耳が悪いだけだろうし。なら怪物が自滅を?いやそれなら爆発の一つでもしそうなものだ致命傷を負っていた可能性の方が高いか。
「私は怪物の死因を調べるからお前たちはさっきの青年を探してもらえるか?一応現場にいたから怪我の確認とか事情聴取をしないとだからな」
「わかりました!」
ギルドの中に入って行く隊員を見送りながら怪物に視線を向ける。結局何故死んだのかしら、仮にもし仮にあの青年が殺したとしたならこの怪物なんかよりよっぽど恐ろしい何かだ。
しかしそれはまず無いように思う、青年の腰には東の島国特有の武器を携えていた。見栄の為のお飾り武器の可能性もあるが持たされている感じはしなかった少なからず使い慣れてはいるはずだ、戦うなら当然使うだろう。
だがそうすると今度はこの怪物にあるはずの切り傷や切断された跡が存在しない、一つもだ。
ならばと何か病気か体内に致命傷を受けていたのか、石化した今、確認するすべがない。怪物は死ぬとこうなるから厄介よね生きている間一般人には見えないくせに死ぬと見えるようになるし。
しばらく調べて見ても結局死因はわからずじまい報告書書く時こりゃ怒られるわね、せめて青年の事情聴取だけでもしっかり書かないと、そう言えばみんな遅いわね、ギルドは広いって言っても今は避難してるからとっくに見つかっていそうだけど。
「た、隊長!い、いません何処にも!」
…報告書、偽装しようかしら…じゃないと怒られるうえに泣かれるは絶対これ。
「私も探すから意地でも見つけるぞ!じゃないと叱られる!」
「は、はい!」
絶対見つけるぞ青年ッ!今月のボーナスで最新の空飛ぶ箒買う予定だったんだぞコラッ!
―――
やっばやっべやばば、どうしよぉバレたよね絶対、あの隊長さんと呼ばれてた人切っちゃたよぉ!すぐさま直したから怪我は無いはずだけど体ペタペタ触ってたし!間違いなく気づいたよねぇ!
まさか助けにやってくるとは思わなかったよ、すんごい自分弱そうに見えたのかな、もっと強者感出せば良かった。
しかもせっかく入った建物には人っこ一人いないしさぁ!だけどよく考えたら避難するよねぇ!あたりまえぇ!どぉしよ、このまま出てったら隊長さんになんか言われるよ…逃げよう。
てことで街から出て来て草原で野宿ですよちきしょうとりあえず明日は現代語を覚えよう、でぇじょぶだ見た目はナウなヤングですぜ自分!
―――
どうなっているの?結局青年は見つからず上司に結局怒られて泣かれてボーナスは…守りきったが満身創痍で家に帰り、風呂に入ってみれば。
「無い…私の古傷が」
体の殆どが傷だらけだったはずの皮膚は絹のような美しさを放つ肌になっていた。
「何故…いや原因は怪物か青年か…か」
どっちかで言うと青年だろうが何をした、何をされた?一切気づかずに治療をしかも治せないと言われていた傷達を一瞬で行ったとでも言うのだろうか可能なのかそんなことが?
まだあの怪物が特別な力を宿している方がしっくりくる。だからこそ何処かで襲われて致命傷を負い暴れていた…あれこっちじゃない?もしかして辿り着いちゃったかしら真実に(違う)
分かったからにはこの治った傷を証拠に報告書再提出したら上司も多少は怒りと涙を抑えてくれるだろう、てか抑えろ。
ボーナスが安全圏に入ることに安堵するが結局青年への疑問は尽きない何故見つけれなかったのかだ。
あのギルド本部は建物として致命的な欠陥がある窓がなく入り口が青年の入っていった正門一つしかない。機密性とか色々言ってるが絶対設計者のエゴの塊でしょあれ。
だがだからこそどうやって居なくなったのかが気になるワープの類いを使える?ならば危険な魔法の秘匿に入り捕まえねばならない。何か条件付きで使える?なら結局報告義務があるがそれを行っていない青年は捕まえねばならない…どちらにせよ捕まえるしかない。つまり探すことは確定している…ワープ持ちを逮捕するとか無理すぎない?
考えたら萎えそうだしもう寝よ。
―――
………現代語難しすぎない?ぴえん。