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前編


「…………ってことでまた………勉強教えてくれる………?」


少女は答案用紙を手に持って見せながら、引きつった表情で尋ねた。


「……英語が…………3点……………」


少年は見せつけられた紙に書かれている点数を読み上げ、大きくため息をついた。


「こっ………この前よりはできるようになったんだよっ!!」


少女はカッコの中を指さして、普段よりも少し大きめの声で主張した。

そこには「be」と「off course」と書かれており、少女は先ほどより少し自信がなさげに言った。


「あ……ほら…………えぇっと………び……ビーは『なる』みたいな意味で………おふ……オフコースは…………電源切るコース、みたいな……」


「『もちろん』な」


少年は重ねるように訂正した。


「んぐッ………」


「ってか、ちゃんと分ってねぇならいちいち意味言おうとすんなよ。見苦しいだけだぞ。」


「うぐッ……………」


少年にボロボロに言われて続け様に悔しそうな声を出した後に少女は再び大きな声で叫んだ。


「うっ………蓮くんが全然教えてくれなかったからだよっ!!」


それを聞いて「はぁ?」というような表情で少年も言い返す。


「いや、オレはちゃんと教えてやったんだが…………?それより紅葉がオレに頼りっきりだったのも悪ぃだろ。」


オレがそのように無慈悲に言い放つと、紅葉はしゅんと落ち込んで黙ってしまった。


「…………ごめん、ちょっと言い過ぎたわ…………」


少し間を置いてから、オレは目を合わせられずに壁の方を向きながら謝った。

すると視界の端の方に見える紅葉はオレの謝罪を受け入れられず、そっぽを向いてしまった。


「………………」


オレは「今度はちゃんと目を見て謝ろう」と思って正面を向くと、紅葉の両側から小さな手が出てきた。

その2つの手はオレの脇腹にくっつき、紅葉と目を合わせた途端にむぞむぞとするような感触が走った。


「あっ……ははははっ!ちょっ…………ヤバっ……ぅあっはははははっ!!」


オレがゲラゲラと笑う様子をみてたまらなくなったのか紅葉はもっと指を速く動かし始めた。


「やっぱこちょこちょ弱いんだねぇ」


「紅葉のがっ……ヤバっぁはっはははっ!!」


紅葉は拷問のような行為をしつつ、オレに再び尋ねた。


「ねぇ蓮くぅん………英語の勉強、教えてくれる?」


オレは抑えることのできない笑いを必死にこらえながら何回か首を縦に振りながら言った。


「おッ………教えますっ!!教えるからっ………やめてぇ………っあははは……!ははっ…………」


「ありがと♡」


やっと終わったか、と一息ついて声を震わせながら紅葉に言った。


「はぁ………あんまりにも強引だろ…………断れねぇって…ぶぁはははっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!………」


幼なじみとはいえとてつもない弱味を握られてしまったなと思い、きっちりと口を閉じてもう文句は言わないことにした。


「あぁ分かったよ………やりゃあいいんだろ?やりゃあよ…………」


キーンコーンカーンコーン………


すると唐突に完全下校5分前のチャイムが鳴ってしまった。


「あっ、さっさと帰んないとっ!勉強は明日ね!どうせ暇でしょ!」


紅葉は慌てて帰る準備をしながらオレに向かって言ってきた。


「なんだよどうせって………」


そう否定しつつもまたもやくすぐられたら下校時間に間に合わなくなってしまうので、オレも紅葉と同じように帰る準備をした。

こんな時こそ廊下は走るべきだ、と言わんばかりに校門をめがけて全速力で走った結果、なんとか5分以内に学校から出ることができたが、


「あいつ………走るの速いな……………」


いつの間にか紅葉を見失ってしまって、少しだけ寂しい気分になった。


(………もうちょっとくすぐってくれても良かったのにな……………)


オレはしょんぼりとしながら独りで家まで歩くことにした。



翌日────

目がパッと覚めて、今日は土曜日だということを思い出した。

オレはとりあえずベッドから体を起こし、朝食を食べるためにリビングへ向かった。


「いただきまーす………まぁ誰もいないんだけどな…………」


食卓に置かれた朝食はすっかり冷めてしまったが、食べるものがあるだけ感謝してもすもすと食べ始めた。


そして今日は両親2人とも出勤日なのでこの家にはオレ1人しかいない。

すなわち!何をやっても!自由………


「おっ邪魔っしまーす!!」


いかにも英語が下手クソそうな声によって最高の気分がぶち壊されてオレは絶望のどん底に蹴り落とされた。


「あ、食事中?私も一緒に食べとくね〜」


モグモグモグモグモグ………


オレの大好きなウィンナーを丸々食べてきて殴り飛ばそうかと思ったと同時に、マナーが無さすぎて口から自然とものすごく大きなため息が出た。


「……っ!これすっごく美味しいね!」


「あぁ、お前のせいでオレは何を食っても美味しくなんか感じねぇようになったがな。」


「相変わらずひっどい言い方するねぇ蓮くんは」


モグモグモグ………


「はぁ……………」


なんだか今日はよくため息が出る日だ。依然として理由が紅葉で確定なのは間違いないが。


「いつまでもモグモグしてねぇでさっさと飲み込めよ、そろそろ勉強するぞ。」


オレは軽く「ごちそうさまでした」と呟いてから、勉強をするスペースの確保のために食器たちを机の端にどかした。

紅葉も机の上にドサッと勉強道具を置いてノートを開き、「よし!やるぞっ!」と威勢よく意気込んだ。


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