アルバターラの回想【11】
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マルジュの話は続いていた。
「ちなみにラダおばさん、親父はスラジャとの婚約を止めるどころか俺より進めてたよ」
ラダは立って居られなくて椅子に座り込んで項垂れ、両手で顔を覆った。
ラウルは確かにショックを受けていたが妙に醒めて何もする気が起きなかった。
ダハブに対する怒りはあったが怒りよりもやるせなさと嫌悪が勝っていたのだ。
ただこの中で自分だけが関わりが薄くて何もする資格が無いとの思いがあった。
両親と妹とナージャ親子に比べラウルは疎外感と無気力感があった。
マルジュはサイマーに言った。
「サイマーおじさん、どうです? このクズっぷり。ラダおばさんは親父に騙されて身体まで差し出して、気の毒にならないですか? ハハハッ」
やめてよ!
もうあんた達にはウンザリよ!
この疫病神親子!
ラダは甲高く叫んだ。
ラウルもずっと抱えていた言葉だった。
自分達の家族にとってナージャ親子は疫病神だった。
やっと母が言葉にしたのを聞いてなぜか安心した。
俺は偽善者だ。
サイマーは絶句していたが、ラダの言葉に励まされたのか、静かに言った。
「ラダの事は責められない。ダハブ、お前たちにはもうたくさんだ。もう関わるのも御免だ。ただ筋は通そうと思う。スラジャをマルジュに嫁がせる。これでもう終わりにして欲しい。ずっとずっと終わらせたかったんだ。これで終わりだ。わかったな?」
ナージャ親子は引き上げて行った。
サイマーはラダの手を握っていたが何も言わず無言だった。
全身でラダの不義を許して慰めているのがわかった。
ラウルはこれであの親子とは終わったのだと言う安堵を味わっていた。
が、1人寝室で考えた。
安堵感に包まれながら、スラジャを生贄に差し出して筋は通したとする父に疑問を持っていた。
これは本当に仕方のない事なのかと。
ただ、父に反発するには母も自分もナージャ親子に疲れきっていたのだ。
翌朝、スラジャの為にラダはいつもと変わらぬ様子を見せていた。
朝の食卓で顔色の悪いサイマーがスラジャに改めて頼んだ。
意にそまぬ事はわかっているがなるべく早く婚礼を行うこと、その代わりできる限りの贅沢な準備をしてやると。
スラジャはなぜか何も言わず食事を終えたら馬の世話をしに出ていった。
ラウルはスラジャが自分と話したくて厩屋で待っているだろうと判っていた。
どうしても気が進まずわざとダラダラと食事をし、身支度をした。
そのままギルドにでも出かけたかったが、ここまで何も出来なかった情けない兄がまた逃げるのかと思い直し、スラジャに会いに行った。




