アルバターラの回想【2】
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現在レギオ4名で情報共有がてら一緒のテーブルで食事をとっている。
王宮総支配人と王宮博士と王宮税務官と高級妃の食事だから召使いは気を使って仕方がない。
アルバターラはこの間のフェゴの苦手な女の話も聞けていないが、オランジャが居るこの場では女性の話もしにくい。
ああ、休みが欲しいな。
アルバターラは実は女性に縁がない。
もちろん街に出かける事は多いからそこで娼婦達と戯れる事もあるし気前よく遊ぶからモテてはいる。
気に入ってる女性もいるがそれは縁があっての仲ではない。
なぜこんな事を考えるのかと言うと、先王が生きていた去年のこと、サプセンに行った時に一瞬見かけた不思議な女の事が忘れられないのだ。
言葉を交わした訳では無い、目すら合わせていない。
森でアルバターラの前を通り過ぎただけのネイビー色のローブを被った女のチラリと見えた顔がもう忘れられない。
それほどに美しかった。
一瞬見えたあの瞳。
ミルクに紫ワインを注いだ様な白濁した薄紫の瞳にアルバターラは心を持っていかれてしまったのだ。
またサプセンに行きたい。
あの妖精のような女の正体を探りたい。
それなのにアルバターラは今のような仕事に忙殺され不自由な日々が堪らなかった。
向かいに座っているオランジャを見れば確かに美しい。
小さい顔に若草色の瞳と眩しい赤毛のコントラスト。
頬も腕も胸元も抜けるように白くて柔らかそうな肌は誰でも触りたくなる。
猫のような女だ。
イブリンが本気で着飾ればオランジャに負けていない。
麗人とはイブリンの事だ。
神聖で崇めたくなる女神の様な美しさ。
そしてあのサプセンの森の女の美しさは月だ。
月のように近づき堅くて月光の妖精のように生気を感じられない幻の様な女。
「アルバ、 さっきからなにこっち見てんのよ?まあ見とれるのは解るけど」
アルバターラの視線が邪魔になったオランジャが不審そうに言った。
「え? 綺麗だなと思って」
アルバターラは正直に言ったがオランジャの愛らしい唇は驚きで半開きになって視線は下に行った。
サピエンマーレはショックを受けていた。
フェゴムーシュには敗北感があったがアルバターラまで!
変な雰囲気の食卓になったので早々に解散となった。
アルバターラはまた寝台で考えていた。
そういえばお袋は美人だったんだな。
火山が多いカラセンでは森はなく、狭い草原があるだけだ。
谷にある草原は川の水分で草が茂っているが山の中腹では雨水や雪溶け水が染み出した水分で疎らな草原があり、貧しい者ほど高地に住んでいた。
水がある限られた土地は奪い合いになるので弱肉強食の世界なのである。
山のふもとの比較的水が豊富な草原と岩に囲まれた村でドゥクスである家を中心にそれぞれ生活を営んでいた。
狭い平地と険しい山地、水が貴重なこの土地は貧しいかのように思えるが決して貧しくはない。
ただ貧富の差が激しく多くは貧困者だがひと握りの豪族が桁違いに富んでいる。
ドゥクスとは、村長の様なものであるが別に村長は存在する。
村で1番実力のある者がドゥクスになり、前のドゥクスが村長になった。
ドゥクスに権力が集中しない工夫なのである。
歴代ドゥクスの多くが鉱山採掘者である中、現ドゥクスのサイマー・ゲネトは狩人であった。
高山山羊や兎も狩るし、凶暴なライオンも何頭も仕留めている。
だがサイマーが誇るのは竜狩りだ。
赤竜を狩れる者は少ないが、その中でもサイマーほど見事な狩りをする者はいない。
村が誇る英雄なのだ。
サイマー・ゲネトは妻のラダ・ゲネトの間に長男のラウルとその妹で長女のスラジャがおり、家族4人でドゥクスの家として村の中央に家を構えていた。
この家族に確かに幸せな時間はあった。
アルバターラはその時間を思い出そうと過去の記憶を探る旅に出た。




