塔のエイブルニア【2】
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「オランジャ、良かった無事だったのね?」
「それはコッチの言う事よ。私はアンタほど悪くないわよ。馬糞女ってのは今はアンタの事だわ」
オランジャは軽口を叩いた。
ガリガリで垢で汚れたエイブルニアに袋を押し付けた。
中にはハム、パン、甘人参、蜂蜜、チーズ、ハーブやお香、糠袋などが入っていた。
滋養と清浄はエイブルニアに必要な事だった。
チーズをむしって口に入れながらエイブルニアは感謝を述べた。
オランジャはエイブルニアが正気を保っていた事に安心した。
私なら簡単に発狂してるわ。
さすがイブリン、並の精神力じゃなかった。
「そうでもないよ。アンタが幻覚に出てきた時はヤバかったわ。ふふふ、たくさんたくさん考え事してたらコツ掴んだの。寒いと思ったら夏の木工小屋で倒れかけた暑さを思い出したり、悲しい事を思い出したら過去に頭に来た事を考えたり、すぐに真逆の事を考えたら冷静になれるのよ」
オランジャはエイブルニアの強さに関心どころか少しウンザリした。
こんな女に張り合おうとしてたなんてバカだったわ。
オランジャは伝えた。
「アルバターラが言ってたの。バジルーは王の地位と権力以外は放棄してるって。だからイブリンの事も忘れかかってて近いうちに救出に行くって」
エイブルニアは少し考えてから言った。
「アドナルが自分が仕える王を自分で探せって最期に言ったの。バジルーを倒すには角が必要だわ。王に頂きたい人物に角を渡してバジルーを倒してもらわなきゃならない。空きの角はディル分とリッテ分の2本しかないから失敗は出来ないわ。角は保管の呪文で守られてるの。今からその呪文を言うから、覚えて」
「待って待って」
オランジャは実は角の事も王の交代劇もあまり明るくない。
「私、あんまり解ってないからサピエンを連れて来る。しくじれないんなら、尚更私じゃダメよ」
エイブルニアはせっかちな話をオランジャに詫びた。
「そうね。ごめんなさい。今から王候補を手分けして探すとなると凄く時間がかかるだろうって思って。理想の王に出会える可能性って本当に未知だから、つい焦っちゃって」
理想の王⋯
オランジャはレギオのみんなは理想の王像があるのだろうか?
私はそこから考えないと。
角や大陸の事ももっと知らないと。
オランジャはつい最近まで自分の心を立ち直させる事でいっぱいいっぱいだったのだ。
「私、自分の事ばかり考えてたけどこれからはそういう責任も負わなきゃいけないのよね。これがレギオになった代償なんだわ。ちなみにイブリンはどんな王が良いの? 先代王は悪くなかったんじゃない?」
オランジャは今ならハッキリと解る。
呪い王にとって自分はただの興添えであったのだと。
エイブルニアはじっとオランジャを見ている。
「なによ? なんか失言した?」
私が今まで仕えたいと思ったのはオランジャ、アンタだけよ
エイブルニアが見た幻覚の中のオランジャは女王のオランジャだった。
そんな事は口には出さない。
第一レギオは王にはなれない存在だ。
「私もまだ解らないから考えとくわ」とだけ言った。
サピエンに女装させて来させるからと二人で笑ってからオランジャは引き上げて行った。




