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レッキス!レッキス!  作者: 山本まぬ
2代目:小器の老王
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塔のエイブルニア【1】

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 2代目の王バジル―王は先代の王の女弟子の呪いによって角を持つ身となったが、角だけではない。

 呪い王の女弟子の大魔女ランダは既に死後60年になろうとしていたにも関わらずバジル―王を守っていた「竜の角」をも呪いで潰し去り、あわやバジル―までも消し去る寸前で力が尽きてしまった。

 この時の死に際に浴びたほんの少しの呪いがバジル―王に時が経つごとに深く沁みていった。

 魔女ランダは先代の呪い王の弟子ではあるが、確実に呪い王よりも強かったと思われる。


 そのランダの呪いは一番にバジル―王の生殖器を消滅させ、まだ若かったバジル―を醜穢(しゅうわい)な老人に変えた。


 そのようにすればバジル―にダメージを与えられると考えたのかもしれないし、王宮の女性たちを守るためにしたのかもしれない。

 ただ怒りに身を任せた偶然の結果かもしれない。

 が、こんな姿になってもバジル―王の性欲は衰えず、王宮の女性たちの悲劇は毎夜起こっていた。


 先王の寵妃のエイブルニアも真っ先に犠牲になった。

 (とぎ)に呼ばれたエイブルニアは男性器の無い王に触られたりするだけだと震えながら我慢して耐えていたのだ。

 老王がニヤつきながらエイブルニアの太ももを舐めまわし、脚を開かせた。

 ひいっ! もう耐えられない!

「別嬪さんよぉ、俺が何にも出来ないと思って舐めてるだろう?」

 私の太ももを舐めてるのは貴様だ!

 もう限界だ!

 と思った時、局部に鋭い痛みが走った。

 あろうことか、王の額の角で貫かれたのだ。


 エイブルニアはあまりの嫌悪感と怖気で痛みも忘れて貫かれた直後に王の頭を蹴り飛ばして薄い夜着1枚で寝室から逃げ出した。


 すぐさま衛兵に捉えられ、北東の角にある塔に幽閉され、毛布一枚で床に寝かされ、食事も冷えたスープと古いパンが日に1回出るだけであった。


 王はエイブルニアの不敬に怒り狂ったがエイブルニアのレギオの名「ガスビス」というのを知らなかった為、殺すことが出来ずに塔から出せずにいた。

 数回、にやにやと王が訪ねてきて謝罪して意のままになるならこの寒々しい塔から出て毛皮に宝石に暖かい美食を用意すると言ってきた。


 エイブルニアは王を見ただけで、声を聴いただけで奥の便所に駆け込み吐いた。

「一生ここにいる方がゴブッ⋯マシだっつーの!プハッ」

 便器に向かってエイブルニアはえずきながら叫んだ。

 物理的に王と同衾は二度と出来ない。

 精神に異常をきたすだろう。


 王は他のレギオにエイブルニアの話をする事すら許可しなかった。

 エイブルニアの行方は知れず、既に消されているのではないかとレギオ達4名は覚悟した。


 塔に幽閉されているエイブルニアは何度も幻覚を見るようになった。

 しかし、強靭なエイブルニアは自分の精神が危険であることを理解している。

 自覚があるのだから、乗り切れる!

 アドナルは希薄になりがちの魂だけで60年も自身を保ってきたではないか、まだ1つきも経っていないのだから。


 塔で様々な事を考えていた。

 アグニシュの事、ディルの狂気、リッテルメレの軽はずみな裏切り、可哀そうなべオアルコンと気の毒なオランジャの事、イーライの事。

 王よ、呪い王と呼ばれたイーライ。

 野心への執着が過ぎ、運命に翻弄されながら魂を込めてレギオを助けてかき消えた底知れない人だった。

 エイブルニアはイーライを想って涙を流した。


 エイブルニアが痩せていき垢に汚れてきた頃、老王にランダの呪いが沁みわたり自慢の性欲も無くなったようだ。

 アルバターラが何を言っても興味無さそうで毎日王の寝室のベッドメイキングの奴隷から抜けた歯を見せられた。

 アルバターラは王に状況を尋ねた。

「歯が抜けておられるようですが、お身体に悪い所があるのでしょうか? 支配者であられるのですから大陸の事にも向き合っていただきたいのですが、そんなにお悪いなら私が無難に計らっておきますが」

 王はフガフガと抜けた歯の間から息を漏らし、イラついた口調でアルバターラを叱りつけた。

「俺の歯はあの黒髪の女が顔を蹴ったからだ! 一生塔から出すもんか! 俺に何かやらそうとするな! お前がやっとくんだ!」


 塔⋯だと?

 この居住区には幾つかの塔があるがそのどこかにエイブルニアは閉じ込められているのか。


 エイブルニアはあんなおぞましい目にあっても泣かなかったが、イーライを想うと涙が止まらず思いっきり泣いて泣いて割とすっきりした。


 私はイーライが好きだった。

 ただ、最初からアドナルには敵わないから認めなかっただけで。

 アドナルほどイーライを愛せないし、アドナルほど強くなれない。

 今やっと素直に悲しさを認めたから、私はもっと強くなれる気がする。


 下層の王宮女中が塔に粗末な食事を運んできた。

 食事を置いて、またその女中の頭くらいの袋を置いた。

「今は出してあげられないけど、絶対出してあげるから、もう少し待って」

 と、女中は言った。

 オランジャの美声で。


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