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レッキス!レッキス!  作者: 山本まぬ
2代目:小器の老王
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フェゴムーシュの回想【9】

 54

 黒いローブの男の顔は見えない。

 ハイコは食事を止め立ち上がり、右手を鳩尾(みぞおち)に当てて一礼した。

「良い。食事を許す」

 と若い声で言い、なぁんてなと大柄な男はフードを脱ぎ、向かいの椅子に座った。

「俺もワイン休憩だ。お前も飲め」


 濃い色の肌、黒い長髪、羨ましい程の見事な体躯、どういう御仁かは存ぜぬが⋯これは相当強いお方だ。

 テキパキとワインを注がれ、やれと即された。

「かたじけない」とハイコは警戒を解き逃亡の意思は諦めた。

 そのワインを飲んで衝撃を受けた。

 こんな上品で上等で旨味の強いワイン!

 奇跡の味だった。

 ハイコの様子を見て男はニカッと笑う。

「美味いだろ? 最近の俺のお気に入りだ。さて、王宮総支配人のアルバターラだ。ハイコ・ダルノ、うーんいや、イオナンタ」


 バレていたか。

 貴族を特定するのは容易(たやす)いから仕方ない。

「アルバターラ様、我は盗人ではござらん。金を盗んでなどおりませぬ」


 ワインを飲んで美味いという顔をしてからまたグラスに注ぎながらアルバターラは言った。

「知ってる。だからそれは気にするな」


 視察官が誤魔化しをやって金を(かす)める事は王宮では想定内なのだという。

 だから貰える手当も最初から低賃金なのが視察官という職業なのだと。

 お前はただ単に上司が聞きたくもない指摘して上司に嫌われて盗人に仕立てられて始末されることになっただけで、珍しい事でも無いのだそうだ。


 ハイコはその事実に(いきどお)ることも無く、そういうルールの世界もあり、いかに自分が無知だったかを理解しただけだった。


 だがその無実の盗人が腕が立ち、読み書きが出来、教育しなくても使える程の人間なら話は別で、処刑するのも勿体ないから拾いに来たと言った。


「ハイコ・イオナンタ、視察官の仕事に空きが出来たからやらないか? やるよな? 空きができた理由は聞くなよ。賃金は安いが少額のちょろまかしや収賄は見逃してやる。お前は護衛は要らないよな?」

 ハイコは視察官という名の地方からの税取り立ての仕事を貰った。

 内容は単純。

 地方領主に納税目録を出すように催促し提出してきたら内容に誤魔化しが無いか調べる。

 最終的な目録通りに納税させる。

 センクィーに持ち帰る。


 ここに目溢(めこぼ)しや滞納や遅延を許してもらう為に賄賂を握らせて来たり、接待され減額に応じたりのやり取りが入るのだがハイコはそういうやり取りはすっ飛ばして一切待たずに確実に目録通り王都に持って帰ってくる、融通が効かないすこぶるイヤなタイプの取り立て人だった。


 取り立て帰りに襲われる事も数回、荷を奪われたら何日でも執拗に追い、取り返し王宮執務にキッチリ納め続けた。

 地方領主達もも懐柔を諦め、引き止めや引き伸ばしも無くなり迅速に納税をしてきた代わりにハイコへの対応は塩辛く、滞在中の待遇も非常に邪険なものになった。


 ハイコは別段気にしなかった。

 王宮の最上位の総支配人から役人に任命され、王に直接仕えるのだから光栄な事だ。

 馬と共に王宮の重要な仕事をこなし、薄給だが手当を貰えるのはお尋ね者の自分にとって幸運な事。

 今日は日が暮れるギリギリでセンクィーに帰還出来る予定なのである。

 その時間なら食堂で食事が取れるだろう。

 手当で王都の上質な飼い葉を与えてやろう。


 細い街道からもうすぐ王都の大通りが見え、その先に関所の門が見える。

 と、気が緩んでハイコを伺う視線に気づくのが遅れてしまった。


 しまった! 相手の攻撃圏内に入ってしまったか!

 ハイコはすぐに馬を停め大樹に寄り、馬を背にして身構えた。


 我が友よ、お前と荷は我が守るから大人しくしておれ。

 二人⋯敵は二人だ。

 ザッと街道の木々が薙いだ。

 来るっ!


 素早い動きで躱せるのがハイコの得意な戦い方なのだが、視察吏をするようになってから荷を守る事を考えあまり動けない状態の武術も鍛錬してきた。

 今回も荷があるので動けずまともに攻撃を受けながら戦う事になった。


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