フェゴムーシュの回想【8】
53
逃亡の末、王都センクィーにたどり着いたが王宮に務めるならばハイコには武術しか取り柄がなかった。
ハイコ・ダルノと名乗り剣術を披露すると腕を認められて視察官の警護係として採用された。
視察に随行するうちに視察官が徴税の報告を誤魔化し懐に入れている事を咎めると視察官に脱税者用の懲罰牢にぶち込まれ監禁され、金を盗んだという濡れ衣で処刑を待つこととなった。
処刑される身でありがたいことに毎日二食、十分な量の普通の食事が届けられ食事をするたびに死ぬのが嫌になっていった。
なるほど、こういう刑罰なのか。
なんとも恐ろしい刑があるものだと考えたのを今でも覚えている。
懲罰牢3日目の朝、食事は出ず丸々とした中年男と、後ろに屈強な兵士を15人程控えさせて面会に来た。
いよいよ執行されるようだ。
逃亡する方法も、第一、空間も無い。
中年男はこちらに進んで来たがすぐに鼻を押さえて下がってしまった。
「お前、臭い! 身体を洗え! その後取り調べをして飯はその後だ」
兵士が5人ほどハイコを取り囲んで後ろ手に手枷をされ足にも歩けないように枷をされて抱えられて石造りの風呂場に運ばれた。
着衣、枷付きのまま湯船に放り込まれ溺れないように首を板で固定されしばらく置かれた。
執行前に清めろと言う事か?
食事が最期に出るようだ。
ああ腹が減った。
何か食えるならもう処刑されても良い。
また兵士達が入ってきてハイコは湯船から出された。
椅子が持ち込まれ、そこに中年男がどっぷりと座り、後ろに兵士が30人程に増えていた。
「吾輩は使用人頭のウビボタネ(ボタンをどこへやった)だ。今からお前の枷を解くから服を脱いで身体を隅々まで綺麗に洗え。逃げようとか暴れようとかすれば即処刑する。吾輩の質問には明確に応えよ。飯はその後だ」
ハイコは聞いてみた。
「我の処刑はいつの予定か? 色々と我にも段取りがある。食事がしたいから尻の穴を塞ぐ綿と縛る革紐を頂きたい」
ウビボタネはハッと威嚇し
「そりゃ、お前次第だ。決めるのも吾輩ではない。ただし、暴れたらすぐに息の根を止めてやるわい。それは吾輩の権限よ」
ハイコは転がされて枷を解かれ着衣を剥かれ立たされるとサルコファグ(垢すり具)と海綿と石鹸と櫛を渡された。
ウビボタネと兵士達にジロジロ見られ不快だったが無駄のない動きで身体を清めていった。
ウビボタネの声がかかった。
「お前、貴族の出だろう。作法が出来てるじゃないか。読み書きは出来るな? ザナルセンの男は訛りがキツくてすぐに判るわい。腕が相当に立つそうだな。1番の得物はなんだ? ふん、剣か。 やはり平民では無いな。やれやれ、お前を見たいと言うお方がおられてな、あのままお引き合わせしたら吾輩のクビが飛ぶから特別に風呂を使わせたのだ。滅多にお会い出来ない方だから行儀良くな。牢屋暮らしから抜け出せるかもしれんぞ」
ウビボタネは弛んだ腹を震わせて、おい平服を着せろと兵士に命じて風呂場から出ていった。
身を清めて清潔な服に着替えて個室で暖かい食事にありついたハイコは盗みをしていない事をどうやって信じてもらえるものかと考えていた。
ブルブルと脂肪を震わせまたウビボタネが入って来て「失礼のないようにな」と言出ていった後、大柄で黒い革製のローブのフードを頭に被った男が入ってきた。




