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レッキス!レッキス!  作者: 山本まぬ
2代目:小器の老王
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フェゴムーシュの回想【7】

 52

 サッドの告白が始まった。

「あの頃の我は何もかも順調であった。なんら我が働きかけなくとも望み通りの生活、望み通りの未来。それが突然崩れたので我が動かなくてはならなくなったから、手を下したまで」

「次期当主になるためにやったというのか?」

「次期当主なんぞ望んではおらぬ。ダフィネをハイコから取り戻すためだ」

「それならば父上なりに言えば良かったではないか? 我に申せば相談に乗れたであろう」

 サッドは軽蔑するような、自嘲するような表情をした。


「ダフィネと一緒になる。そう思っていたのにいきなり婚約者を変えられてダフィネは弟と婚約し、我は絶望したのだ。父上に頼めば? 母上に押し切られ言いなりの父上に? 『お前の次期党首の座を固めるためだ。ダフィネは諦めてハイコにやれ』と夫婦そろって説教するに決まっておろう。ハイコ、貴様は我がアンギャルカを殺害するかもしれぬと判っておったのだろう? 我のためにあの娘を口説いてくれていたのは知っておった。だがやり方が遅すぎる。サッサと手籠めにでもしてくれれば殺さずに済んだものよ」


 フェゴームーシュは静かに話した。

「別に貴様のためにしたことではない。ダフィネのためである。貴様のような見下げ果てた男でもダフィネは貴様に惚れておったのでな。アンギャルカ嬢は大切にしたいと思っておった。あの少女は生きておられれば素晴らしい女性になったであろうものを」


 サッドはすまなそうな目をして

「我はお前がグスグスしているのを待てなかったのである。その鈍い行動を少し利用させて貰った。弟よ、お前には本当に感謝している。おかげでダフィネを妻にできたし、跡目争いからも逃げられたのだ。そしてお前は生きているだろうことも判っておった」


 妙に冷静なこの兄弟の真実をまだ整理できていないながらもジャバはもう一つハッキリさせなければならなかった。

「ハイコ、お前を追ってきたダイム・ジェマイリの兵たちを覚えておろう? お前の協力者は一体誰だ? 今さら裏切者として罰するつもりはないしお前は無実だったが、誰がダイムを殺したのかは知らねばならん」


 フェゴムーシュは胸に手を当てて答えた。

「ジャバ兄上、我は無実などではござらん」


 サッドはますますジャバを見下すように口を添えた。

「ハイコはイオナンタのどの武人よりも武術を極めた恐ろしい男であるぞ。協力者などなくてもジェマイリ隊くらい全滅させるでありましょう。兄弟の中で悪目立ちせぬよう実力を隠しておったのです。そんなことも見抜けぬとは兄上といい父上といい、真実など見抜けようはずも無いのう」


「黙れ! この嘘つきめ!」

 後ろからドラゴミールが怒鳴った。

 サッドはさらに(あざけ)った。

「我を牢に送りまするか? 今さらマサリク家に引き渡しまするか? 真実は違っても、もう全て終わった話だ。」

 クレオパトーラはただ泣いていた。


 ドラゴミールはフェゴムーシュの前に立ち小声で言った。

「真実は判った。これは不幸な誤解だったのは認めるが、こんな真相は知りたくなかった。なぜ今頃告白しに来たんだ?」

「我は徴貢が正しいかフリンカ家に視察に来たのである。後悔めさるなと忠告申し上げたが熱烈に招待なさったのはそちらの方であるぞ。ご当主よ」

 ドラゴミールはもう聞きたくない。

「もう帰ってくれ」


 イオナンタの屋敷の敷地を出るまでフェゴムーシュは振り返らず真っ直ぐ愛馬たちの様子を見に(うまや)に行った。

 ふむ、飼い葉も新鮮、もう少しマッサージをするよう頼んで疲れをとってやろう


 馬子を探してふと振り向くと(うまや)の入り口にジャバが立っていた。

 さすがイオナンタの騎士、殺気も気配もキチンと消している。

 いつまで経っても気まずそうにしているだけなのでフェゴムーシュが水を向けた。

「何かな? イオナンタの次期ご当主よ」


 王都の上級役人に次期当主と言われてジャバはその責の重さを感じた。

 もうこれは腹違いの弟ではない。

「視察官殿には随分理不尽な思いをさせ申した。当主に代わりお詫び申し上げる」


「貴殿が気にすることではない。我は王都で王の(しもべ)として誇りを持って仕えておる。我が後悔することはただ一つ、アンギャルカを助けられなかった事のみ」


「サッドを恨んでおられぬのか? 乙女を殺し罪を(なす)り付けた卑劣な同母兄を」


「恨むことはできぬ。サッドのおかげでクレオパトーラからの支配を逃れ暮らしていたのだ。恨むなどできぬよ」

 左様、アンギャルカの殺害に怒りがあったし、出奔を余儀なくされたことにも憤ったとしても逃亡途中に精神的開放と爽快感を感じなかったか?

 もう誰の立場も傷つけることなく自分の力を(ふる)える事に歓喜しなかったか?

 自分を殺しに追って来ているとはいえ、父の大事な部下達を荒野で斬り捨てて領境を越えて来た我の罪も深い。


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