フェゴムーシュの回想【6】
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フェゴムーシュはイオナンタの屋敷の客間に通された。
懐かしい屋敷、懐かしい部屋だ。
部屋にはジャバ・イオナンタが居るが当主が来るまではと弁えているのか、話しかけては来なかった。
やがて客間にイオナンタの家族が入ってきた。
当主のドラゴミールはすっかり髪も白くなりひと回り小さくなったように見えた。
異母次兄のディミトリは身体を壊したか怪我を負ったのか足を引きずり兄のジャバよりも老けていた。
同母兄のサッドも入ってきた。
歳を重ねてはいるが未だスラリとしており優雅な笑みを浮かべてこちらを見ている。
むっちりと太った婦人がソファに座り、ドアは閉められた。
母のクレオパトーラは今なお威厳があり美しい。
ドラゴミールは苦々しい顔をした。
「本当にハイコだ」
フェゴムーシュは立場を明らかにした。
「センクィーから参った王の視察官のフェゴムーシュである。我に聞きたい事があるとか」
「とぼけおって! ハイコ! 家に泥を塗って出奔した裏切り者め!」
ドラゴミールがフェゴムーシュに掴みかかろうとしたのをジャバが遮った。
「父上、フェゴムーシュ殿はここに来る事を拒むことも出来るお立場です。かたや我々はフェゴムーシュ殿の襟首を掴む立場にはごさらぬ。ご自重願います」
ドラゴミールは睨みながら一歩下がったが、同時にクレオパトーラが立ち上がり怒鳴った。
「私は許しません! お前がやった事でマサリク家に顔向け出来なくなったのよ! その責任を取ってサッドは次期当主の座を辞退せざるを得なくなった! 全部、全部、お前の! ええ、絶対に許さない。王に訴えてお前を縛り首にしてやるわ!」
ザナルセン地方は農業国としてオーセン地方の次に豊かではあるが、地方は地方。
王に訴えるなどと言うほどに、その程度の認識しかない。
王の強大さを理解していないのだ。
「美しいご婦人よ。残念ながら我を縛り首には出来ませぬな。王が訴えに耳を傾ける相手は10名もござらん。あなた方の訴えなど届かぬでしょうな」
フェゴムーシュは無表情だが、1番後ろにいるサッドを見据えて言った。
「逆に我も聞きたい事があって招きに応じたのである」
しばらく沈黙があったがジャバが応えた。
「何なりと」
「サッド兄上」
フェゴムーシュは敢えて兄と呼んだ。
「サッド兄上よ、アンギャルカ・マサリク嬢を殺したのは貴様であろう?」
ドラゴミールは到底理解の及ばぬフェゴムーシュの問いかけに混乱し何も言えない代わりにクレオパトーラが反応した。
「何を盗人猛々しい! 言うに事欠いてサッドがマサリクの娘を殺したなどと! その口を引き裂いて罰せられるのなら喜んで牢に入りましょうぞ!」
つぃっとサッド・イオナンタはフェゴムーシュの前に出た。
「懐かしい弟よ、如何にも我が婚約者だったアンギャルカを殺したのは我である」
クレオパトーラの膝が頽れソファに倒れこみ身体を震わせたが気丈にもその瞳だけはサッドを見据えた。
ドラゴミールは愛する妻に駆け寄り手を握った。
ジャバは実はこの件はクレオパトーラの息子が起こした事で当主ドラゴミールが既に始末をつけ、次期当主は自分に決まったのだから、さほど大事でもなくどうでも良かった。
だがドラゴミールは老いて取り乱してる訳だから自分が仕切るべきと話を続けた。
「サッドよ、その所業、相違無いのか? 申すべきことを凡て明らかにせよ」
無表情だったサッドは僅かだが微笑んだ気がした。




