フェゴムーシュの回想【3】
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アンギャルカ・マサリクはサッド・イオナンタとの婚約書に署名するためにイオナンタの屋敷に来ていた。
格式を誇示するためにうるさいほど付き添いや侍女を連れてくると思っていたが未届け人と交渉人と侍女2名だけで現れたアンギャルカに好感を持ったドラゴミールは歓迎した。
「ようこそアンギャルカ嬢。これはなんと可愛らしい方であることか。我が息子をお気に召すと良いのだが。」
キョロキョロと屋敷の調度や広さを値踏みしていたアンギャルカは自分のはしたなさに恥じ入った。
それほどドラゴミールの所作は優雅だった。
悪くないわ。立派なお屋敷で豪華な調度品じゃない。
我が家よりも裕福かもしれない。
奥から男が進み出てきた。
クレオパトーラによく似た顔立ちのなかなかの美男子だ。
「我が婚約者殿、この出会いを神に感謝したい。貴方はほっそりとしていて抱えて我はどこまでも行けそうである。」
甘い言葉を無表情の棒読みで言っているのががっかりだけど、この結婚、悪くないかも。
期待をしていなかったアンギャルカはサッドを気に入った。
サッドは終始無表情で無口なのが気になるが物腰は柔らかく、婚約の指輪を優しくアンギャルカの細い指に嵌めてくれた。
ライトブルーの涙型の石が付いたこの指輪はアンギャルガの幸せを約束するような清潔な輝きだった。
「その石が気に入ったなら西にある『天使の泉』に行ってみたまえ。きっと気に入る。」
振り向くとハイコ・イオナンタが居た。
「いきなり声をかけるなんて失礼な。私、婚約したんですのよ」
ハイコは詫びるでもなく、機嫌をとるでもなく、嫌そうな顔をした。
「貴方をぜひ『天使の泉』に案内したい」
あのぉ、言ってる事と表情がちぐはぐじゃぁありません事?
第一なぜ貴方と行くの?
「私もぜひ行ってみたいけれどサッド様と行きますわ」
またまたハイコは拗ねたような顔をした。
「それなら迷子になられる心配はなさそうだ。貴方には我の方が似合いだと思うのだが」
なんとも気持ち悪い事を言って婚約者の実弟は去って行った。
アンギャルカは気持ち悪いような、誇らしいような気持になりサッドにそのことを打ち明けた。
サッドの気を引きたいという気持ちも大いにあった。
サッドが険しい顔を見せたのでアンギャルカはビクッとしたがすぐに詫びられた。
「ああ、修羅の顔を見せてしまって申し訳ない。ハイコが貴方に興味を持つとは思わなかった。ハイコが女性を口説くとは初めて聞く。アレも貴方と次期当主を狙っているのだろう」
なぁんだ、つまり私を妻にして次期当主の座を手に入れようとしてるのだわ。
ドラゴミール様と同じように。




