悲劇の始まり
39
「ア、アドナル‥」
エイブルニアは呪いが何なのか、少し判った気がした。
角を持たないアドナルのドス黒い想い。
魂魄のみになれば長く自我を保てないはずだけれどアドナルは60年もの間、生前と同じように自我を保っていた。
あの強い想いがなければ出来なかっただろう。
そして呪うということは命ではなく、魂と引き換えに行うもの。
それは生命力とは真逆のもの。
魂を燃やし尽くして消滅してしまったイーライとアドナル。
転生する為の魂をも使い切り、もうどこにも存在しないのだ。
ああ、大魔女アドナル‥貴方の魂の激しさを知った。
でも、バジルーは死んでいない。
貴方が魂を賭して戦ったのに王は生きているんだよ。
ただし、あれがバジルーだとすればだ。
アドナルの激しい呪いにベオアルコンの角は干上がり蒸発して無くなってバジルーは少なからずアドナルの呪いを浴びてしまった。
「おおう? なんだ、どうなったんだ?」
老人のようなしゃがれた声‥いや、しなびたその姿は老人そのものだった。
身体は縮んで背骨は曲がり、筋肉は削げて皮膚は鞣しの足りない羊皮紙のようにひび割れている。
髪はまだらに抜け落ち、顔は醜く弛みバジルーなのかどうかも怪しいが王なのは間違いない。
何故ならその額に黒光りした角が生えているからだ。
王は自身の変わりように身体をまさぐり確かめ始めた。
王は股間を押さえて悲鳴をあげた。
「ひっ、俺のイチモツが無い! 大事なxxxxがぁ、無くなってるぅ! あの幽霊め、ちくしょう! ちくしょう!」
急ぎ鏡台に行って鏡に移った自身の姿に、
「うぎゃあっ!」と叫んで子供椅子の背もたれ飾りを引き抜き、鏡にたたきつけた。
そしてぴょんと寝台に飛び乗りうっうっと泣き始めた。
なんでこうなるんだよぉ
きいてねぇよぉ
こんなの俺はいやだよぉ
そしておもむろにこちらを向いて叫んだ。
「なんとかてくれよ。なんとかしろぉっ!」
またひっくひっくと泣き始めた。
アルバターラが進み出て挨拶の礼をしながらいつもの如く、
「王よ、残念ですがそれが代償なのです。でもすぐに慣れますよ。」
と言ってニカッと好ましい笑顔を見せた。




