間に合わない!
37
ディルは角を王に突き出した。
「へへっ、これがあればお前なんてへっちゃらさ」
王は笑顔のままディルに向かって言った。
「ディル、その名においてこの世から消えよ」
ディルは一言も発する間もなく乾いた砂のようにザラっと崩れ、黒い角がカツーンと床に落ちた。
フェゴムーシュ、リッテルメレはレギオの消滅を見てショックを受けた。
アルバターラは何度か見てはいるが気分が良いものではない。
サピエンマーレは目を背けて見てはいない。
王は角を拾うべく速足で部屋に入ってきた。
しかし角にヌッと腕が伸びて奪われてしまった。
「やーやーやー、こいつで俺は王になるんだ。その黒髪の別嬪さんも俺のモンだな」
バジルーは右手に細い剣、左手に黒い角を持って好色な笑顔でエイブルニアを上から下まで眺めまわした。
王はバジルーを睨みつけた。
不味いな。
角を持った者にレギオは攻撃できないし、余の魔術も呪いが由来だから無効化してしまう。
戦うとしてもこの部屋に武器が無い。
そうだ! アドナルならば或いは‥
王はアドナルを呼ぼうと両腕を広げた。
「アドナー‥!」
何が起こったのだろうか?
王が身体を反らせたままピクリとも動かなくなった。
エイブルニアは王を呼んだ。
「王! 王よ! どうなさったのです」
アルバターラが叫んだ。
「リッテ! お前か! 何をしているかわかっているのか!」
リッテルメレの時を止める力を王に使ったのだ。
アルバターラはなおもリッテルメレを非難した。
「王が亡くなれば俺たちも消えるんだぞ! さっき見ただろう?」
満足そうな笑みを浮かべていたリッテルメレは顔を青くして震えだした。
バジルーは何が起こったかは解らないが素早く王に近づき左胸に剣を突き立てた。
その時、混乱し過ぎて誰も声を発せず、静かに静かに王の殺害が行われた。
心臓を一突きにされてもなお、王はアドナルを呼ぶ途中の姿のまま不自然に静止していた。
しばらくして王が我に返ったとき弱弱しく混乱した。
バンッ!
突然窓が開き、白い光の人型が目にもとまらぬ速さで王の元に届いた。
お師匠様! ああ! お師匠様、お気を確かに!
詳細はわからない。
だが、時間が残っていないのは解った。
ああ、時間が足らぬ‥‥くそっ間に合わぬ‥‥
弱弱しく王が詠唱し始めた。
ガスビス、アルバターラ、フェゴムーシュ、サピエンマーレ、オランジャ‥
余の名づけ子達よ、王が変わろうともレギオの務めを永遠に全うせよ‥
余の呪い、続く限り王に仕えよ‥
ああ、ここまでか‥いや、まだだ。
王は目をカッと見開き歯を食いしばり最後の詠唱を続けた。
まだだ、まだだ、アドナル‥余に力を。
余を弑しし‥バジルー‥‥に‥死‥‥‥
リッテルメレが砂に還って欠き消えた。
王が亡くなったのだ。
王とともに消滅するはずのレギオ5名は、王の呪いによって王の生前と変わらず存在していた。
お師匠様、イーライ様
ご安心を
わたくしめは、アドナルは、どこまでもお傍におりまする
白い人型の声はエイブルニアの頭の中に響いた。
鷹姫様、イブリン様、鍵の言葉を申します
覚えてくださりませ
アルテルノ ウィタム マルディシオス レッキス レッキス
意味が解らずエイブルニアは問うた。
「それは何? それは何かの秘密ではないの?」
イブリン様、ご自身で仕える王をお探しくださりませ
このにっくき男めはわたくしが
イーライの傍に膝まづいていた白い光の人型は立ち上がってバジルーの前に一歩近づき対峙した。




