ひとときの歓談
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レギオと言えどオランジャ以外は王と同じメニューを食べられる訳ではない。
地方の役人用の宿での味気ない食事で過ごしてきたフェゴムーシュは大好物のスネ肉の煮込みを口に運ぶたびに「うむ、うむ」と堪能している。
6人は盛んに飲み食いしていたが、ようやく落ち着いて話をする余裕が出来た。
アルバターラの話題はやはり王の事だった。
「サピエンに聞いたんだが、俺たちが居住区から締め出されていた間に王が病んで狂ったように暴れたって事件なんだが。」
アルバターラは情報の持ち寄りを求めた。
しかしそもそもサピエンマーレ以外は王に会っていないので一様に出せる情報は無かった。
唯一、ほぼすべての事情を知るエイブルニアはあの時起こったことは誰にも言うつもりはない。
サピエンマーレはエイブルニアを戸惑ったようにジッと見つめて問うた。
「えっ? イブリンは何か知ってるよね? 王に部屋に呼ばれてたよね?」
まったく、空気の読めない天才学者である。
知ってようが知ってまいが口を開かないのだから「知らない」ってことなのに!
エイブルニアは冷静に言った。
「確かに呼ばれていたんだがすっぽかしたんだ。もちろん、翌日の朝にお詫びに行った。気が変わられたのか怒られなかったし、随分落ち着いておられたよ。王は気まぐれでらっしゃるからな。」
何も知らないがアルバターラもリッテルメレも王に変化があることは気付いた。
レギオの動向を厳しく監視し、操り、興を求めていた王が興味を失ったのか、まったく干渉してこなくなった。
隠れず宴会が出来るくらいに。
とはいえ、窓から支配者のオーラと黒衣を纏った王が庭を横切っていくのが見えた時には全員テーブルより低い位置に伏せて隠れはしたけれども。
フェゴムーシュの話題は最近カラセン付近で増えてきた竜の目撃だった。
我が王が主力を担っていた個体達を狩った事で姿を消していた竜が今になって南方地域で活動し始めているようだ。
もちろんフェゴムーシュは王に報告したが、目撃されている竜が角を持たない赤竜のみなのを聞くと王は興味無さそうに報告を聞いて、何か対応する気は無さそうであった。
「呪い竜の目撃を探して参らぬか。懸賞金が必要なら持っていくがよい」
王がピシリと言った。
フェゴムーシュも王の望みは言われなくとも判っている。
「御意にございます。実は黒竜の話もあるのですが、話を精査いたしますると今のところデマしかござりません。懸賞金はデマ話と我の仕事を増やすでございましょう」
王は眉をしかめ不機嫌な表情を見せたがフェゴムーシュの対応には満足していた。
「よかろう。引き続き偵察せよ」
「と、いうわけである。我の責任では無いが王が退屈であられるのは申し訳なく思ってしまう」
手短に話し終えたフェゴムーシュはまた料理にかぶりついた。
オランジャがレギオたちに出産祝いのお礼から始めて話をしようとした時、食堂の扉のない壁をくり抜いただけの入り口で悲鳴や叫び声が聞こえた。
血のニオイも漂ってきておりただ事ではない。




