狂気のディル
34
ディルはなかなか上手くいかない王の殺害計画から逃避するように大好きな拷問の妄想にふけっていた。
どいつを攫って来ようか。
やはりリッテか。
澄ましてニコニコしているが、ああいうのが不満を溜めたら陰湿だからな。
ディルはリッテを攫って誑かす方が簡単だと考えをめぐらせていたがすぐに思考が脱線してしまう。
あっさり欲望に負けてしまうのだ。
イブリンだ。
イブリンを攫って拷問したい。
あの女の悲鳴が聞きたい。
いつもは飄々と澄ましたあの顔を苦痛に歪がめ、泣きわめくのを見たい。
ディルはイブリンの苦しむ様子の妄想を脳内に駆け巡らせ恍惚となった。
「おい! いつになったら王に成れんだ?」
バジルーの声に我に返った。
「な、なんだよ、ラリってんのかよ」
バジルーに夢心地を邪魔されディルはこの薄らバカを殺したくなったがグッと堪えた。
バジルーによってディルの脳内のイブリンの姿が濁った気がして今すぐどうしてもイブリンの姿を見たくなった。
濁る前の澄んだイブリンの姿を焼き付けずにいられない。
「あ、おい、ディル!」
ディルはバジルーを無視してイブリンの元に向かった。
部屋に居ない。
居ない、居ない、どこだ。
レギオたちが住む王宮の南側の執務区は広大で無数の部屋があるのだが、ディルは走り回ってイブリンが居ない事を確認した。
と、すれば居住区なのか。
居住区は広さこそ執務区の3分の1程度だが多層階構造であり捜索するには厄介である。
王宮が広くてイブリンが見つからない、ただそれだけでディルはイブリンを深く憎んだ。
おおもとの原因の王にも遭ったら引き裂いてやりたいくらい憎しみが溢れていた。
ディルは満たされない想いと歪んだ性欲めいた物に支配され、心は憎悪に満ち溢れていた。
愛情に飢え切った獣のような危うい精神状態だっただろう。
思うままに居住区にイブリンの姿を求めた。
1階から部屋の扉を開けていく。
裁縫部屋には機織り女やお針子がいる。
厨房には料理人たちや給仕女がまだいるので通り過ぎた。
が、扉のない広い食堂の奥に一瞬だけ目に入った物を見逃さなかった。
いた! イブリンだ。
スラリとした長身の黒髪の女だ。
遠くからでも周りの者と比べてひと際高い気品が見て取れた。
いったい何をしているのか?
どうやら、宴会のようである。
その顔触れにディルは言いようのないショックを受けた。
アルバターラ、フェゴムーシュ、リッテルメレ、サピエンマーレ。
王に仕えるレギオの面々が自分が求めているイブリンと食卓を囲んでいる。
こちらに背を向けてイブリンと楽しそうに談笑している赤毛の女を見止めてディルの頭は沸騰した。
あんな汚れた卑しい身分の女が!
調子に乗った成り上がりの下女がなぜイブリンの隣に座っているのか?
自分は外でコッソリ眺めているというのに!
ディルは先程までの幸福な妄想と比べて現実の己の惨めさを受け入れきれなかった。
もう許さない!
バジルーを連れて乗り込んで赤ん坊もあいつ等も全員殺してやる!
イブリンめ! お前だけは生かしてバジルーから褒美として貰おうと思っていたが、お前も殺してやるぞ!
ディルは怒りと憎悪に目を血走らせ、歯ぎしりで唇から血を滴らせ狂いながらバジルーがいる安宿に戻って行った。




