宴の計画
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少し前まで王が亡霊の悪夢に怯えて荒れに荒れていたがある時すっかり落ち着いたのを気付いていたのはエイブルニアを除けばサピエンマーレのみである。
監禁を解かれ、研究成果を急かされることも無くなり何が何だか判らないが不器用なサピエンマーレはこういう変化に対応が出来ない。
部屋に結界こそ無いが今まで通り、研究室に籠って角の書にペンを走らせる毎日だ。
他のレギオはどう思っているのだろうか?
やはり側近のアルバターラなら判っているのだろうか?
恐々アルバターラに聞いてみたが、しばらく王に会えてなかったらしく荒れすさんでいたことすら知らなかった。
「うーん、イブリンが王の地雷を踏んで怒らせたんじゃないかなぁ」
とてもそんな程度の状態じゃなかったのだがアルバターラの言葉はサピエンマーレをいつも安心させるのだ。
昨日の深夜にフェゴムーシュがセンクィーに帰還したのもあり、アルバターラが以前話した通り6名で情報交換をしようということになった。
浮かれたアルバターラがあれこれ計画していたがエイブルニアから、とりわけこそこそとする必要もないが大っぴらにせずささやかにするべきだと窘められていた。
粗食に耐えながら各地方を回ってきたフェゴを労う食事会という名目でひっそりやることが王への礼儀だと。
「もっともじゃない?」
宴の誘いに来たサピエンマーレを部屋に招いてくれたオランジャが言った。
オランジャはほとんどの時間を王の居住区の西の塔の部屋から外出せず読み書きはもちろん、作詩、刺繍、歌など上流婦人がするようなことを身に着けるために取り組んでいるのである。
先ほどまではイブリンから貰った背もたれ飾りの自慢を散々聞かされていた。
「レギオ同士で宴会なんて王が気を悪くするだけでしょ。あくまで事務的に見せるべきだわ」
以前ならイブリンの言うことは全て熱り立って反対していたのにいつの間に仲良くなったのか、サピエンマーレは状況の進み具合に置いてきぼりだった。
「仲良くなんてなってないわよ。貴族の女なんて大っ嫌い。没個性で当たり前みたいに守ってもらっちゃってさ」
サピエンマーレはこの調子で穏やかに地雷を踏むことが多い。
「でもね、あの人変わってるからさ。お姫様特有のバカ正直のくせに頑固っていうか、信念持ってるっていうか、信用できるっていうか…」
言いながらオランジャはこの複雑な気持ちを考え込んでいるようだ。
そしてオランジャはイブリンへの気持ちを語りだした。
「あの人はさ、多分孤独の中で育ってさ、自我を主張しだして初めて周りが慌てて押さえつけにきた頃には理解者も居なくて… 私は貴族様なんてあんまり見たことなかったけれど、あんなにゴツゴツした手をした貴婦人なんて非常識な令嬢だったんだろうって判るわ。よっぽど反抗的だったのよ」
うふふとオランジャは笑った。
「だからね、イブリンは貴族にしては悪くない女なの。いつもいつもイライラするのは私の醜い僻みと嫉妬よ。サピエン、どうしたら良いと思う?」
いきなり問われてサピエンマーレは「えっ?」と不意を突かれた。
女心を相談されても迂闊な回答はまた地雷を踏みそうだ。
「あのね、適当な宥めとか耳障りの良い答えが欲しかったらフェゴかアルバターラに聞くわよ。あんたの意見と間抜けな言い訳を聞きたいのよ。」




