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レッキス!レッキス!  作者: 山本まぬ
最初の王:呪い王
30/70

不穏なディル[2]

 29

 ディルは何度か北の塔に忍び込み短時間ながらサピエンマーレの研究成果のレポートを読んでいた。

 ただし、ディルは難解な文章は読めない。

 こんなことならもう少し読み書きに力を入れておくべきだった。

 王を殺す方法の手掛かりはきっとこの研究室にある。

 文章は読めないところは多いが繰り返し「角」という文字があり、挿絵に描かれているのはまさしく生えていたのを切り落とした角だった。

 実物を見て描いたものであり、ここに実物があるはずだ。

 王が竜王と戦い、竜王の呪いを角によって(かわ)した事はレギオの中では知られていて今更研究する事でもないので別の効能でもあるのか?

 とにかく王の殺害には角が必要なのは間違いない。

 サピエンマーレが研究室に帰ってきたのでディルは仕方なく角の捜索は打ち切りになった。

 王に見つかり殺されては何にもならないので慎重に進めなければ。

 王の私室には王による魔術の壁がめぐらされて入れない。

 ならば最近王が気に入って入り浸っている四阿家(あずまや)を調べることにした。

 四阿家(あずまや)に近づいたディルは「ここだ」と確信した。

 大きくて豪華な造りとはいえ、ただの四阿家(あずまや)なのに壁ではないものの魔術の気配を感じる。

 ディルは椅子やテーブルの裏、装飾など覗いて触れて何か空間でもないかと角の捜索を始めた。


「ここで何をしている?」

 ディルは驚いて振り向くと王の寵妃のエイブルニアだった。

 ディルは動物並みに周囲の気配に敏感なのだが、こんなに近くに来るまでエイブルニアに気づかなかった。

 まるでいきなり現れたが如くの突然さだ。

「何か落としたのか? 探し物をしているようだが」

 ディルは咄嗟に左袖のボタンを引きちぎって「ボタンを落としてしまって」とボタンの千切れた袖を見せて言った。

「どれ、一緒に探してやろう」

 そう来たかとディルは困った。

 上級妃が奴隷のボタンを一緒に探すなど想定外の返事だ。

 仕方なくしばらく探して見つけたフリをしてこの場を離れた。

 多少暗いがまた夜更けに来ればよい。

 ずば抜けた視力を持つエイブルニアは少年がボタンを見つけた場所には間違いなくボタンは無かったのを確認している。

「何を調べていたのかは解らないけど怪しいヤツだ」


 鷹姫(たかひめ)様、あの子は姫様と同じイーライ様の力を感じます

 あのようなレギオに心当たりはありましょうか


 ランダの声がした。

「レギオ? 子供のレギオなら1人思い当たる。偶然ではないな。ランダ、姫様はよして。ドーズ家はとっくに没落して今の私は王の召使の一人。イブリンと呼んで。」


 ではイブリン様、わたくしの事も アドナル とお呼びくださいませ


 四阿家(あずまや)の王が好んで座る場所の傍に植えられた桐の木に静かに宿るアドナルは王が赴いたとき以外は樹木と溶け合い微睡(まどろ)んでいる。

 あの少年がアドナルを起こさなければエイブルニアも話をすることは無かっただろう。


 その夜、ディルは暗く人気のない四阿家(あずま)でごそごそと調査していた。

 背もたれ守りを引き抜いてみたりレンガを外してみたりと一線を超え始めた。

 とうとう地面を掘り返そうとスコップを突き立てた。


 その瞬間にスコップごとディルは大きく弾き飛ばされ地面に叩きつけられた。

 パニックに陥ったディルは座り込んだままスコップを振り回した。


 ここは常、王が憩わんとする場所

 荒そうとする者は王を害する者

 次は容赦せぬぞ


 どの方向から聞こえてくるのか、女の声だ。

「誰だ! 何者だ!」

 四阿家(あずまや)に白く光る人型が見え、ディルは四阿家(あずまや)からかなり吹っ飛ばされており真っ暗な草むらに放り出された事が判った。


 くそっ! 王は四阿家(あずまや)に守りを置いているのか。

 あそこに角があるに違いない。

 あの強力な守りを突破する事は出来ないものか‥‥。

 角を手に入れる事は到底無理だと結論が出ていたが、せっかくバジルーを今まで飼っておいたのに計画は頓挫する。


 ディルは自分が他のレギオに比べて王からの恩恵を受けていないと思っている。

 拷問や処刑などの汚れ仕事がある時だけ呼びつけられ、仕事が終われば王都の端っこか外に追いやられ日々の生活も自分でしなければならない。

 同じ低い身分のオランジャは贅沢に暮らしているというのに。

 王を廃して間抜けなバジルーを王に仕立て上げて操ってやる。


 憂さ晴らしにオランジャの部屋から金目の物を盗んで帰ろうと南西の塔によじ登り、窓から様子を伺った。

 オランジャは衣服をはだけて子供に乳を与えているようだった。

 ディルはにんまり笑って思わず声が出た。

「角、見ぃつけた」


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