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レッキス!レッキス!  作者: 山本まぬ
最初の王:呪い王
24/70

アドナル、再び

 24

 エイブルニアは王の寝室の扉まで到着したが、何やら女の声がしたので扉を開けるのを躊躇(ためら)った。

 部屋の中の会話をしばらく聞いて様子を(うかが)う事にした。

 王の声で「アドナル」と呼びかけるのを聞いてエイブルニアはゾッとした。

 ランダはもうこの世に居ないのに....王はとうとうおかしくなったようだ。


 しかし女の声がする。

 あの抑揚のない、か細いのに頭にしっかり届く声。

 そうだ、ランダの声はこんな風だった。

 ランダが殺されてから約60年を経て王の前に現れるとは、それほどの恨みがあったのか?

 王に未練が? それとも何かの使命を帯びて?

 いずれにせよ今割って入る事も出来ないのでエイブルニアは引き続き扉の外で様子を窺うことにした。


 傍にいてくれとの王の懇願をアドナルは悲しそうに拒否した。


 わたくしはやっと生まれ変わるのです

 お師匠様を見捨てていくのは心苦しい事でございます

 ですが転生を拒めばわたくしは生きていないままこの世に彷徨(さまよ)うことになるのでございます

 お師匠様、もうすぐお別れにございます


 王はアドナルの別れを拒んだ。

「アドナル、頼む。私は寂しかったのだ。誰からも愛されず、威厳ばかり気にして人を寄せ付けず‥‥そもそも解るだろう? 私に王の器などないことが。解っていただろう? 王気も無いのに鼻息荒く外面だけ取り繕って‥‥恰好ばかり気にするからお前を愛している事すら認めなかったのだ。私を見捨てたお前を憎んだが、お前への想いはつのるばかりだった。それなのにまた今一度私を見捨てるのか。許さない。また居なくなるなんて許さないぞ!」


 お師匠様、わたくしを愛しているなど思い違いでございます

 この醜いわたくしを

 お師匠様に許されぬ仕打ちをしでかしたわたくしを

 ああ でも 思い違いでも‥‥夢のようでございます

 ええ はい 貴方様はただの器用な自惚れ屋

 王の器も支配者の覚悟も無いただ執着心が強いだけの凡人であるのは解っておりました

 それでもお師匠様はわたくしの目に映る光 わたくしの人生のすべてでございました

 ですがもう終わりにしなければなりませぬ


 王は涙を流して駄々を()ねた。

「いやだ! 許さん! 見捨てるつもりなら何故現れたんだぁ! アドナル、もうお前が居ないのはいやなんだ。頼む、頼む、頼む、アドナル。傍にいてくれ。ずっとずっと」


 なんと、ご主人様…

 わたくしに次の生を諦めよとおっしゃいまするか?

 どうかそのような残酷な事はお許しくださいませ

 だいいち、肉も骨も無い身では貴方様のお世話も出来ませぬ


「なにがお世話だ! 骨肉を得れば私の事など忘れてしまうくせに! 残酷なのはお前だ!  私はもう耐えられないと言っているじゃないか! 頼みを聞いてくれないじゃないか! 」


 ご主人様....


 しばらく沈黙があった。

 その間にエイブルニアは頭を整理した。

 イーライは王になってから自身の器にそぐわぬ威厳や権威をふるって必死に己を保っていたのか。

 私もアグニシュを支えにしなければ孤独に耐えられずに王に縋り付いていたかもしれない。

 再び王の声がした。

 落ち着いた声だった。


「アドナル、悪かった。おまえを目の前にするとつい甘えてしまう。お前にどんな仕打ちをしても私を嫌わないと思っていた昔に戻ってしまった」

王の嘆き声が止んではっきりと聞こえてきた。

「これで別れだ‥‥。もし転生してもまだ私を覚えていたらまた会いたい。お前の魂は変わらないだろうから」


 エイブルニアは耳を疑った。

 それではこれから王はどうやって長い命を生きてゆくのだろう!

 でも王はランダを愛しているのだ!


 お師匠様、やはり貴方様はわたくしのすべて

 わたくしの魂もすべて貴方様のもの

 ですが魂魄として彷徨うのはお許しを

 貴方様の魔術でわたくしに依り代を作ってくださいな

 物よりも長く生きる樹木が良いのです

 わたくしはそこに留まりましょう

 貴方様がわたくしに御用がある時以外はその依り代で眠って過ごしましょう

 どこまでもお供いたしまする


「アドナル! アドナル! やめてくれ! 私はまた甘えそうになる! お前の魂の行方を台無しにする! 私はお前に恨まれたくないのだ」


 エイブルニアは王の嘆き声は所々聞き取れないが、心は深く理解出来た。

 エイブルニアは涙を流していた。


 お師匠様、わたくしは今でも貴方様の弟子でございますが今は貴方様に縛られておりませぬ

 往くも留まるもわたくしの自由なのでございます

 わたくしは決めました

 貴方様の弟子としてお仕えすることはこのような身では叶いませぬが、これからもずっとお傍におりましょう


 エイブルニアは扉を離れた。

 王の泣き声はなんの言葉も意味しなかった。

 エイブルニアは涙も拭わずに静かに去った。


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