エイブルニアと王の昔話[2]
22
王はエイブルニアを睨みつけた。
「ランダ‥‥アドナル‥‥」
エイブルニアは王から目を反らさず怒りの視線を浴びていた。
「ずっと愛しておられたでしょう? あの忌みモノを背負った魔女を」
「違う!」
エイブルニアの爪はさらに王の心に食い込んだ。
「私は貴方を調子よく上手くやってきただけのただの自惚れ男と思い大嫌いでしたが、ある日私はランダに出会いあなた方師弟を見て貴方の気持ちに気づきました。王よ、貴方はランダを蔑み嫌悪しているくせに深く深く愛しておられる。それを知って初めて私も王を愛しいと思いました。貴方はもっと複雑な方だった」
「其方の勘違いだ! あの悪魔に会っただと? ならばあの醜悪な様を見たであろう? あれに惚れるなど神か天使でも出来はせぬ!」
「でも王は‥‥貴方は神や天使も避ける忌み子を愛していた。もしや自分の気持ちにまだ気付いてないのですか? 気の毒な王よ。鞭をくれ唾を吐いても寄り添っていたではありませんか。そんな貴方を私は誇りに思うのです」
「ふざけるな! イブリン! アドナルは余の‥‥私の弟子でありもっとも憎む者! 殺しても飽き足らぬ者だ!」
「いつまでも忘れられない者」
「当然だ!」
「王よ、私の中にランダを見ておられるでしょう? 王が私に別の者を見ておられるのは気づいていました」
王が沈黙してしまった。
そしてぽつりと言った。
「冷えてきた。今夜は解散するとしよう」
エイブルニアは慌てて、
「王よ、言い過ぎました。まだお聞きしたいことが」
王は手をかざしてエイブルニアを制した。
「また次の良い夜に。イブリン、其方は罰せぬがもうこの話は終わりだ」
エイブルニアは失敗を認めた。
「はい。きっと近い夜に。」
アルバターラは完全に存在しない者となっていたが、混乱は人一倍していた。
「魔女ランダは裏切り者の王の女弟子アドナルの事だろう? さかしまの忌み子と聞いているが、煽りにしてもデタラメを言ったな。王が心底恨んでいる者だぞ。よく殺されずに済んだモンだ」
エイブルにアは少し落ち込んだ様子だった。
「デタラメじゃない。私が語った事は全部本当だ。王がランダを殺したと後から知って私は王を軽蔑したが、長い間も王の心は荒んでいるのを見て悲しくなったのだ。王は時が止まったかのように何も変わらない」
エイブルニアの目にうっすら涙が浮かんで来たが、それを止めるようにキッパリと言った。
「今夜はサピエンの手伝いをさせて欲しいと願うつもりだったが、失敗したよ。まさか王が自分の気持ちに気付かないほど心を閉ざしていたとは思わなかった。王の精神状態は思ったより危険なのかもしれない。可哀想なイーライ」
王はなかなか寝付けないでいた。
エイブルニアの事を考えていた。
あの女、「私にアドナルを見ておられる」とほざいたがアドナルを思い出したらどうだと言うのだ。
情をかけたらしたり顔で噛み付いて来るところなぞソックリだ。
…様…お師匠様…
王は懐かしくも恐ろしい声を聞いて頭まで掛け布を被った。
アドナルの声だった。
お師匠様、そのようにわたくしを恋しがるとは…地獄から参りましてございますよ
ハッキリとアドナルの声が近くまで来ていた。
「アドナル! 何しに来た! この悪魔め!」
ほほほほっ
恋しい貴方様に会いに参ったのでございます
懐かしゅうございまする
さあ、抱き寄せてくださいませ
寝台で毛布にくるまって震えているなど王のなさることではございませんわ
クスクスッ
王はいきり立ってまっすぐにアドナルを見た。
額にある横に割れた口から涎を垂らし、あごの位置に左右離れた金色の瞳、昔と変わらぬ醜悪な姿に久しぶりに吐き気がこみ上げる。
王はアドナルに怒鳴った。
「余を見よ! そして満足したなら去れ! お前のせいで崩れたこの姿を見よ! これが支配者の姿である! 余は王であるぞ!」
まあ、雄々しき姿でございますこと
ですが到底満足できませぬ
わたくしを地獄に落としておいて再会の抱擁もしてくださいませぬのですか
わたくしを愛してくださっているのではないのですか?
この醜いわたくしを
「だまれ! だまれ! 断じてお前など何も想うてはおらぬわ! 疾く去れ! 出ていけ!」
くすくすと笑い声を残してアドナルはかき消えた。
また来るのか、明日も来るのかと王は胸を搔きむしった。
果たして、その夜からアドナルは毎日王の所に来たのである。




