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レッキス!レッキス!  作者: 山本まぬ
最初の王:呪い王
21/70

エイブルニアと王の昔話[1]

 21

 エイブルニアは王の腐臭に慣れてないので耐え難かったのだ。

 屋外で話が出来るのはありがたい。

 化粧こそ薄く施しているが、黒髪をおろし真珠のティアラ、濃くて鮮やかなグリーンのドレスを金の鎖で飾り真珠の耳環に柔らかい毛皮のショールを羽織って中庭に向かった。


 アルバターラは中庭の心地よい風を感じながらグラスとワインとチーズやナッツとパンをセットしていた。

 一応グラスは2つだが、王は俺にも居ろという事なのだろうか?

 イブリンのあの決意した様子。

 王と何を話すのだろうか。


 王にイブリンとは犬猿の仲だと装っていたがもうそんなフリは通用しなくなってしまった。

 俺は王の信頼は失っている。

 いや、側近の立場で私室どころか居住区にも立ち入り出来ない時点で王は俺を信用などしていなかった。

 サピエンは死を覚悟しているし、リッテもオランジャ妃も。

 俺も腹を括らないといけないようだ。


 風に乗って腐臭が漂ってきた。

 黒衣の王だ。

 軽やかに魔術師のローブを纏っているが先ほどと違い裏地に毛皮を使ってある。

 なんて贅沢なローブだろう。

 王にワインをついでアルバターラは引き上げる事にした。

「王よ、エイブルニア妃が参られたら私は失礼致しましょう。どうぞ良い夜を」

 ところが引き止められた。

「ワインが無くなったら召使いを呼ぶのは面倒だ。アルバターラよ、お前とも久しぶりだからゆっくり飲んで行くが良い」

 王はイブリンと二人で語り合う気は無いし、アルバターラに小賢しい動きをさせる時間も与える気は無いのだと解った。


 アプローチの奥からほのあかりを纏い黒髪をなびかせて妖精が現れた。

 夜の花のエイブルニアだ。

「王よ、お待たせしました。アルバターラ、ありがとう。貴方はグラスは無いの?」

 今夜のイブリンは息を飲むほど美しかった。

 いつもとは違う、美姫といった風情だ。

 グラスを取りに席を外す雰囲気では無いのでナッツの椀にワインを注いで3人で乾杯することになった。

「イブリン、鷹の目の女よ、添って久しいが今まで見たうちで一番美しく装っているかもしれぬ。媚びておるのか?」

 王がからかいとも嫌味ともつかない言葉を投げてきたが、イブリンは全く動じて居ない。

「ふふふ。お仕えして久しいのに最近はゆっくり昔話もさせていただけなかったのは化け方が足りなかったのでしょうから。興を引けたのであれば成功ですわ」

 アルバターラはエイブルニアの伏し目がちの王への流し目を見てクラクラ来た。

 この女、色気が無いと思っていたのに本気を出せばゾクッとするほど色っぽく(やつ)せるではないか。

 生唾を呑んだ音を聞かれたのか、王がこちらを見た。

 まずい。

 王ももうからかいの笑いはなかった。

「それで? なんの話か? 今までのおねだりは大抵聞いておるだろう?」


 エイブルニアはニッコリ笑った。

「私が話をするとおねだりしますから。食費を増やせだの、浄水壷を取り替えろだのと。王は私に甘いとの噂で私は調子に乗っているのです。ただ今夜は色々とお聞きしたい事があるのです。そして私は妹に見捨てられましたから寂しいのもあります。」

 王は少し間をおいて、ああと思い出したようだ。

「モニカの娘の金髪のアグネスか」

「モニーシュは継母で私とアグニシュの生母はスザニアですが、覚えなくてもよい遠い過去です。王はイーセンの発音ですのね」

 王は懐かしそうな顔をした。

「確かにイーセンの出自だが、それこそ遠いどうでも良い過去だ。オーセンに比べれば貧しくくだらない土地だったが魔術師が多く修行しておった。余はあそこで魔術師として一生を終えるつもりは昔も無かったし、今も王位についていなくても思わなかったであろうな」

 エイブルニアの笑顔は切なそうにも見える。

「王よ、貴方の心はあの頃と少しもお変わりない。他の未来を見ようとは思わなかったのですか?」

其方(そなた)こそ意外な事を言う。他の未来とは? 例えば鷹の目の女を妻に貰ってオーセン領の一部の小さい土地を治めるという事もあったかもしれぬな。くっくっく」

 エイブルニアはまだ笑顔だ。

「子供だった私ですが、貴方を憎からず想っていたので父が強く命じてくれれば渋々といった振りをして喜んで嫁いだでしょう」

「ははっまさか」

「いいえ、誠です」


 アルバターラは身の置き所に困っていた。

 ここに居て本当に良いやら、しかし今話の腰を折って暇を請う雰囲気では絶対ない。

 かといって勝手にいなくなるわけにもいかないし。


 王は照れているのか、ふざけた軽口を叩いた。

「それは惜しい事をしたな。恋焦がれた美少女を妻にして玉の輿に乗れるチャンスだった」

 エイブルニアは声を出して笑った。

「今でも私を妃にして玉の輿どころか大陸の支配者では? 面白いことをおっしゃる。それに恋焦がれたとは私のためにお優しい嘘をおっしゃって。あははははっ」

「嘘ではないぞ。其方(そなた)に夢中だった」


 エイブルニアは笑うのを止めて否定した。

「いいえ、私などちょっと好みの金持ちの娘としか見ておられなかったでしょう? 貴方の心はあの方のもの。私が貴方の妃になるのを拒んだ理由です。貴方は一人の女しか見ておられなかった。私のプライドにかけて貴方のサクセスごっこの余所行き用の妻になるわけにはいかなかったのです」


 王はパクパクと何か言おうとしてやっと言葉が出た。

其方(そなた)、勘違いをしておるぞ。あの方? いったい誰の事だ?」

 エイブルニアはじっと王の目を見つめてから答えた。


「魔女ランダ」


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