竜の角の秘密
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リッテルメレはフェゴムーシュがサピエンマーレから託された草稿の束を整理していた。
レギオ同士の頻繁な接触は王の目があり危険なので気を付けなければならない。
さしあたって王に情報交換を認められているエイブルニアとアルバターラ。
エイブルニアの仕事を手伝う事を認められているエイブルニアと私。
草稿を綴じてから一番初めに見せるのはエイブルニアになりそうだ。
バラバラの草稿とメモの合間を少し埋めなければ読めたものではないが、竜の角の秘密はそれほど意外なものではない。
角は竜が呪力を貯めておく器であり、呪いの詠唱時にその恨みのパワーで生命力を角にスライドさせることによって器を破壊し、呪力が発せられるようだ。
王が角を持っているということは‥呪力を開放する前に竜を殺して角へのコントロールを失わせ、空の器だけになった角を回収しているということを示している。
これらの書類によると王は9頭の竜から角を奪っている。
その後、竜が大陸から引いたことから10本目が手に入れられずに今に至る。
9本のうちの1本は竜王の角で、この呪いは王に向けて発射されているのですでに器である竜王の角は破壊され失われている。
そしてまた1本は竜王の呪いを吸い取るために王が使ったが、竜王の呪いに打ち負けて砕けて失われたという。
この1本が無ければ王は竜王に呪い殺されていただろう。
この角が砕けなければ王は竜王の呪力を自身に取り込めなかった。
すべては偶然が起こした奇跡。
そして残りの7本を王が現在も所有している。
7本‥‥レギオの人数と関係があるのかもしれない。
もう少し読み解けばわかるかもしれないな。
フェゴムーシュからサピエンマーレの伝言「王から早く竜の角を奪え」と聞いたエイブルニアだが、時期が悪すぎる。
リッテルメレは紙きれの解読に、オランジゃの腹は大きく膨らみ走ることなど出来ない。
フェゴムーシュは次の視察を命ぜられまた王都から離れて行ったし動けるのはアルバターラとエイブルニアのみ。
それも角がどこにあるかなど見当もつかなかった。
表向きにエイブルニアといがみ合っているような振りをそつなく見せるアルバターラもそうそうレギオに会いに行くことも憚られ、一人部屋で悶々と鹿の干し肉のジャーキーを噛んでいた。
召使が来客を知らせに来た。
「エイブルニア様、リッテルメレ様がトウモロコシの配給割り当てを確認してほしいので昼前の訪問を許してほしいとの事です」
エイブルニアはアグニシュに会いたくなった。
もう薪屋の女将ではなく、裕福なご隠居になったとはいえ半年以上も音沙汰無しだ。
財産を用意して渡した途端、王宮に来なくなった。
それでもオランジャや他のレギオとの交流に慰めを見出していたエイブルニアはアグニシュに遣いを送るという愚を犯さずに済んでいる。
薄情な妹だとは思うけれど。
「エイブルニア様、リッテルメレ様が来られましたので書斎にお通しいたしました」
ありがとうと召使に言った。
トウモロコシは食糧庫にも必要だが、家畜にも必要だ。
リッテはどのように分けただろうか。
書斎でリッテルメレはやや神妙な顔でエイブルニアを待っていた。
「まさか本当にトウモロコシの分け前の報告に来たと思ってませんよね ?」
トウモロコシの件では無かったようだ。
「トウモロコシの配分は大事だ。王宮での大きな関心事の一つだ」
エイブルニアは言い訳をし、「例の件で新たに判明したことが?」と、取り繕った。
リッテルメレは、まだ読めるような書物にするには時間をいただくが‥‥と前置きしたうえで新たに判ったことを話した。
エイブルニアは聞いて覚えてアルバターラにも伝えなければならない。
サピエンマーレは実に多岐に渡って多角度から研究をしていた。
まず、7本の角の用途と目的は「不死」だ。
空の器である竜から切り離した角に王自身の力一部を授けた人間を封じ、レギオを作り出した。
レギオを虐待し、つのった恨みで呪いの力を角に貯めようとしたが上手くいかず今に至る。
サピエンマーレはこの方法で上手くいったとしても角が足りないと見ている。
呪力を角に保存したまま竜から切り離す事が出来ればよいが呪いという性質上、呪っている本人‥‥というか、竜が生命力を失って角の呪力の開放が出来なければ呪いも消え失せてしまうのだ。
微力でもコツコツ数を集めなければならないが、そもそも既に竜は姿を消している。
この万策尽きた王が次に何をするか判っている。
角に力を貯められるレギオを探すために片っ端から入れ替えを繰り返して試すだろう。
不死ではないが時間はたっぷりとある。
サピエンマーレは王が隠し持つ角を探し出し、取り上げなければならないと言っているのだ。
エイブルニアは時期が悪いと考えていたが逆に王は油断するのではないか‥‥? と考え直した。
「リッテ、貴方ももうサピエンへの義理などと言っていられなくなったよね。フェゴにも帰ってきてもらおう」
リッテルメレは厭そうなしかめ面をしていたが当事者であることを認めてふてくされた表情に変わった。
「それで、何をすれば良いんです?」
エイブルニアは拒否権を断って言った。
「フェゴと王の私室で家探し。時間が止められるんだろ?」
リッテルメレは激しく動揺しだした。
「私室で王と鉢合わせれば全員命は無いんですよ! 執務区には滅多にお越しにならないのに! 来られてもすぐに居住区に戻られるし」
確かに王は呪われた右半身のせいで軽い引きこもりだ。
「なにか自然な口実をつけて執務区に引っ張り出したら私が引き留めておく」
「自然な口実って?」
エイブルニアは少し考えて答えた。
「『トウモロコシが足らない』でどうだろう」
ふてくされていたリッテルメレは少し興味深そうに目が輝いた。
「トウモロコシってそんなに強いんだ‥‥」




