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3 それぞれの思い

 記者会見の夜、山野と川端は、県庁近くのホテルに一泊することにして、近場の居酒屋で飲むことにした。


「どのテレビ局でもお前の記者発表が流れてたぞ。すっかり有名人だな」


「やだなあ……早くみんな忘れてくれないかな」


 川端が茶化すように言うと、山野が照れながら笑った。


 川端がビールをゴクゴク飲むと、山野に言った。


「それにしても、『君たち次第』か。良いこと言うじゃないか」


「今の状況なら何とでも言えるからね。ドット絵以外の2進数は、言語を何らかの法則に基づいて数字化したものである可能性が高いらしいけど、情報量が少なくて解読は絶望的って話みたいだし」


 山野は、いたずらっ子のような笑顔で話を続けた。


「せっかくの宇宙人からのメッセージなんだ。それが人類が平和について考えるきっかけになればいいと思ってね」


 山野はそう言うと、ビールの残りを飲み干した。居酒屋の部屋の隅のテレビでは、山野の「君たち次第」というコメントがニュースで紹介されていた。



† † †



「お前の『君たち次第』って話が世界を平和に導いてるぞ!」


 県庁での記者会見から2日後の夜、天文台で仕事をしていた山野に、興奮した様子の川端から電話がかかってきた。


 山野が川端に言われてテレビをつけると、ある紛争が停戦に向かっているというニュースが流れていた。


 そのニュースによると、宇宙人がやって来るかもしれないときに争っている場合でないということで、紛争当事国の双方で大規模なデモがあり、停戦交渉が加速したということだった。


 そして、デモのスローガンには、なんと「君たち次第」という、山野のコメントが使われていた。


 当然、世界ではまだまだ数多くの紛争が続いていたが、山野が偶然に受信した電波と、山野のコメント・思いが、ひとつの紛争を終わりに向かわせている……その事実に、山野はとても嬉しい気持ちになった。


「どこかの星の誰かさん、本当にありがとう。どんな内容かは分からないけど、貴方(あなた)のメッセージが世界の平和に役立ったよ」


 山野は天文台の窓から夜空を見上げた。一筋の流れ星が夜空を通り過ぎて行った。



† † †



「ねえ、お父さん、もう行っちゃうの?」


「これ以上滞在したら、発見されて攻撃されるかもしれん。船体に傷でも付けられたらかなわんしな。必要な情報は取れたんだろ?」


「うん。あの返信がどんな風に伝わってるのか、解析結果が楽しみ!」


 山野が夜空を見上げる少し前。天文台の遥か上空、地球周回軌道上の宇宙空間で、一隻の小型宇宙船が再ワープに入ろうとしていた。


 この小型宇宙船は、山野が「鳥肌メッセージ」を受信した日、地球から50光年程離れた宇宙空間で慣性航行をしていた。


 異星人の一家が、帰省で祖母の住む惑星へ向かう途中、ワープ航路が帰省ラッシュで渋滞したので、通常空間で一時待機していたのだ。


 その時、たまたまアレシボ・メッセージを受信し、学習用の人工知能で解析して興味を持った少年が、長期休暇中の宿題になっていた自由研究の題材に「未接触文明とのメッセージのやりとり」を取り上げると言い出した。


 少年達の種族は、自分達よりも低いレベルの文明とは積極的に接触していなかったが、メッセージを電波で送信するレベルの文明はそこそこ珍しい存在だった。


 しかも、受信したメッセージを見る限り、電波を送信した種族は、少年達の種族と姿形が似ていた。これも珍しいことだった。


 そこで、少年は両親にお願いして、祖母の住む惑星へ向かう途中で地球周辺に立ち寄ってもらい、少年が考えた返信メッセージを送信してもらったのだ。


 そして、祖母の惑星からの帰りにまた地球周辺に立ち寄り、そのメッセージに対する地球の反応を調べていたのだった。


「ところで、あの惑星にはどんなメッセージを送ったんだ?」


 父親が少年に聞くと、少年が笑いながら答えた。


「絵日記だよ」


「絵日記?」


「うん。ほら、当初は自由研究で絵日記を書くって言ってたでしょ。この前、先生に宿題の進捗を伝えたら『そんなものは自由研究ではない』って却下されちゃってさ。無駄にならなくて良かったよ」


「そうだったんだな。ちなみに、何の絵日記を送ったんだ?」


「長期休暇に入ってすぐ、武術の地区大会で友達に勝った話をしたでしょ? あの絵日記を送ったんだよ」


 それを聞いた少年の母親が、不思議そうな顔で尋ねた。


「あれ? もう一つ送ってなかった?」


「うん、この前の遊覧船の話」


 もう一つの絵日記は、少年が近所の友達と一緒に遊覧宇宙船に乗ったとき、友達のうち、ある少女と手を繋いだ話だった。


 皆で船内の無重力区域を移動する際、少年がその少女の手を取ってエスコートする機会があったのだ。誰にも言っていなかったが、少年はその少女のことが好きだった。


 とても嬉しい出来事だったので、絵日記を返信メッセージとして送ろうと決めた際に真っ先に思いつき、ついつい送ってしまった。学校での自由研究の発表では、適当に誤魔化して説明することになりそうだ。


 少年は、宇宙船内のスクリーンに映る地球を見つめた。


「この星の誰かさん、本当にありがとう。貴方(あなた)のメッセージのお蔭で、素晴らしい自由研究になりそうだ」


「さて、僕の絵日記はどんな風に解釈されたのかな……」


 少年が学習用人工知能の解析結果を読み始めた。


 少年の乗る小型宇宙船は、まるで流れ星のように光り輝きながら加速し、再ワープに入った。

最後までお読みいただき誠にありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたなら幸甚です。


また何かお話を思い付いたら投稿させていただきます。今後とも何卒よろしくお願いいたします。

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