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微かな光を求めて  作者: stage
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プロローグ

 この物語はフィクションである。

 ということは、その舞台となる世界の歴史と地誌を記述しなければ、詳細を理解することは困難である。しかしその量は膨大のため、他の小説と同様に一人の少女に焦点を当て、語るとしよう。いわゆる、主人公である。




 少女の居た時代、人々と社会は薄暗かった。黒く厚い雲が空を覆って日の光を妨げ、しかしながら雨がひたすらに降らない日が延々と続いているようであった。それは戦争や災害、飢餓が続いたからというだけではない。社会の、あるいは世界全体の閉塞感が人間の感じ難い心の奥底に、それが自然となるまで浸透してしまっているからでもあった。


 現状のためには日光を手に入れるべく画策するべきなのに、これを手っ取り早く打破するためであれば世界を滅亡できそうな不吉な雲にまで雨乞いをする矛盾。金や権力を心の奥底では渇望し、しかしながらそれを恥じ、あるいは全部無くなってしまえと妄想する、若しくは、どうしようもないからと無気力になる。

 現実と理想のギャップに苦しみ、それを紛らわせるようにして快楽を貪り、そしてその快楽のためにまた生きていく。皆、その快楽の奴隷に成り下がっていた。


 その良し悪しはどうでもよい。人類が元来、自分自身の期待を満たすことを第一としているという公理がこの時代に特に際立っていたというだけである。

 少女も同様である。




 少女について、具体的なことは抜きにして触れておかなければならない。この物語の「ネタバレ」に当たるかもしれないが。

 この少女は、……少女という言葉に既に子どもの意が含まれてはいるのだが……子どもながらの純粋無垢だけで成立しているわけではなかった。かといって、他者を席巻する程の高い頭脳を持ってはいなかったから、フィクサーのように振る舞っていたわけでもない。


 とある能力を生まれつき有してはいたものの、世界を変貌させるには全く至らないものであった。専門的な何かを有していたとしても、それを用いて世界を一変させ、更に「その道の人である」と歴史に名を刻むことが難解であることと同様である。


 少女には世界の頂点に立つために必要となる、飛びぬけた才能も、積み上げた努力も、恵まれた環境も、とめどない欲望も、他を騙す狡猾さも、皆を凌ぐ豪胆さも、最初からは無かった。

 この平凡に見える少女は終ぞ、世界の英雄にはなれなかった。勿論、救世主にも。




 初めて相対する人に抱く印象でそんなことを思慮することは滅多にないし、不調法者どころではない。少女の明るい話題をしよう。


 多くの者が彼女に抱く最初の印象は、喜怒哀楽をよく見せてくれてるような素直な子、である。幼少期の頃はその喜びや悲しみを体全体で、私の感じたことが世界の全てであるかのように全力で表現した。だからだろうか、周りと溶け込むことは早かったし、度々喧嘩の原因にもなった。


 その素直な子は周りの、極狭い範囲の周りの人々と語らい、助け合い、時には共闘する。遠く離れたスターとしてではなく、優美でやんごとない存在としてではなく、身近な頼れる友人として少女は輝く。それだけ。本当に、それだけだった。




 そんな少女が生涯で世界に対して一筋の細い、極細い光を、暗雲を突き抜けるように差した。ピカーっと光る黄白色の光である。まるで「これが私の答えである」と言わんばかりに。

 その細い光はある人にとっては頼りなかったかもしれない。若しくは、見えなかったかも、黙殺したかもしれない。あるいは、否定したかも、侮蔑したかもしれない。


 しかし、もし彼女の光が世界の誰かの道標となったのなら、その細い光は何物も防げない眩い「希望」であると湧き上がる。その光を道標にした者達が各々の色彩と明度で、大小の差異はあれど天高く光を紡ぐ。

 それがまた伝播して、次の光を。それがまたまた伝播して、次の光を紡いでいく。そうしてできた光達が、もはや太陽を不要とするまで輝き、やがて暗雲を跳ね除ける。それは不可能を可能にする、人間の無限の可能性を彷彿とさせる。




 だから、この希望の子の人生が波乱万丈という言葉では説明しきれない程のものであったことは想像に難くない。数多の壁が山々の如くそびえ立ち、睨みつける。


 この物語は彼女が如何に努力したのか、どのような才能を持っていたのかが主ではない。どのような心情と決断をもって、仲間と共にあったか、その障害と格闘してきたか、にある。常に正しい選択であったとは言えない。むしろ、利己心から暴発したこともしばしば。

 けれども、その在り方は武も魔法も異能も種族も関係ない「何か」があったと断言できる。




 私はその世界の歴史と地誌がどうであったかを虚構のものでありながら遺さなければならない使命感に駆られている。それを生きたものにするため、設定だらけの淡泊な文章ではなく、歴史の教科書のようなさらっとした流れではなく、1人の少女に焦点を当てた伝記のような構成をとりたい。そう思って書き遺す次第である。











 まぁ、私がこんなに熱く語ることはめったに無いので、違和感を覚えるかもしれないから先に言っておこう。実はフィクションだとか虚構だとかそっちの方が嘘で、本当は『観測』した事実だ。

 しかし、干渉できない世界であればフィクションのようなものだし、この文章を読んでいるのも君だけだろう。一度くらい格好付けた文章を書きたかったんだよ。来週の日曜日夕飯奢るから許してくれ。誰にも、特に上の者には見せないでおくれ、絶対に。


観測者:??? ???


*この小説はフィクションです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 本格的な語り口だぁ、どうなるかとても楽しみです。
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