輝く刃、そしてヒロインの暴走
※シュキさまの出自に誤記がありましたので修正しました<(_ _)>
「え・・・うそ、シュティキエラ!?やだ、シュティキエラにも会えるなんて私超ラッキー!第2シリーズのキャラ目白押しじゃない!」
―――は?
シュキに思いっきりぶっ飛ばされたにも関わらず、彼女は・・・ヒロイン・マキアは頬を紅潮させてそう叫んだ。
しかもシュキさまの名前を呼び捨てで。それに“第2シリーズ”って、何?ひょっとして彼女も前世の、それも地球の日本と呼ばれる国での記憶を持っているの?
そして私の記憶の中にあるオトゲーは第1シリーズで、それには続きの第2シリーズがあるってことか?であれば、本来リヤム王国王太子と結ばれハッピーエンドを迎えた彼女が、わざわざエルフの王国・シリンズランドの王太子であるヴィーラさまとの対面を熱烈に希望したのは。
恐らく第2シリーズの攻略キャラだから。それにクロウさまもその攻略キャラ。更にはシュキさまも。
「ね、シュティキエラ!私はマキアよ。あなたを孤独から救うために光の聖女として、今ここであなたと出会えたの!私はシュティキエラをバケモノだなんて思わないわ!例えあなたが魔族との混血だとしても!」
―――へ?魔族との混血?何言ってんの?シュキさまのご両親はフーリン族と獣人族であり、もちろん魔族とは先祖を異にする。
むしろ竜族の鱗に通じる金鱗を持つ以上、竜よりの種族と言えなくもないが。フーリン族よりも下位種族である魔族扱いはあまりにも失礼である。因みに人族はもっと下位種族だったりする一番弱い種族であるとされる。
そう言うことは、第2シリーズにおいてもフーリン族の存在はなく、宗主国としてのフーリン国も、
出てきていない可能性が高い。
シュキさまが攻略対象だとしてもそれを魔族との混血としている以上、根本的に事実と異なっている。やっぱりオトゲーと同じところがあっても違うところばかりである。
そもそもマキアは男爵令嬢からフラン大公の養女となり、今は大公令嬢となったのだ。ヒロインの身分からして変わってしまっている。
「貴様は我が妃となるルティカを襲っただけではなく、我らフーリン族まで愚弄するか」
シュキさまの声色は、恐ろしいほどに冷たく氷のような凍てつく空気を纏う。
「んなっ、ルティカがシュティキエラの妃!?そう。シュティキエラまで魅了魔法で操ったのね!?この悪女めっ!!」
いや、私が何をしたよ。あんたに!
「聖女と言うものはかくも話が通じない生き物なのか」
いや、聖女と言う生き物ではなく明らかに彼女自身の性質なのだろうけど。外国には性格も人格も素晴らしい聖女さまのお話が数多く残っているというし。
「お願い、シュティキエラ!私の浄化の光で自分を取り戻して!!」
マキアがシュキさまに両手をかざしその掌に光を宿し始める。
「シュキ」
その時、シュキさまの前に側近のアルオさんが現われる。その両手に添えられた双剣と、背中に展開された6つの鎌のような形の金鱗は、アルオさんの瞳のような赤みの強い赤銅色に輝いており、うっすらと炎を纏っている。
「この女はルティカを侮辱し手をあげただけではなく、フーリン国王太子である私を侮辱し危害を与えようと魔法を放った。情状酌量の余地はない。捕らえよ」
そうシュキさまが命じれば、シュタッと近衛騎士と思われしフーリン族の騎士たちが姿を現し、あっという間にマキアを捕らえた。そして魔法を放てないように魔封じの腕輪を括りつけ、彼女を拘束する。
「い、痛い、痛い~~~っ!放してよぉっ!私はシュティキエラにかけられた魅了魔法を解いて本来のシュティキエラを取り戻そうとっ!」
「軽々しく我らの主の名を呼ぶな」
アルオさんが炎を纏った鎌の刃をマキアの顔面に突き付ける。
「それ以上我らが主を侮辱するならば、その喉を焼き叫び声すらあげられなくするぞ」
「ひぃっ!!あ、あんたっ!あんたもルティカの仲間でルティカの魅了魔法を使ってシュティキエラをいいように操っているのね!?」
「我らは主の臣下であることに誇りを持っている。それを侮辱するならば容赦はしない」
「それに我らは、そのような魅了魔法などにかかるほどやわな種族ではない」
シュキさまの言う通り、彼らは魔法耐性も非常に強いのだ。だからこそ魔族すらも軽く凌駕する。
マキアも元男爵家の令嬢だろうに。そんな基本的なことも知らないのだろうか?これから大公令嬢としてやっていくつもりもないのかもしれない。ただ、身分さえあればいい名ばかりの大公令嬢。継母がいかにも好みそうなタイプだ。
「この女は即刻捕らえよ」
「御意、我が主」
アルオさんがそう答えると、騎士たちが早速彼女がしゃべれないように猿轡をし、縄で縛り上げる。
それでもびーびー騒ぐマキアを赤紫色の髪の女性騎士が一瞬で気絶させた。私と同じくらいの年ごろだろうか。それでも私よりもはるかに勇ましくて、かっこいい。
「さて、ルティカ」
「は、はい。シュキさま」
私の方を振り返ったシュキさまは先ほど纏っていた凍てつくような空気は見せず、いつも通りの無機質ながら何だかあたたかい心地のする微笑みを向ける。
「無事で、良かった」
「私の方こそ考えなしに飛び出して、すみません」
「ルティカが無事ならば、それでいい」
シュキさまが私を優しく抱きしめてくれる。
「う・・・うぅああああああああぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
何だか急に恐怖が沸き上がってきて、身に覚えのない罪で断罪されて荒野に捨てられ魔物のエサになるところだった。そんな絶望的な状況でシュキさまに救われて、ここでも命を狙われて、シュキさまに助けられて。
自然と涙がこぼれ落ちていく。
それは恐怖からくる涙か、絶望からくる涙か。それでも助けにきてくれるひとがここにいる。
その温もりを肌で感じたら、自然とシュキさまの腕の中に身を委ねた。私ははしたないとはわかっていても涙があふれてとめられなかった。