襲撃、そして刃の血族
―――数年前
「それじゃぁナディはお兄さんがいるのね。私と同じだわ」
「ルティも?」
パーティーで互いに名前を伝えあい、私とナディはすぐに仲良くなった。互いを呼び捨てでナディが愛称で呼ぶことを許してくれるくらいに何故かとても気が合った。そしてナディは私のことをルティと。彼女だけが呼ぶその愛称で呼んでくれる。
「でも。私とお兄さまは母親が違うし。私、エルフなのにこんな耳だから。きっと純粋なエルフのお兄さまは私のこと、嫌いなの」
「そんなことないよ、ナディ。ナディのお耳はね、私たちを守ってくれる宗主国のひとたちと同じ耳だから、とっても縁起がいいんだって大人のひとが言ってたの!」
「でも私、弱くて。魔法もそんなに得意じゃ、なくて。やっぱりエルフでも、人族でもないから」
「ナディはナディ。そんなの関係ないよ」
「私は、私?」
「うん!私はナディだから好きなの!
お友だちになりたいって思ったんだもん!」
「ルティ。うん、私も・・・だよ。ルティとお友だちに、なりたい」
そう言うとナディはとびっきりのかわいらしい微笑みをくれたのだ。
―――
だから私、ナディの傍にいなくちゃ!私は必死に走った。ナディの元へ!
「あ。でも、どこへ行けば?」
肝心なことを見落とし私は必死に走っていた。
てか、ここどこ!?不味い。誰か探さないと。
―――その時だった。
「やっと見つけた、シェンナディア!」
ぞくり。嫌な汗が背筋を這った。
ナディ?
後ろからそう呼び止められた。
この声、マキア?私がナディ?そう言えば私とナディは色味が多少違えど、同じ金髪でそしてハーフアップツインテール。その上今はナディのドレスを借りて着ている。
背格好も同じだから、後ろからなら見間違えたとしても不思議ではないし、前から見てもまるで双子みたいとシリンズランドの侍女たちからも、シリンズランドの陛下や王妃さまたちからもかわいがられてきた。
だから、彼女が見間違えたとしてもおかしくはない。
「魅了魔法を使ってヴィーラさまを辱めようとしていることは掴んでいるわ!」
そんなわけない!だってナディはお兄さまのヴィーラさまのことが大好きで。心から慕っていて・・・!
「シリンズランドの城のみんなもアンタが操っているってことも!」
ナディは魔法が苦手だ。唯一、水の魔法はしゃぼんだまを出すくらいならできる。だから魅了魔法なんてあり得ない。
それにそんなものを使わなくったってナディはかわいいし、愛らしいし。陛下や王妃さまたち、ヴィーラさま、クロウさま、この城のみんな、そしてシリンズランドのみんなから愛されているお姫さまだ。
「しかも私の最推しのクロウまでその毒牙にかけるなんて、許せない!」
は?最推し?
しかも何故、あなたのクロウさまなの?クロウさまの心は完全にナディに向いている。ふたりは今は騎士と姫と言う関係だが、将来は結婚することが決まっているのだ。そんなふたりの間にあたかも横恋慕しようとするなんてっ!
「アンタもあの金髪悪役令嬢と同じく私が断罪してやるの!そうしたらヴィーラさまもクロウも目を覚まして私の物になる!だからアンタは悪役王女として、消えなさい!」
んなっ!悪役王女って、何!?
それに金髪悪役令嬢ってまさか、私?
「覚悟!浄化の光!」
―――聖女の光魔法っ!?私はとっさに振り向き後ろに後ずされば、彼女と・・・マキアと目が合った。
「あんた、ルティカ?悪役令嬢!そう、そう言う事だったの。やっぱりそう言う噂は流れていたけど本当だったなんてね。ぶつぶつ・・・」
彼女は何を言っているの?
「魅了の魔法でうまくハーフエルフに化けてシリンズランドの王家にもぐりこんだつもりでしょうけど。私の浄化の光の前ではその偽の姿を保てなかったのね!もう終わりよ!アンタの変化の魔法が解けた時点で私の勝ち!ヒロインの勝利よ!みんなの魅了の魔法も解いて、私がこの世界の光の聖女となるの!」
「な、何を言ってるの!?あなたっ!」
「うるさい!私には、光の短剣があるんだから!」
んなっ、武器をっ!?
「召喚!」
彼女が叫ぶと空中に光のゲートが現われ、そこから光り輝く短剣が降りてくる。
「はあああぁぁぁぁぁっっ!!!喰らえ、終わりよ!ルティカああああぁぁぁぁぁっっ!!!」
「えっ」
スローモーションに見えた。こういう時にスローモーションに見えるってのは、本当だったんだ。
―――そして体が反応できないのも。
私、死ぬの?
せっかくシュキさまに救っていただいた命なのに。
せめて、ナディだけは無事で。クロウさま、ヴィーラさま。ナディを守って。
シュキさま。
妃になれなくてごめんなさい。
体が動かないこんな状態でも目をつぶることだけはできた。
―――そして、衝撃を待つことだけは。
しかしその瞬間、鋭い金属音が不協和音としてこだまする。
――――ギイイイィィィィンッッ!!!
「きゃっ!」
マキアのものとみられる短い悲鳴と床に何かが叩きつけられた鈍い音が響いた。
ゆっくりと瞼を上げればその目の前には華奢ながらも頼れる背中があって。
拾われた時にも見た三日月型の6つの黒い刃が背中から生えている。そしてその両手には金色の持ち手が異様に長く、額に赤い宝石がきらめく黒い刃の双剣が握られているが、その刃先は半円型に丸みを帯びている。そしてそれを握る手はまるでペンを持つように添えられている。
「シュキさまっ」
私は彼の名前を呼んだ。
彼らは体のどこかにあると言う輝く金色の鱗を刃の形に変えて、時にはシュキのように、形作れば髪や瞳の色を映す剣や突起を展開する。
それが彼ら、刃の血族。
輝く刃の血族と呼ばれる戦闘部族。
―――輝刃族。