魔帝国域・フーリン国域、そして竜帝国域
※『くじ引きで~』の全体的なネタバレを含みます
―――それは、シュキさまがお忍び旅行を終え、
すっかり冬を迎えようとしていた時期のことだった。
「え・・・竜帝国域で・・・大事件・・・!?」
その日、私はシュキさまに急な客だと言われ、
急いでレツィアや侍女たちに飾り立てられ、
迎賓室へ向かえば、そこにいらしたのは、魔帝陛下のルダさまだった。
今は、魔帝国からの土産の一口ミルフィーユをいただきながら、
ルダさま、シュキさまと3人でお茶の時間をとっていただいていた。
その際に、ルダさまより、衝撃的な話が出てきたのだ。
「あぁ・・・竜帝国域のカロン王国と言う属国が、
竜帝国の竜帝陛下自らが出陣の上瞬く間に制圧し、滅亡したらしい」
まぁ・・・なんてこと・・・
竜帝国の竜族は、世界最強種族・フーリン族と肩を並べる種族である。
属国を滅ぼしただなんて・・・一体、何が?
「何でも、カロン王国と言う属国は、宗主国に内緒で、
いろいろと悪さをした挙句、陰ながら竜帝国をのっとろうとしていたらしいぞ」
「いやいや、無理ですって。相手はあの竜帝国でしょう?」
「そうさな・・・我が魔帝国も、あの国にはほとほと呆れているし、
肉親に手を出された恨みもある」
・・・カロン王国は、確か人族の国では?
それなのに、魔帝陛下の肉親に手を出すなんて・・・
それで恨みを買うなんて、バカすぎる。
「かねてより、あやつらは、魔帝国の魔族を殺しに来たり、
奴隷解放と嘯き、女子どもを攫おうと画策してきた。
それが、我らから逃れるために、竜帝国に与し、
竜帝国がそれを認めた時は、心底驚いたものよ。
もし、同じ宗主国であるフーリン国が、
竜帝国域のツェイロン王国と友好関係になければ、
即刻そんな腐敗した竜帝国など、フーリン国と共謀し
一気に滅ぼしてくれようと思ったが」
うわぁ・・・フーリン国との共謀は、
いくら竜帝国と言えども、痛いよね・・・
フーリン国には、ツェイロン王国を通じて、
あちら側の歴史の本なども入ってきている。
なんでも、先代や先々代が、かなり腐っていたらしく、
竜帝国の地盤も揺らいでいたらしい・・・
そんな中、現在の竜帝陛下が、
なんと御年12歳の時に竜帝の座を得て、
竜帝として竜帝国を一から建て直したそうだ。
それにより、竜帝国は再びその栄華を取り戻したのだ。
今の皇太子殿下も、竜帝陛下並みのお強い方だと聞くし・・・
魔帝国がフーリン国と共謀して、竜帝国を攻める・・・
なんて未来は、そもそもの元凶であるカロン王国が滅亡すれば、
きっと、そうそう来ないだろう。
なんせ、竜帝国の皇太子殿下とも、シュキさまが仲良くなってしまい、
今では竜帝陛下とウチの義父さまも、
少しずつ交流を始めたそうで、
ゆくゆくは魔帝国も混ざろうとしている。
「それで、カロン王国が滅亡し、新たな国が建ってな・・・
なんでも、竜帝陛下の御子が、新たな公王となったらしい」
と、ルダさま。
「あぁ・・・ディルが、弟なら安心だと言っていたから、大丈夫だろう」
“ディル”とは、竜帝国の皇太子殿下の愛称でもある。
それほどまでに、仲良くなったらしい。
それに、竜帝陛下の御子・・・と言うことは、皇太子殿下の弟君だものね。
「我が魔帝国も、国交を結ぼうかと思っている」
「まぁっ!それはステキですね」
これからは、お互いビクビクすることもなく、
仲良くやっていけるのだ。
「それに、旧カロン王国領の一部が、ツェイロン王国領になったのも大きい」
まさかの、ツェイロン王国領に!?
「ルティカがせっかく進めてくれたスイーツロードだが・・・」
あぁ・・・交易路を作ろうとしたら、
まさかのスイーツロードができてしまったのだっけ。
「ルティカから、ツェイロン王国も
たくさんの未知なるスイーツがあると言う」
「えぇ。友人からも聞いていますし、たまに贈ってくださるので、
いつもおいしくいただいております」
「私はとても興味が沸いた。だから、フーリン国を通じてな、
魔帝国とツェイロン王国の間にも、交易路を伸ばそうとしている」
「では・・・ツェイロン王国とも陸路でつながるのですね」
なら、私たちも互いに行き来しやすくなる!
「あぁ、ツェイロン王国の菓子も楽しみだし・・・
新しく建国したル・ガリア公国の菓子も楽しみだ」
ルダさまの国交目的が、完全にスイーツに移っている・・・
「そうだ。あと・・・魔群帯の整備にも手を付けることにしたんだ」
と、ルダさま。
あぁ・・・確か、今はル・ガリア公国となったあの国が接している、
強力な魔物が蔓延ると言う・・・
一応、魔帝国領となっているのだが、
そこに同じく接している、大魔神帝国などがあったはずだ。
かの国も、そこの魔群帯を狙っているという話を聞いたことがある。
「その件で、我が魔帝国や、フーリン国域も、
竜帝国から便利な技術を提供してもらったのだ」
「便利な技術・・・?」
「魔道通信機だな」
「あぁ・・・!聞いたことがあります!こちらの水鏡よりも、
とても便利なものだと・・・!」
「これからは互いに協力し合う仲になる。
それを後押しすることになろう・・・」
ルダさまは満足げに微笑む。
「あと、メイリィが正式に、ディルと結婚したそうだよ」
そしてふと、シュキさまが教えてくれる。
「まぁ・・・!メイリィさまが!おめでたいです!」
「こちらからも、何か贈りものをしたくてな・・・
メイリィには、病弱な姉上がいるのだ」
「私も、お聞きしたことがあります」
「それで・・・魔道通信機とまではいかないが・・・
我がフーリン国域にも便利なものがある」
「あぁ・・・!それですね!確かに、便利かもしれません!」
「なら、材料は我が魔帝国から提供しよう。
ツェイロン王国とは、これからも密な関係を望むぞ」
み・・・蜜って・・・スイーツだけに?
早速、その贈り物の準備に取り掛かりつつ、その準備の傍ら、
シュキさまと私宛てに、
ツェイロン王国王太子・シンシャさまからとある招待状が届くことになる。
※とある招待状については、『くじ引きで~』の第11章『ツェイロン王国への里帰り編』を読むと何のことだかが判明します
※贈り物についても、そちらで詳細を知ることができます




