帰国の途
※『くじ引きで~』の第4章『エルフの王国編』のネタバレが含まれております※
※今回もクロウさま視点のお話です※
ナディと出会った頃のことを思い出しながら、
俺は、久々のエストランディス王国訪問を終え、
ナディと帰国の途についた・・・
「それにしたも、ナディ・・・良かったのか・・・
あの・・・元女王は、あの王太子と王女の・・・」
「・・・うん。確かに、あの方々は、私も苦手だけど・・・
あの方には、恩があるから・・・」
「・・・恩・・・?」
「まだ、私が小さい時、エストランディスから、
あの方と、その元王配、元王太子がシリンズランドを訪国していただいて・・・」
あんな男に、丁寧な言葉を使う必要はないのに・・・
本来ならば、この手で切り刻みたかったが・・・
シュキが仲良くなったととても嬉しそうに語る、
あの竜帝国の皇太子の面を潰すわけにはいかないから・・・
必死に我慢したのだ・・・
「その時、案の定私は、両親たちのいないところで、
“ハーフエルフ”とバカにされてしまって・・・
元王配も、私のことを見下していました・・・
ですが、あの方は、必死に、その元王配と元王太子から、
守ってくださったのです・・・
あまり・・・女王陛下と言う肩書に似合わない方・・・
と言っては失礼かもしれませんが・・・
あの方は、それでも抗おうと、必死に私を守ってくれて・・・
騒ぎを聞きつけて、父さまが一蹴してくれました」
「そんな・・・ナディをバカにするなんて・・・
よくもまぁ、そんなことをして関係が続いているものだ」
下手したら、国交断絶になりかねないし、
互いの宗主国であるフーリン国と竜帝国の軋轢に発展したら、
国域同士の争いになる可能性がある・・・
魔帝国は、どちらかと言えば、フーリン国域と親しい。
そうなれば、魔帝国は確実にフーリン国域につく・・・
従兄も、きっと俺がいることからも、シリンズランドの味方をする・・・
そうすれば、いくら強い竜帝国と言えども、
死戦になるのは必至だ。
まぁ・・・シュキが、あちらの皇太子と縁を結んだことで、
その心配もなくなった・・・
むしろ、シュキが親しくしている、メイリィ姫の婚約者でもあるし・・・
あの皇太子なら、そんな国域同士の血で血を洗うような戦いにいくならば、
その元王太子や元王配の首を差し出し、戦争を回避しそうだし、
シュキだって、フーリン国王夫妻だって、
メイリィ姫のことは気に入っているから、
彼女が傷つくような選択はしないだろうけど・・・
それに、ナディを守ったあの元女王が王座にいたからこそ、
シリンズランド国王も許したのだろう・・・
そうでなければ、今頃は・・・
全く・・・それでいて、よくヴィーラさまに、
婚約者だとか言って、あの元第1、3王女を差し向けられたものだ。
唯一、第2王女だけはその中では異端の存在だった・・・
だが、彼女は竜帝国の皇太子の婚約者となったことで、
ヴィーラさまとの縁談の話はなくなった・・・
しかし・・・大公さま・・・いや、もう、エストランディス王陛下か・・・
あの方のお気に入りと言うこともあるし、
メイリィ姫ともとても仲が良さそうだった・・・
だからこそ、彼女が竜帝国に嫁ぐと決まって、良かったのだと思う。
シュキさまとの“実験”についても、
エストランディス王と、その側近の聖者殿の協力で、
その成果を確認できたわけだし・・・
「それにしても、あの結末は予想できなかったな・・・
まさか・・・エストランディス王になられるとは」
「うん、あの方となら、私たちとも良い関係を築けそう。
新王妃のモニカさまも、とても良い方だし」
「あぁ・・・竜帝国との縁もできた。だけど・・・」
「何か・・・心配?」
「あの元第3王女だ。俺も、元女王陛下は、いい方だし、
最後は最善の選択をしてくれたと思ってる・・・
ナディは・・・いいの・・・?」
「クロウがいるもの・・・守ってくれるでしょう?」
「あぁ、もちろんだ」
俺は、ナディの言葉に、力強く頷いた。
ナディは俺が守る。
一生、俺は、ナディを幸せにする。
そう、心の中で再度、誓った。
―――その後・・・
ナディの温情で生かされている、
エストランディスの元女王・・・マリアは、
シリンズランド王家監視の元、平民として、
つつましく働き、暮らしているそうだ・・・
けれども、その目を盗み、同じく平民となり、
マリアの娘だからと、ナディが同じく温情を与えた
元第3王女・・・トリスと言うアバズレが、
王太子のヴィーラさまに言い寄った挙句、
ナディを“ハーフエルフ”と蔑み、
嫌がらせや侮辱を繰り返した・・・
本来ならば、王族のナディと言葉を交わすことも難しい・・・
けれど、ナディは度々、マリアを心配し、訪問していた・・・
そして、ナディの奉仕活動の一環でも、
マリアは積極的に協力していたのだが・・・
それについて来たトリスは違ったようだ・・・
その度にナディをバカにし、ヴィーラさまに言い寄ろうとし、
マリアがもう来るなと厳しく言いつけても、
聞く耳を持たなかった・・・
遂にはヴィーラさまがぶち切れ、
犯罪奴隷堕ち・・・と言う、
処刑の次に重い罰が与えられた・・・
メイリィ姫の隣にいた、シンシア姫と、
血のつながった妹なのに、どうしてこうも違うのか・・・
思い出すと笑えてくるほどだ・・・
―――
「魔帝陛下も、実験に使いたいと言っていたし・・・
今度は、魔帝国に売ろうかな・・・?
あれも、少しは聖女の力を持っているらしいからね」
そう、犯罪奴隷になっても、次々と問題を起こすトリスに、
ヴィーラさまは遂にそう決断したらしい。
「新たな人生を歩んでいるマリア殿も、その方が浮かばれるだろう」
「けど、ヴィーラさま・・・魔帝国の奴隷事情は・・・」
「確かに、一般的な奴隷であれば、
権利や、保障もついて来るし、魔帝陛下の奴隷は一級品だが・・・
犯罪奴隷は違うぞ・・・?絶対順守の厳しい労働生活が待っている。
まぁ・・・あれの場合、実験材料になるだけだと思うがな」
「ははは・・・容赦ないですね」
「お前だって、はらわたが煮えくり返っているだろう?クロウ」
「まぁ、そうですね。今からでも、八つ裂きにしたいくらいですけど・・・
それでも・・・魔帝陛下に引き渡され、良い暮らしをしている
魔帝陛下の奴隷たちを見て嫉妬心を抱くでしょうか?
それとも、自分もあんな生活が送れると期待してみれば、
人体実験に使われ、絶望するでしょうか・・・?」
「どちらも楽しみだ」
「けど、心優しいナディにはナイショです」
「あぁ、もちろんだ」
そうして、ナディのあずかり知らぬところで、
俺たちはほくそ笑んだ・・・




