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シリンズランドの兄妹

※語り手は引き続きクロウさまです※


金色の髪をもつ、妖精のような少女は、

俺と同じ漆黒の瞳を持っていた。


彼女は、俺が魔族の血を引いていることを知らない。

彼女にはまだ、俺は人族とエルフ族の血を引いていることしか、

国王と王妃も知らないはずだ・・・


年が近いことから、遊び相手になったものの、

彼女は恥ずかしがり、あまりこちらにはこなかった。


しかし、自分に対して嫌悪感は感じない。

本当に、単なる恥ずかしがり屋な女の子・・・

そんな感じだった・・・


書庫で本を読みあさっていれば、

ふと、視線を感じて顔を上げる。

すると、かわいらしい漆黒の瞳と、

ばっちりと目が合った。


慌てて目をらせば、彼女はまた、

とてとてと駆けていく・・・


彼女なりに、近づこうとしているのかな・・・?


そんな、ある日のことだった・・・


シリンズランド城で、パーティーが開かれることになった。

俺は、そんな彼女の供として同伴することになった。


彼女の視線の先には、彼女の異母兄である、アルスヴィーラの姿があった。

特段、ふたりの仲は悪くはない・・・が、

会話がないのだ・・・

国王と王妃夫妻は、気を遣って話に混ぜようと試みて、

アリスヴィーラが話しに混ざれば、彼女はそっと、

視線をらし、ただ黙々と料理を食べてしまう。


内向的な性格が、ここまできたら・・・

彼女は、これから王女としてやっていけるのだろうか?

ふと・・・そう感じた・・・


しかし・・・


「ナディ!」


元気に、甲高い声をだして、

彼女に近寄ってくる少女がいた。

彼女よりも、じゃっかん赤みのある金色の髪に、

鬼灯のような色の瞳の少女。


その少女の姿を見た途端、今までの暗い顔が嘘のように、

花開き、満面の笑みを浮かべたのだ。


「ルティ!」

彼女・・・シェンナディアは、

ルティと呼んだ少女に、嬉しそうに抱き着いた。


「ナディ!元気にしてた?ふふ、今日のドレスもかわいいっ!」


「うん・・・に・・・似合ってる・・・?」


「うん!ナディには、

明るい色がとっても似合うと思ったの!私とお揃い!」

ふと、彼女たちは同じオレンジ色のドレスを着ていることに気が付く。

シェンナディアの性格から、あまり明るい色を好まないと思っていたのに、

今日のドレスの色は、確かに明るい色で、俺としても驚いていた。


なるほど・・・彼女・・・ルティとお揃いを着るために

その色を選んだのだ。


「あら・・・そちらの方は?もしかしてナディの・・・」


「え・・・えっと、クロウは・・・クロウは、その“家族”なの!」

そう言われた時、何故かドキッとした。

彼女は、俺のことを、“家族”だと思っているのか・・・


「てっきり、ステキな方だから、ナディのいいひとかと・・・」


「ルティったら・・・私にはクロウは・・・その、よすぎるの」

よすぎる・・・?


「クロウは、いつもステキで、優しくて、

いっつもそばにいてくれて・・・私にはもったいないの」

そんなことはない・・・

俺は、魔族の血を引いているし・・・

側にいるのも、単に同じ年ごろと言うことで、

遊び相手に任じられただけ・・・

それに、自分が優しい・・・なんてことは初めて言われた・・・


「あの、私も、“クロウさま”と、お呼びしてもいい?」


「・・・俺を・・・?“さま”は要らない・・・俺はそんな身分じゃない」

思わず、首を傾げる。


「だって、私の大切なナディの側にいるひとだもの!

きっとステキな殿方に決まってる!

そうじゃなきゃ、私がナディを守るもの!」

何だろう・・・ちょっと・・・ズキッと来た・・・


こんな小さな女が・・・シェンナディアを・・・


「ルティったら・・・!」


「ナディは、私の大事なお姫さまだもん!」

そう言って、シェンナディアに頬をすりつける、

天真爛漫な少女に、何故か・・・覚えた気持ち・・・


これは・・・“嫉妬”・・・と、言うんだろうか・・・


―――そんな、感情を覚えたある日のことだった。


俺は、アリスヴィーラさまに呼ばれた。


「お話とは、一体、何でしょうか」


「その、お前は・・・この前の王城でのパーティーで、

シェンナディアと・・・その、リヤム王国フラン大公の娘と一緒にいただろう」


「はい、自分はシェンナディアさまのパートナーを務めさせていただいたので」


「あのふたりは・・・どんな話をしていた」


「え・・・?」

シェンナディアに興味を持っているとは思えない、

普段の態度から、彼がシェンナディアについて知りたがることに、

単純にひどく驚いた。


「何故・・・ですか?」


「私は・・・曲がりなりにも、あれの・・・兄だ。

兄が、妹を気にして、何か不都合があるのか・・・?」


「えっと・・・」

何だろう・・・こういうの・・・どこかで見たことがある・・・

・・・そう言えば・・・フーリン国でも、

フェイさまと話をしていたら、

後からシュキが、どんな話をしたか知りたいと、

袖をツンツンしてきたことがある。

あのシュキは、弟のフェイさまが大好きで・・・

いささか、兄バカであった・・・

と・・・言うことは・・・


「アリスヴィーラさまは、シェンナディアさまのことが、お好きなのですね」


「は・・・っ!?」


「お好きだから、気になるのでしょう?」


「それは・・・その、私は、シェンナディアに嫌われている」


「どうして、そう思われるのですか?」


「・・・私と目が合うと、すぐに逃げてしまう・・・」


「それは・・・恥ずかしがっているだけですよ。

見ていれば・・・わかります」

シェンナディアは、仲良くなりたがっている・・・

けれど、あと一歩が踏み出せない・・・


なら・・・


「アリスヴィーラさまから、お誘いしてみてはどうですか?」


「しかし・・・だな・・・」


「先日は、“ルティカさま”と、フーリン国のお菓子の話をしていらして、

シェンナディアさまも興味を持っているようすでした」


「・・・フーリン国のお菓子に・・・?」


「先日、シュキが送ってくれたものがあります。

是非、そちらを召し上がりながら、お話されてはどうでしょう?」


「・・・そうか・・・すまないな・・・クロウ」


「いえ・・・もったいなきお言葉です」


「クロウ・・・君に頼ってばかりですまないのだが・・・」


「いいえ、そんなことは・・・」


「どうか私のことは、“ヴィーラ”と呼んで欲しい。

君は、家族のような存在だと、思っている」


「・・・俺が・・・ですか?」


「あぁ」

そう言って、アリスヴィーラさま・・・いや、ヴィーラさまは、微笑まれた。

俺は・・・この国で・・・この王城で、

彼らに、“家族”として、迎え入れられている・・・

自身の従兄には会ったこともあるが・・・

それは、一度“家族”を失った俺にとって、何よりも嬉しいことだった。


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