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勇者と呼ばれた少年

※今回の語り手は、中身を読むとわかります※


父さんと母さんとは、あまり似ていないと思っていた。

けれど、父さんは微笑みながら教えてくれた、


俺の顔立ちはや、雪のように白い肌の美しさは、

どうやら母さん譲りらしい。


母さんは耳が長く、色白で、

金髪に青い瞳をしていたそうだ。


父さんは、俺と同じ黒い髪に、黒い瞳をしているけど、

頭にはずんぐりとした角が生えている。

その丸みを帯びた耳は、どうやら俺に遺伝したらしい。


けれど、俺には、父さんと同じ角がなかった。


それは、まるで・・・人族のような・・・?


だけど、両親の特徴をそれぞれ受け継いだ俺を、

父さんは、とても大切に育ててくれた。


毎日が、幸せだった・・・


それをぶち壊す・・・人族が現れるまでは・・・


“聖剣”と言うものを引っげてきた男は言った・・・


“勇者さま、お迎えに来ました”


10歳になったばかりの、ただの子どもでしかない俺は、

何も抵抗することができなかった・・・


目の前には、俺を守って斬り捨てられた、

父さんの亡骸があった・・・


男はおぞましいくらいの笑みを向けながら、

動かない父さんの頭を蹴り飛ばし、

そして俺の腕を掴んだ・・・


「やだ!やめて!触らないで!!」


泣き叫ぶ俺を、男は殴った。


“いいから、来るんだ!お前は、“勇者”に選ばれた!

その、何が不服だと言うんだ!せっかく、この魔族から救ってやったのに・・・

何と言う不義理なガキだ!”


―魔族・・・?―


何を、言ってるの・・・?


わからなかった・・・そこに横たわる・・・

その男が蹴り飛ばしたのは・・・俺の父さん・・・

父さん以外の、何ものでもない・・・


「魔族なんて知らない!父さん!父さんを返して!」


「うるさいガキだ!お前はただ、勇者として、

お国のために働けばいいんだっ!!」

また、殴られた・・・


そして、意識が飛びそうになりながらも抵抗した・・・

その時、不意に、俺の足首を誰かの手が掴んだ。


「・・・ウ・・・」


「父さん・・・!?」


血だまりに身をうずめながらも、

父さんの手は、俺の足首を放さない・・・


「父さん!」


「こんの・・・魔族めぇ・・・っ!」


男が逆上した・・・


「や・・・やめ・・・っ」


「・・・クロウ・・・」

最期に、父さんが微笑んだ気がした・・・


そして俺は、光に包まれながら、その場からふわっと浮き上がった。


「くそっ!この魔族を殺せ!転移させる気だ!」


転移・・・?そんなことが・・・できるのか・・・?


そして、その後、何が起こったかはわからない・・・


気が付けば俺は・・・猛吹雪の中にいた・・・


何となくそれは、昔父さんが言っていた、

霊峰と呼ばれる、白銀の山脈の中のような気がした・・・


あの、人族たちからは逃れられた・・・

けれど、ここに父さんはいない・・・


多分、父さんは最期の力で、

俺を、転移させたんだ・・・


けれど・・・満身創痍だったから・・・

俺を、少しでも遠くに、遠くに転移させた・・・


昔、聞いたことがある・・・

俺には、特別な守護があるから、

滅多なことでは死なないと・・・


けれど・・・こんな一面雪の山の中で、

一体、どうやったら生きてゆけるんだ・・・


最期の父さんの姿を思い浮かべて、

俺は涙が止まらなかった・・・


けれど、不意に、先ほどまで吹き荒れていた猛吹雪が、

ぱぁっと晴れたかと思えば、泣き崩れていた俺の上に影がかかった・・・


見上げると、こんな大雪原の中だと言うのに、

ひとがいた・・・

いや・・・彼は、ひとなのか・・・?


俺と同じ、漆黒の髪に、赤い瞳・・・

雪のように透明な肌は、何となく親近感が沸いた。

彼は美しい顔立ちに、そしてとんがった耳を持っていた。


「・・・君は、えるふ・・・なの?」

昔、父さんが言っていたことを思い出す。

俺の母さんは、とんがった長い耳を持っていたのだと。

そういう種族を、“えるふ”と言うらしい・・・


「・・・私は、フーリン族だ」


「ふーりんぞくって・・・なに・・・?」


俺が首を傾げると・・・


「・・・知らないのか・・・?

お前、ここで何をしている・・・?

お前は、人族のようなのに、魔族と人族とエルフが混ざっている・・・」


「・・・わ、かるの・・・?」

俺には、父さんのような角もないのに・・・

見た目は単なる人族にしか見えない・・・

けれど・・・人族・・・?

父さんと母さんのどちらかが、人族の血も引いていたのか・・・?


「お前、一緒に来るか」


「いいの?」


「混ざりものとは言え、我ら以外が、

この雪山でさすらうには、辛かろう?」


「・・・うん・・・」

彼が、どう言う存在なのか、

当時はわかりもしなかった。

けれど、俺はその手を取った・・・


きっとそれも、ひとつの運命であったのだろう・・・



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