エルフ族の王国、シリンズランド
※回想の口調統一しました<(_ _)>
砂漠の王国・ロディア王国の西方にある隣国でありながら、シリンズランドは緑豊かな森に包まれた国である。そしてリヤム王国と同じくフーリン国の属国。
国境地帯には荒れ野が広がるが、シリンズランドに近づくにつれて段々と緑が増えてくるのである。
シリンズランドに到着し、ちょっと恥ずかしい身なりながらシュキさまにエスコートされて馬車を降りたところ、真っ先に私に駆け寄ってきてくれた少女がいた。
「ルティ!?」
鮮やかな金髪に私と同じハーフアップツインテール仲間の彼女は黒い瞳に、エルフ族と人族との混血のため耳はシュキさまのように尖っているため本来のエルフ族の耳よりはだいぶ短い。かわいらしい顔立ちに雪のように白い肌を持つ美少女。私とは同い年で今年16歳になる。
前世の世界では“ハーフエルフ”と呼ばれるが、それはこちらの世界では蔑称である。外国ではわからないが、少なくともフーリン国に属する国々の中では彼女らをそう蔑称で呼ぶものは少ない。エルフ族はその血統を大事にはするものの、彼女らの宗主国を納めるフーリン族と同じ耳を持つ彼女らはむしろ縁起がいいと歓迎されるのだ。
「その。ひ、久しぶり。ナディ」
彼女の名前はシェンナディア・マリン・シリンズランド。シリンズランドの王女殿下。私は以前はリヤム王国王太子の婚約者だったため、彼女とも親交がある。何となく趣味も話も合ったので個人的にも友人関係を築いている。
「どうしたの!?その恰好、それに髪も砂だらけじゃない!」
「シェンナディア姫」
その時シュキさまが口を開いた。シュキさまのお相手はナディの異母兄であるシリンズランド王太子殿下が務めていたけれど。不意に私の方を向く。
「ルティカに湯あみと着るものを。代金はフーリン国に請求してもらってかまわない」
「も、もちろんですわ!でも、そのー、着るものは私のがありますから平気です!」
ナディったら。
「その、そんなに上質なものは」
ナディはシリンズランドの姫だからきっと着るものだって最高級品だろう。
「ダメよ!私のルティだもの!ちゃんと飾りたてなきゃ!」
わ、私のって。相変わらず友だち思いのいい友人である。
「いや、シェンナディア姫」
ん?シュキさまが再びナディに話しかけている。
「私のルティカだ」
何を張り合っているんだろうシュキさま。ナディもはい?と首を傾げていたし。
―――
その後私はシリンズランド城の侍女たちに目一杯磨かれキレイにされ、そしてナディのドレスを借り飾り立てられた。もちろん髪型はナディとお揃いのハーフアップツインテールである。
「わぁっ♡♡♡ルティカったらとってもかわいいっ♡♡♡♡♡♡♡♡」
相変わらず熱烈大歓迎なナディは私にぎゅむっと抱き着いてくれた。
「ありがと、ナディ」
「ううん、気にしないで。あと、リヤム王国から流れてきた情報があるんだけど」
「うん。その、話ね」
まぁ南西に位置する隣国でもあるわけだしすぐに広まるとは思ったけど。
「何でも第1王子殿下の新しい婚約者が発表されて、しかも聖女だって」
「うん」
「それ、ルティがあんな格好だったことと関係あるの?何故シュティキエラ殿下がこちらに突然寄られて、更にルティと一緒に来たのかまるで謎なのだけど」
「その、えと。それなんだけど」
私が祖国で体験した事件について説明すると、ナディは物凄い怒りをあらわにした。
「信じられないっ!何あのバカ王子!許せない!」
ば、バカって。まぁ、浮気男だと思うけど。
ナディの兄君と比べたら天と地ほどの違いがあるでしょうし。
「それでどうしてシュティキエラ殿下と一緒にいたの?」
「あ、あの。えーと、実は・・・」
と、言おうとした時。
「ルティカ」
シュキさまが部屋にやってきた。
「着替えが終わったと聞いた」
「はい。シュキさまは王太子殿下とお話されていたのでは?」
「あぁ、もう終わった。今夜こちらに滞在する許可をもらった」
いや、宗主国の王太子殿下相手に許可出さないわけないけど。
「じゃぁ、ルティもここに泊まるの?むしろずっとここにいてもいいのよ?ルティは私の大切な友だちなんだから」
「ナディ」
私が追放された身でもそんなことを言ってくれるなんて。本当にいい友人である。
「いや、ルティカはフーリン国に連れて帰る。ルティカは私の婚約者で将来は妻に迎えるのだから」
「・・・」
ナディが固まっている。
「ちょっと、失礼します」
と言うと、ナディがどこかに去っていく。どうしたんだろう。
暫くすると私も知っている顔がやってくる。それは黒髪に吊り目がちの黒目の青年で、人族とエルフ族の混血であるが耳は人族のそれと変わらない。だがその美貌は確実にエルフ族由来だろう。彼はクロウ・サーガ。ナディの従者・騎士を務めつ、婚約者でもある青年で、当然ながら私も彼とは顔見知りであるのだが。
「シュキ、ちょっと話がしたい」
「わかった」
そうシュキさまが頷くと、クロウさまと一緒にどこかへ行ってしまった。あれ、クロウさまがさっきシュキを呼び捨てにしていたような?敬語でもなかったし。
「あの、ナディ。クロウさまはシュキさまとはどう言った」
「あのふたり、何故か仲がいいのよ。クロウに聞いたら昔からの友人って言ってたけど」
あのふたりも友人同士だったとは。クロウさまってナディの未来の旦那さまで“勇者”と呼ばれる立場の方なのだけど、割と謎が多いのよね。
何だかリヤム王国のことは毛嫌いしているみたいで。でもナディの友人の私には、優しく普通に接してくれるのだ。
―――暫くしてふたりが帰ってくると、
「ナディ。今日はルティカ譲と一緒の部屋にしてもらえるそうだ」
「まぁ、ありがとうございます。シュティキエラ殿下」
と、にこっと微笑むナディをシュキさまはじっと見つめる。
「ルティカは私の妻になるのに何故寝所が別々なのか」
一緒に寝るつもりだったのか。このひと。
「正式な婚約発表前なんだから親父さんの体裁もあるだろ?少しは自重しろ」
と、クロウさま。
因みに親父さんと言うのは十中八九シュキさまのお父君・フーリン国国王陛下のことだろう。国王陛下ともクロウさまは親しいのかな?やっぱり謎な方だ。
「国に戻ったら、一緒に寝よう」
シュキさまのそのセリフにはどうコメントすればいいのだろう。クロウさまを見ると微妙な表情をしている。
「その、正式な婚約が認められたら、ですよ?」
「わかった」
どうやら納得してくれた様子。
けれど国王陛下が認められなかったら私はどうしたらいいのだろう。そんな不安も抱えつつ、今日はナディたちの厚意に甘えることになった。