決闘、そして新たな疑惑
王城の一郭である広い演習場で、
シュキさまとソルが向かい合っている。
その周りには、いかにも・・・な、
殺気だだもれなシュキさまの部下のかたがたや、
急遽決闘の立ち合い人として、
シュキ専属の近衛騎士団長・アルオさんの
一番上の上司である近衛騎士総団長が来られ、
てんやわんやで準備が進められ、
遂にふたりの決闘が幕を開ける。
近衛騎士総団長が開幕の合図を告げれば、
シュキさまが背に6枚の三日月型の刃と、
両手に添えるように、双剣を顕現させ、
金鱗を展開させる。
それをみたソルはにいぃっと嗤い、
天に向けて腕を伸ばす。
「さぁ・・・顕現せよ!ホーリーソード!」
え・・・何・・・?そのすごそうな名前・・・
そして、ソルの手に、白く輝く剣が握られた。
「ふふふ、このホーリーソードさえあれば・・・
貴様の邪悪な闇の装甲など、あっという間に打ち砕いてみせるぞ!」
じゃ・・・じゃあくな装甲って・・・
金鱗のこと・・・?
確かに刃の色は黒だけど・・・その刃はキラキラと輝いており、
夜空にきらめく星のような・・・星空のような刃だ。
双剣の持ち手は金色で、額にルビーのような玉があしらわれた、
とても煌びやかな剣だと思うけど・・・
「はああああぁぁぁぁぁっっ!!!」
そう、気合を入れて、ソルがシュキさまに向かっていく・・・
シュキさま・・・大丈夫かな・・・っ
しかし、そんな心配も一瞬で霧散する。
シュキさまは、添えるように持った剣ひとふりを、
さっと上に振り上げた・・・
その瞬間、烈風の如き風刃がソルを襲い、
ソルの掲げたホーリーソードとやらは粉々に霧散し、
呆気なくぶっ飛ばされたソルは地面に打ち付けられた。
「ぐぁはぁっ!!」
か・・・かっこわる・・・
シュキさまは、流麗でかっこよかったけど。
「そ・・・そんな・・・バカな・・・ホーリーソードが・・・
マキアが・・・これで、フーリン族にも勝てるって・・・言ったのに・・・」
マキア・・・?
この件に、マキアがまた関わっている・・・?
「あぐっ!」
その瞬間、ソルが痙攣する。
「様子がおかしい!」
シュキさまがそう叫べば、
シュキさまの部下と思われる騎士たちが、
一斉にソルに駆け寄る。
そして、何やらもめている・・・?
いや・・・唸り声が聞こえる・・・?
「こりゃぁ・・・ダメですね・・・」
シュキさまの元に報告に来たのは、
茶髪にオリーブグリーンの瞳の、
爽やか系のフーリン族の男性だ。
「精神がやられてますよ。恐らく、何らかの呪術じゃないかと」
えぇ・・・精神が・・・?
呪術って・・・
「あの・・・ソルはどうなるんですか・・・?」
つい、私もレツィアと一緒に駆け寄ると・・・
「ルティカ・・・あの男の名を呼ぶ必要はない」
と、シュキさまにぴしゃりと言われてしまう。
「ルティカが穢れてしまう」
いや、そんなことはないと思うけど・・・
「じゃぁ・・・今まで通り、“浮気男”って呼びますね」
「うん、それでいい」(キリッ!!)
うん・・・どうにか納得してもらえたみたいだ。
「それで、精神が崩壊してるって言うのは・・・」
「まともに会話ができていませんし、目も虚ろです。
所謂・・・廃人ですね」
と、爽やか騎士さん。
「しかし、罪人であることには変わりない。
城下街で騒ぎを起こし、王族を侮辱し、
ルティカを攫おうとした重罪人だ」
確かに・・・私を連れ帰ろうとしていたけど・・・
でも、宗主国の王族を侮辱したら・・・重罪だろうな・・・
それも、もうソルは小さな子どもではないのだ。
王太子として、責任ある立場にならなくてはならなかった・・・
「あのホーリーソードって言う剣も、気になりますね・・・
引き続き調査を続けます。あの重罪人は、幽閉でよろしいでしょうか」
「あぁ・・・後日、父上が処遇を決めるだろう。
ルティカがいるこの国にはおいておきたくない・・・
かといって、追放すれば他の属国、従国が被害を被る。
ゆくゆくはリヤム王国でしっかりと隔離、幽閉させねばなるまい。
そのためには、リヤム王国にその管理体制がとれるかどうかを、
しっかり確認せねばな・・・」
確かに・・・フーリン国からの処罰が決まる前に、
ソルを放逐したのか、それともソルに逃げられたのか・・・
どちらかわからないけれど、結果的にソルがここまで辿り着き、
フーリン国の王族を侮辱し、決闘騒ぎまで起こしたことには変わりないのだ・・・
それでも・・・バカなのは元々だけれど、
ソルはマキアに利用されるだけ利用されたような・・・
そんな感じがした・・・
ソルに横恋慕して、婚約者の座を手に入れたマキアにとって、
ソルは、愛すべき存在では・・・なかったのだろうか・・・
それとも、ソルを攻略したからこそ、
ソルはお払い箱・・・
そう考えれば、次々に他の男性・・・
シリンズランドのヴィーラさまや、クロウさま、
魔帝国のルダ魔帝陛下、
魔帝陛下の奴隷であるヤタくん・・・
そしてシュキさまにまで手を出したことにも、予想はつく。
私の考えが正しければ、
ヴィーラさま、ルダ魔帝陛下、クロウさま、
シュキさまは恐らく、“第2シリーズ”の攻略対象だ。
第1シリーズの攻略対象・・・
ソル、異母兄のロティスを攻略し、
私を断罪したマキアは、次に第2シリーズの攻略対象を
攻略するために、攻略済みのソルを踏み台にしたのかもしれない・・・
だが・・・腑に落ちない・・・
ロディア王国の王太子・・・フィル殿下と、
リヤム王国第2王子・ロッタ殿下は、
第1シリーズの攻略対象だ・・・
彼らふたりは、どちらもマキアに攻略されているようには思えなかった・・・
それに、ヤタくんの件も、ルダ魔帝陛下が付いていらっしゃるから、
攻略はそもそも、近づくことすら困難なはずだ・・・
それとも、諦めたのか・・・
もしくは・・・ヤタくんが、第2シリーズの攻略対象とみられる
ルダ魔帝陛下と共にいるから、まとめて攻略しようとしたのか・・・
「あの・・・シュキさま・・・折り入ってお願いがあります。
もしかしたら、マキアの動向を掴むきっかけになるかもしれません」
「・・・あの女の・・・?お願いとは、何だ」
「えぇと・・・至急、ロディア王国のフィル王太子殿下と、
リヤム王国第2王子・ロッタ殿下の安否を確認してほしいのです」
「・・・わかった・・・少しでも・・・手掛かりに繋がるなら。
レオン、あとは任せていいか」
「何なりと」
レオン・・・と呼ばれた爽やか騎士さんは、
シュキさまに一礼すると、部下のひとたちをつれ、
ソルの連行と共に颯爽とこの場を後にした。
私も、シュキさま、アルオさん、レツィアと一緒に
ひとまずは城内へと戻ることになった・・・




