フーリン国での日々、そして贈り物
※脱字投入しました(〃´∪`〃)ゞ
「・・・兄さんの・・・バカ!」
「・・・レツィア、思い直せ!」
えぇと・・・現在の状況を説明すると・・・
私とシュキさまの前で、
シュキさまの腹心・アルオさんと、
その妹で、私の護衛兼侍女のレツィアが、
まさかの兄妹ゲンカを勃発させていた。
「まぁまぁ、落ち着いてください、ふたりともっ!」
「小娘が!もとはと言えば・・・貴様のせいであろうがっ!」
と、いつも通り私に対して口も態度も悪いアルオさんに、
思いっきり指を指される。
「アルオ・・・め、ハウス」
いやいや、シュキさま・・・!?犬じゃないんですから・・・!
「・・・うぅ・・・わかった・・・」
って、アルオさんが大人しくなったぁ―――っっ!!!
「そもそも、ケンカの原因は何なんだ」
と、シュキさま。そう言えば・・・
私とシュキさまは互いにその原因を知らなかった。
気が付いたら、この兄妹が言い合いをしていたのである。
「その・・・コイツが・・・レツィが刺繍をしたと言い出すから・・・だ」
アルオさんは、素が出るとレツィアを
更に親しみを込めた愛称・レツィと呼んでいるらしい。
「ルティカから聞いた・・・ソラノシア連合王国では、
姉妹や兄弟に対し、女性が刺繍入りのハンカチを・・・プレゼントすると・・・
だから・・・私もルティカに教わって、兄さんにプレゼントすることにした!
さぁ・・・受け取れ、兄さん!」
「やめろおおぉぉぉぉぉ―――っっ!!大体なんだ!それは!呪いの産物か!!」
確かに・・・レツィアのハンカチに刺繍されたそれは、
何かの呪い文字のような配列をしていた。
「でも、最初に比べたらだいぶましになったんですよ?」
最初なんて・・・ほら・・・血文字のようになってる・・・
いや・・・アルオさんの瞳の色に因んで、
赤い糸で縫ったのが失敗だったので、
今度はアルオさんの髪色である深い藍色の糸で
縫ってみたのだが・・・それはそれで不気味さを示唆している。
「しかし・・・何故急に刺繍なんだ?」
と、シュキさま。
「えへへ・・・実は、シャーラから、
姉妹の絆だと、刺繍入りのハンカチをもらったので」
薄黄色のかわいらしい布地に、
私の瞳の色である、鬼灯をモチーフにした、
かわいらしい刺繍が施されている。
「だから、私もシャーラにハンカチを刺繍したんですよ。
今度、贈ろうと思って」
私が手に取ったのは、シャーラのサファイア色をイメージした、
水色と、青の糸で、かわいらしい小花をモチーフに刺繍された、白いハンカチだ。
「・・・ルティカからの・・・ハンカチ・・・」
「はい、喜んでくれるといいなぁ」
「・・・私のは・・・?」
「シュキさまは、私のきょうだいじゃなくて、婚約者じゃないですか」
「ぐがっ」
あれ・・・?
「ふ・・・っ、小娘め。無知とは恥だな!」
と、レツィアと金鱗までもを展開させながら
必死にハンカチを受け取るまいとしているアルオさん。
何か、いつものようにチクチクと刺してくるのだが・・・
やっぱり、何かカッコ悪いような・・・
「フーリン国では、大切な存在に、刺繍入りの小物をプレゼントするのだ!」
あぁ・・・フーリン国でも、同じような習慣があるのか・・・
「それじゃぁ、シュキさまにも刺繍入りのハンカチをプレゼントできますねっ!」
「ルティカ・・・!」
お・・・何だか嬉しそう・・・
相変わらずの仏頂面だけど、ほんのり頬が赤らんでる。
機嫌が治ったみたいだ。
「そうだ、義弟のニオくんやフェイくんにもあげましょうかねぇ」
「ルティカ」
「はい、シュキさま」
何だか・・・物凄い真剣な眼差しをされている・・・
「一番は・・・私だぞ」
「へ・・・?あぁ・・・お急ぎなら、
シュキさまのを最初に刺繍しますね」
「・・・うん、そうしてくれ」
早速、シュキさま用にハンカチに刺繍を始めたので、
レツィアは今度はお父さんにあげるのだと、
一緒に刺繍をすることにした。
因みにアルオさんは、観念してレツィアのハンカチを受け取り、
何故か不気味に笑いながら涙していた・・・
あれ・・・何かまじないでもかかっていたのか・・・
でも、フーリン族なら魔法耐性が並外れているはずだし・・・
シュキさまも何も言わないので、まぁいいだろう。
「何の刺繍をしてくれるんだ?」
と、シュキさまが覗いてくるので・・・
「できてからのお楽しみにするのも、粋なものでは?」
「・・・そうだな、では、楽しみに・・・している」
そして、傷心のアルオさんをひっぱり、
シュキさまは公務へと向かった。
レツィアは本人曰く・・・花・・・だと主張している、
だいぶましになったハンカチを嬉しそうにお父さんに渡しに行った。
因みに、レツィアとアルオさんのお父さんはこの国の宰相閣下である。
私は、シュキさまの瞳の色の赤い糸を中心にした。
赤と言えば・・・バラ・・・
でも、まだちょっと、私にはレベルが高いので・・・
身近なところから、ツバキの花をモチーフに刺繍を施した。
前世でもおなじみの花だが、
実は標高の高いフーリン国でも、
似ている花があるのだ。
そして、私も休憩がてら顔を覗かせたシュキさまに、
早速ハンカチをプレゼントしたら、
何故か盛大にハグされたのだった。