フーリン国での新しい生活
「ルティカ、紹介する。
私専属の近衛騎士・ルクレツィアだ。
今日からルティカの護衛兼侍女を務める」
朝起きてすぐ、シュキさまが紹介してきたのは、
シリンズランドでも護衛をしてくれていた、
赤紫色の、セミロングのストレートへアーに、
瞳孔が縦長で、オレンジ色の瞳の少女。
年齢は私と同じくらいで、
フーリン族の特徴である耳がとがっている。
「よろしくお願いします。ルティカさま。どうぞ、レツィアとお呼びください」
あれ・・・この声・・・
「こちらこそ、よろしくお願いします。
因みに・・・その、お兄さんとかって、いたりします・・・?」
「あぁ、あれです」
と、レツィアが指さしたのは、後ろで不機嫌そうに腕を組んでいる・・・
てか、“あれ”って・・・
「・・・アルオさん」
「何だ、小娘。妹に何か文句があるのか」
「いや、無いですけど」
アルオさんには文句ありまくりだわ。
「因みに、兄さんとは異母兄妹だが、
普通に仲は良いので気にしないでください」
「それはなによりですね!」
私にもそんな時代があった・・・
けれど、レツィアとアルオさんは、
今までの会話からしても仲が良さそうなので・・・
ちょっとほっとする。
「では、私は公務に行ってくる。
本当はルティカをお膝の上に乗せてかわいがりたかったが、
アルオにどうしてもだめと言われたので、
ルティかも我慢してほしい」
いや、私も希望しているみたいな言い方だけど・・・
むしろ、希望してない。
そこら辺のアルオさんの有能性には、素直に感心せざるを得ない。
「では、行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
「・・・」
「・・・?」
普通に婚約者をお見送り・・・した感じなのだが・・・
何か、間違っていたかな・・・?
「・・・行ってきますの・・・ちゅーは」
「え・・・」
「お尻ぺんぺんの時以外は、行ってきますのちゅーは必須なのだと、教わった」
いや、誰にだよ!!
ハッとして、アルオさんを見やれば・・・
“俺じゃねぇっ!!”
とばかりの眼光で睨まれた。
「ルティカ・・・」
シュキさまに名前を呼ばれて、
頬に手を添えられて、シュキさまの美しいイケメンを拝まされる、私。
「私を見て欲しい」
「は、はい」
強制的に見させられている。
「ちゅー」
「・・・」
しょうがないなぁ・・・
何故かアルオさんもそれは止めないし・・・
まずいことでは・・・ないのよね・・・?
・・・ちゅっ
無論、口じゃない。
期待しないでっ!!そこっ!!
頬に、優しく唇を乗せた。
こ、これなら・・・口よりは・・・難度が低い。
「・・・口は・・・?」
と、シュキさまが首を傾げる。
「その、口は、結婚してからです」
「そうなのか・・・?」
「そうです」
ここは強行突破で。
「わかった・・・昼には一度戻る。
戻ったら、ただいまのちゅーをくれ」
「・・・は、はい」
マジでか。
公務全部終わってからじゃなくって、
昼にも・・・
「ちょっと・・・恥ずかしい・・・かもなのですが・・・?」
「・・・何故・・・?」
何故って、それが乙女心だからぁっ!!
「・・・俺は全く問題ない」
「じゃぁ、シュキさまからすればいいじゃないですか」
「・・・いいのか・・・?」
ぱああああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!
何故か、シュキさまの背後にバラが咲き誇った。
「では、ただいまのちゅーは、私からしよう」
「は・・・はい・・・お願いします」
「口は・・・」
「頬でお願いします」
「・・・口はダメか」
「結婚するまでは頬でお願いします」
「・・・ん、わかった・・・では、頬で」
そう言って、シュキさまを見送った私は、
寝室でレツィアとふたりきりになった。
「あの、レツィア」
「はい、ルティカさま」
「レツィアは・・・失礼かもだけど・・・何歳?」
「今年、16です」
「じゃぁ、同い年ね・・・あの・・・お願いが、あるのだけど」
「はい、何なりと」
「あの・・・“ルティカ”って、呼んでくれない?できれば、敬語も・・・」
「・・・ですが・・・」
「あの・・・フーリン国で・・・その、
年の近いお友だちがいたら・・・きっと、心細くないと思うの」
「心配なさらなくても、ウチのシュキさまは、
心細さも与えないくらい、でろっでろに甘やかしてくると思います」
それはそれでどうなんだろうと思うんだけど・・・
「どうしても・・・なら・・・無理にとは言わないわ!
その、この話は忘れてくれていいから・・・!」
「・・・どうしても・・・本当に、いいのか?」
あぁ・・・これが素なのか・・・
「うん、その方が、何だか、レツィアらしい」
「そうか・・・?ご令嬢らしくないと、常々言われているが」
まぁ、確かに勇ましいものね。
「えっと・・・アルオさんの妹さん・・・だから、宰相閣下のご令嬢なのよね」
「あぁ、そうだ」
「ご実家は・・・勉強のためにどのようなお家なのか、聞いてもいい?」
「実家は・・・ウチの父は、国王陛下の弟で、大公をやっている」
ぐはっ
まさかの・・・断罪前の私と同じ・・・大公令嬢!!!
「あ・・・浅からぬ縁を感じるわ・・・」
「そう・・・?」
「あの・・・レツィア」
「なぁに、ルティカ」
“ルティカ”と呼んでくれる・・・
何だか、嬉しいな・・・
「婚約者として、何か必要なお勉強とか、公務はあるの?」
まずは、ここである。
お世話になっている・・・と言うか、
婚約者として半ば居候のような形で転がり込んだ以上、
私も何かしなくては・・・と言う衝動に駆られる。
「・・・特に、決まってはいない。
シュキさまは、自由に過ごせと言う方針だ」
それはそれで困るのだが・・・
「あの・・・レツィアは大公令嬢なのよね」
「そうだな」
「だったら・・・その、この国の礼儀作法を・・・
教えてくれない・・・?リヤム王国でもだいたいは習ったけど・・・
まだまだ、知らないことも多いと思うの」
「・・・うん、いいよ」
そう言うわけで・・・私はレツィアに礼儀作法を習うことになった。