うん、世界一かわいい
※シュキさまの一人称が間違っていたので修正しました
フーリン国に着いた私たち。
他のみんなやシュキさまはぴんぴんしているが、
私は目がぐわんぐわん回ってしまい、
とてもじゃないが、フーリン国がどったらこったらと
回想できる状態ではない。
なのでシュキさまにお姫さま抱っこされたまま、
身を預けていれば・・・
「全く・・・軟弱な娘だな」
これは絶対、アルオさんの声だ・・・!
・・・くぅっ!このひとはっ!!
何でいつもこんな辛辣かなぁ・・・
「兄さん、そう言う言い方は良くない」
少し低めのアルトボイスだが、女性の声だ。
あれ・・・近衛騎士団の中に、
アルオさんの妹がいたのか・・・?
近衛騎士団のひとたちの顔は大体覚えたつもりだが、
名前はまだ、アルオさんしか知らないのだ。
いつもシュキさまがべったりで・・・
話す機会もなくて・・・
あぅ・・・さすがに3時間ジェットコースターは・・・
や・・・ヤバすぎる・・・
一応、騎士団のひとに身体強化魔法をかけてもらったけど・・・
それでも満身創痍だった・・・
地上についてだいぶ落ち着いたからか、
シュキさまの体の熱を感じる・・・
何だか、心臓までドキドキして・・・
いや・・・ジェットコースターのせいかもしれないが・・・
「ルティカ・・・寝てしまったの・・・?」
いや・・・もう、瞼開ける元気も、
声を出す気力もない・・・
「・・・ルティカは・・・寝顔もかわいい・・・
ルティかは天使・・・いや、女神のようだ」
だから・・・セリフと場面が合ってないからぁっ!!
「シュキさま・・・城からの馬車を待ちましょうか」
先ほどの・・・アルオさんの妹さんの声だ。
「いや・・・城くらい、飛んでいけばすぐに着く」
い・・・いや・・・勘弁してくださいっす・・・
もう、これ以上・・・これ以上は無理っす・・・
「シュキ、その軟弱娘には無理だから、馬車を待て」
「・・・そうなのか?」
そうです!!
アルオさんの指摘なのが納得いかないけど・・・
その・・・マジで馬車にしてくんしゃい・・・。
その後、馬車に揺られて、
シュキさまに相変わらず抱かれながら、
うとうとしていたら・・・自然と・・・眠く・・・
―――
そして私は・・・眠ってしまったらしい。
目が覚めると・・・ベッドの上であった。
「こ・・・こは・・・」
「んん・・・っ」
ん・・・?今の、誰の声・・・?
「ルティカ・・・起きたの・・・?」
「・・・シュキさま・・・?」
何故・・・シュキさまが隣で寝ているのだろう・・・
いや、ここはフーリン国。
シュキさまの国なのだから、
シュキさまがベッドに寝る権利はもちろんあるわけだが・・・
「何故・・・そこで寝ていらっしゃるのですか?
いや、むしろ何故私がシュキさまの隣で寝かされていたのですか?」
「・・・ルティカが隣に寝ていない・・・と言う定義は、
どこにあるのかわからない」
いや、まずその定義、どこから出てきたの!?
「まぁ・・・その、休ませてくださったことには、感謝しています」
「あぁ・・・でも、眠っている間の湯あみと、
着替えは、侍女たちに怒られて、私ができなかった・・・」
しゅーん・・・とするシュキさまはかわいい・・・
と感じてしまうが・・・
いや、マジで、フーリン国の侍女たち、グッジョブ。
寝ている間に、裸見られなくって、よかった・・・
さすがに、それくらいの羞恥心はある。
いくら相手が、命の恩人であるシュキさまでも。
その時、ノックの音が聞こえた。
『兄さま・・・入ってよろしいですか』
兄さま・・・?
ってことは・・・フーリン国の第2王子殿下・・・
シュキさまの弟君ね・・・
「あぁ、入れ。フェイ」
シュキさまが答えると、扉から15歳ほどの少年が入ってくる。
ダークブラウンの髪に、琥珀色の瞳。
褐色の肌に、美しいけれど少しあどけない顔立ち。
更に、特徴的なのは、獣人族の特徴である狼耳しっぽ・・・
何となく、ソラノシア連合王国の狼家の太子・・・
いえ・・・もう、義理の弟になったのだっけ。
私の義弟のニオくんにとてもよく・・・
と言うか、そっくりだなと思う。
服装が違わなければ、てっきり本人かと思ってしまうほどだ。
そして服装は、フーリン国ではよく見かける装束・・・
まるで着物のような袷のある服を纏っているが、
肩を露出するように袷部分を下げており、
その下に、地球での・・・いわゆるSFかなんかでよく見る
濃色のバトルスーツのようなものを身に纏っている。
上に着る着物は、大体自由に着られるらしく、
シュキさまは濃い目の茶色系が多い気がする。
第2王子殿下は、紫色の衣だ。
標高の高い・・・と言うか、
モロ山の上に位置するこのフーリン国では、
今の季節も変わらず涼しい・・・
と言うよりも、もうすぐ冬のため、
かなり肌寒いと思う・・・
だが、彼らのバトルスーツのような内着は、
胸元と背中が大きめに開いているちょっぴりセクシーなデザインで、
人族からしたら、とてもじゃないが耐えられない。
今私が着ているのは・・・桃色のかわいらしい着物・・・
いや、モロ寝巻用の着物・・・だが、
その上に赤い厚手の羽織を着せられている。
「兄さま、お帰りなさい」
「あぁ、ただいま、フェイ」
「僭越ながら、お尋ねしてもよろしいでしょうか」
「あぁ、何だ」
何だろう・・・?
第2王子殿下がささっとベッドの上のシュキさまの傍らに腰掛け、
そしてすかさずシュキさまがお膝の上に乗っけてもふっている、
第2王子殿下のふわもふわふたんしっぽの件だろうか・・・
わぁ・・・ふわもふ・・・
私も、ソラノシア連合王国でめでたく姉妹になった、
シャーラのふわもふわふたんしっぽをもふりたくなってきたのだけど。
「兄さま・・・婚約確定前に、同衾はどうかと思います」
そ・・・そうだよね!?
普通、この状況にツッコむよねっ!?
どうやら、第2王子殿下は天然・・・ではないらしい。
兄弟そろって天然だったらどうしようかと思った・・・
「それは・・・」
シュキさまもさすがにその指摘には言葉が詰ま・・・
「フェイも、一緒に寝たかったのだな・・・
気が付かずに済まない・・・では、明日のお昼寝は、
一緒に、フェイのふわもふわふたんしっぽを
ふわもふしながら・・・お昼寝しようか」
「・・・」
あの―――。第2王子殿下が固まっているのだけど・・・
これ、大丈夫・・・??
「今・・・しっぽ枕だけ・・・堪能していい?」
そしてこの期に及んでシュキさまの謎要求―――っっ!!!
「それで、兄さま、そちらが婚約者予定のご令嬢ですか?」
いや、しかも、第2王子殿下もすっとばした!
さらりとすっとばしたし!!
「あぁ・・・ルティカだ。ルティカは、世界一かわいい」
そしてシュキさまも、さらりとすっとばされたことに、
全く動揺もしなければ、ツッコミもしないのだけど。
「・・・兄さま」
「どうした、フェイ」
私・・・やっぱり・・・その、
相応しくないのかな・・・シュキさまの、婚約者となるのに・・・
「それだと、世界一かわいいのは、
俺と、ルティカさまのふたりになります」
いいや、そこかいっ!!
そこなのかっ!!
と言うか・・・シュキさま・・・
弟君にもそんなことを・・・?
「・・・フェイは、弟として世界一かわいい。
ルティかは私の伴侶として世界一かわいい。だから、かぶっていない」
なんつー屁理屈だっ!!
べ、別にいいけども。
兄弟思いなのは見ていても和むし。
「なら・・・別にいいですが・・・兄さま」
まだ・・・何か気になることでも・・・?
「俺の紹介はまだですか?」
くぅ~ん・・・
は・・・っ!!
つい、“くぅ~ん”と言う効果音を
脳内再生してしまった!!
「・・・うん、もちろん。
ルティカ・・・俺の弟のフェリューエインこと・・・フェイ。
フェイは・・・世界一かわいい」
やっぱりその紹介の仕方は変わらないらしい。
「どうぞ、“フェイ”とお呼びください。
・・・ルティカ姉さま、とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
ぐはっ
「え・・・えぇ、もちろん・・・っ!」
何か・・・何かかわいい仔犬みたいに見えてきた―――。
脳内効果音にさっきから・・・
“くぅ~ん”が消えないいいいぃぃぃっっ!!!