魔帝陛下、そして奴隷制度
魔帝国には確立した奴隷制度があり、
魔帝陛下・・・ルダさま専属の奴隷もいる。
彼の側にも奴隷は控えており、みな見目麗しい。
しかし、奴隷と言っても、
前世の知識にあるような感じではない。
彼らはみな、魔帝陛下に仕えるにふさわしい身なりをし、
教養・武術を身に着けているのだ。
ルダさまの客人である私たちに対しても、
不遜な態度をとったりはしない。
ルダさま曰く、南方のカイエ魔王国はともかく、
人間の国の奴隷たちの方がよほどひどく、
あれで本当に主人に仕えるに足りるのかと、常々懸念されていた。
より多くの見目麗しく、教育の行き届いた奴隷を抱えることこそが、
ルダさま曰く、魔帝国では権力の象徴となるのだとか・・・。
だからこそ、彼らはルダさまのために、
恥ずかしくない立ち振る舞いが求められるのだと言う。
また、彼らを奴隷だからと言って卑下したり、
手を加えれば、それはルダさまの所有物に手を出すことと同じなので、
ルダさまのお怒りを買うわけだが・・・
「それにしても・・・」
ルダさまとお茶をご一緒して、
用意してくださったマカロンをおいしくいただいていれば・・・
不意にルダさまの表情が曇る。
「どうなされたのですか?」
「先日・・・サウザンランドへ出向いたのだが・・・」
サウザンランドは、海の民と呼ばれるひとびとが暮らす、島国だ。
数多くの島々を抱える彼らをまとめるのは、
一番大きな本島の海の民の長である。
しかしながら、周りに強国がひしめき、
海の向こうには海洋帝国が昔から目を光らせていたこともあり、
サウザンランドの海の民たちは、
その脅威から逃れ、また国益のためにも、
フーリン国に従属する国・・・従国となった。
属国の場合、最高統治権はフーリン国にある。
しかし、従国であるが故、
国家としての最高統治権はサウザンランドにある。
数多くの島々を抱える複雑な統治の関係上、
フーリン国に忠誠は誓うものの、
その統治についてはサウザンランド側に、
完全に一任されているというわけだ。
フーリン国に大国の脅威から守ってもらい、
国域内の関税や交易路の使用について
優遇してもらう見返りとして、
フーリン国に忠誠を誓っている。
このサウザンランドに関しては、
魔帝国ともそれなりのやりとりはあるし、
フーリン国側に便宜を図ってもらい、
魔帝陛下であるルダさまを招くことは、大きな意味がある。
その主たる目的は、
海洋国家、カイエ魔王国、海賊たちへの牽制にある。
サウザンランドは魔帝国とも付き合いのある国だから、
手を出したらただじゃすまんぞ・・・と言うこと。
いや、むしろ、フーリン国の従国に手を出しても、
フーリン族にフルボッコにされるのだが・・・
同じ魔族の魔帝陛下が間に入ることで、
少しでもカイエ魔王国とのギクシャクした関係を
改善したい・・・と言うのが本音。
サウザンランドの島々からは、目と鼻の先の陸地が、
カイエ魔王国に面しているからだ。
そんな魔王国から攻め込まれたらひとたまりもない。
それ故に彼らも、フーリン国からの庇護と、
魔帝陛下からの牽制が必要なのだ。
そう言えば・・・私は結局連れて行っていただけなかったけど・・・
あの浮気男は派遣されたみたいね・・・
もしかしてとは思うけど・・・“マキア”連れて行ってないわよね・・・
ははは・・・
私はあの浮気男が溜め込んだ、
大量の書類業務を処理するので忙しくて、それどころじゃなかったけど。
「その時、ルティカに会えると思って行ってみれば・・・
あの王太子の隣に、見慣れぬ女が侍っていた」
「・・・マキア嬢・・・でしょうかね」
「あぁ・・・確か、そのような名前だったな・・・
我が顔を見るなり、我が名を呼び捨てで呼び、
何やら別の国の言葉をつらつらと並べていたのだ・・・
あれは滑稽だった。あのような珍獣、久々に見たぞ」
うわぁ・・・痛烈な皮肉だなぁ・・・
「お・・・お恥ずかしい限りで」
「ルティカはもう、リヤム王国民ではないのだから、
気にすることではない・・・」
「それは・・・そうですが・・・」
「それよりも・・・」
ルダさまの纏う空気が・・・変わった・・・?
何だか、酷く冷たく、怒っているような・・・
「あの愉快な女が、私の奴隷を誘惑し、
更には侮辱したのだ・・・
いったいどようなの魂胆なのだろうな?」
そうほくそ笑むルダさまに、何か底知れぬものを感じた。
「参考までに、仔細をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「あぁ・・・私も少々愚痴をこぼしたくてな」
「わかります、その気持ち」
マキアの言動は、本当に理解不能なものが多い。
すごくわかる、その気持ち。
前世の知識があってこそ、ぎりぎりつかめている程度なのだから。




