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夢/現


「・・・・・・ふぁっ、あれ?」


 目を覚ました俺の視界に広がっていたのは、代わり映えしない日常の景色だった。

 真っ白で何も無い、俺の自室の天井。いつもなら何の違和感も覚えない筈のその光景に、ひどく心がざわつく。


「どう、して・・・・・・?」


 全身の痛みどころか、打ち付けられた筈の後頭部にすら痛みを感じない。触れてみても、傷跡らしき感触は無かった。

 まるで、昨日の出来事が全て夢であったかのように、何一つ、その痕跡が俺の体に残っていない。

 ・・・・・・もしかして、本当に夢? 

 だとしたら、あまりに滑稽だ。しかも笑えない。

 勝手に離れておいて、未練がましく美友を守りたいなんて願いが、執着が夢になり、その上毒舌の美少女に助けられ詰られるオプションまで付いていた。

 俺の性癖はいつの間にここまで捻じ曲がっていたんだ?


「祐輝~。起きた?」

「あ、ああ、起きてるよ」


 あまりにもアレな自己嫌悪の渦に飲み込まれていると、俺と同様寝起きらしい姉がノックも無く部屋に入って来る。


「あんた、体大丈夫なの?」

「は?」

「覚えてないの? あんた昨日、貧血で倒れて運ばれてきたのよ?」

「貧、血?」


 おいちょっと待て。まさか・・・・・・、


「ごつい黒のベンツがいきなりうちの前に止まったかと思えば、スキンヘッドの厳ついお兄さんが、あんたを車から運び出してきたのよ。マジでビビったんだから!」

「ス、スキンヘッド? 髪の長い毒舌女じゃなくて?」

「はぁ~? 何言ってんのよ。童貞こじらせて変な夢でも見たんじゃないの?」

「・・・・・・16歳で童貞は普通だ」


 そんな事より、どういう事だ? 

 やっぱり俺の記憶は夢で、事実は貧血で倒れた所を謎のヤクザ風な男に運良く助けられただけ、って事なのか? いや、それはそれで有り得ないけど・・・・・でも、あの非現実的な出来事よりは、現実味がある、か。


「まあとにかく、大丈夫そうで良かったわ。もし重い病気とかだったらどうしようかと思って、すごい心配したんだからね」

「姉貴・・・・・・」


 何だかんだ言いつつも、心配してくれてたんだよな。

 普段は俺に家事を押し付けるだけの、女として終わってるダメ姉貴だけど、一応、謝っとくか。


「その、悪かったな。心配かけて」

「本当よ、もう。あんたが倒れたら、誰があたしのご飯用意して、あたしの服を洗濯して、あたしの家を掃除するのよ?」

「前言撤回。くたばれクソ姉貴」


++++++


 散々姉貴と口喧嘩してから家を出たお陰で、結局今日も始業時間ギリギリの登校になってしまった。

 そう言えば、美友に余計なこと吹き込んだ件について問い詰めるの忘れてたな。よし、今日の晩飯で復讐しよう。タバスコあったっけ?


「あ! ウジちゃん!!」

「うおっ!? サニー? 何だよ急に」


 姉貴への報復を固く心に誓いながら教室の扉を開けると、いきなりサニーが駆け寄って来た。 


「何だよ、じゃねーよ! 昨日どうしたんだよ? 急に走ってどっか行くから心配したじゃん!」

「っ!?」


 ど、どういうことだ? サニーは昨日のことを覚えてる? つまり、昨日あったことは夢じゃない?


「宇治ちゃん? やっぱ何かあったのか?」

「あ、ああいや、大丈夫。特に何も無かったよ」


 言える訳が無い。化物に襲われて死にかけた、なんて。

 そもそもどこまでが現実で、どこまでが夢なのかすら、俺には分かっていないんだ。


「本当かよ? 顔色すげー悪いけど」

「これはその、昨日夜更かししちゃってさ。サニーと一緒にやった宿題の他に、まだやらなきゃいけない課題あったの忘れてて」

「ぅえっ!? マジで!? やっば、全然気づかなかった!」

「ああ、大丈夫! 俺が個人的に先生に出されてた課題だから! ほら俺、英語苦手だろ? だから別で補習受けてるんだよ」

「何だよ~、ビビらせんなよ~」

「ごめんごめん。はは・・・・・・」


 取り敢えず、サニーは誤魔化せた。後は・・・・・・と、何故かこちらに鋭い視線を向けている幼馴染みの方を振り返る。


「・・・・・・(ぷいっ)」

「え?????」


 な、何だ? 今の美友の反応・・・・・・。

 昨日のことを覚えてて様子を伺ってたんじゃ無いのか? それとも、たまたまこっちを見てただけ? 

 いや、それだと今の反応の説明もつかないし・・・・・・、ダメだ。考えていても仕方ない。ここは思い切って美友に直接聞こう。


「・・・・・・なぁ、さつ」


 と、勇気を出してこちらから美友に話しかけようとした所で、教室の扉が開いた。


「おい、宇治峰。いつまで突っ立ってんだ? もうホームルームだぞ」

「え? あ、はい・・・・・・」


 タイミング悪く入って来た教師に窘められ、俺は渋々席に着く。

 結局、俺はひたすら悶々としながら午前中の授業を無為に過ごした。


++++++


 昼休み。再び意を決して美友の席へと向かう。

 ・・・・・昨日あった事がどこまで現実なのか確かめなければ、色々と心配すぎて何も手につかない。


「失礼します」


 だが、結論から言えば、その必要は無くなった。いや、無かったのだ。


「こちらに、宇治峰祐輝くんは居ますか?」

「・・・・・・へ?」


 やけに聞き覚えのある、凛とした冷たい声音。

 その声に振り向くと、ドアの前に立っていたのは、夢の登場人物だと思っていた黒髪の毒舌少女。


「あら、そこに居たの? 影が薄くて気がつかなかったわ」

「あ、あんた、昨日のっ!?」

「あら、あんただなんて、他人行儀な呼び方はやめて欲しいわね」

「は? 何を・・・・・・って、はぁっ!?」


 彼女はおもむろに俺に近寄ると、当然のようにするりと俺の腕に自分の腕を絡める。


「私たち、恋人同士でしょ? ダーリン」


「・・・・・・え?」

「「「ええええええええええっ!?」」」


 抑揚に乏しい口調で淡々と告げられた衝撃の事実に、教室中がどよめく。

 それはそうだろう。何せ当人の俺が一番驚いている。というか困惑している。

 一体、何がどうなってるんだ? てか今なんて? てか何でこの人うちの制服着てるの? てか何で腕組んでるの? てか何で女の子ってこんな柔らかいの?


「ほら、行きましょ。お昼、一緒に食べるって約束したじゃない」

「え、いや、ちょっ待って・・・・・、うっ!?」


 グイグイと腕を引っ張られ、反射的に抵抗しようとした瞬間、ひんやりと彼女の体越しに寒気を感じた。

「・・・・・・良いから、ついて来なさい?」

「は、はいっ!」


 振り向いた彼女は笑顔だった・・・・・・はずなのに、めっちゃ怖かった。昨日の蛇女よりも。

 人間てこんな冷たい顔で笑えるもんなのか?


「よろしい。それじゃ行くわよ、ダーリン」

「ちょ、ちょっと待って!」

「うぉっ!? さ、茶月?」


 今度は毒舌少女に引っ張られている方とは反対側の腕を、思い切り美友に引っ張られた。

 な、何だこの状況!? 両腕を美少女に引っ張られるなんて、アニメや漫画で見てたら死ぬほど羨ましい筈なのに、現実で起こると死にたくなるほど恥ずかしいんだが・・・・・・。

 と言うか痛い。視線が痛い。サニー。頼むからそんな殺意の込もった目で俺を見ないでくれ。さっきまで俺のこと心配してたじゃん?


「あら、貴方は・・・・・・」

「祐輝? この人、誰?」

「え、ええっとですね」


 どう答えれば正解なんだろう。どう答えでも不正解なんだろうけど。


「私は六良手花凜(むらて かりん)よ。昨日から彼と付き合う事になったから、よろしくね。茶月美友さん」


 へぇ、そんな名前だったんだ・・・・・・って、ちょっと待て。付き合う? はい? え? いつそんな話に? 

 主にディスられた記憶しか無いんだけど。あれが愛情表現だとしたらちょっと歪みすぎてません?


「っっっ!?・・・・・・昨日、やっぱり・・・・・・」

「え、茶月?」

「・・・・・・もう良い」


 美友の腕が、俺の腕から離れていく。

 訳も無く焦った俺は思わず手を伸ばすが、既に美友は届かない場所まで遠のいていた。


「あ、ちょっ!?」 

「さ、幼馴染みさんの了承も取れたみたいだし、行くわよダーリン」

「なっ!? ええええええぇぇぇぇ!?」


 為す術無く毒舌少女、もとい六良手に引っ張られて行く俺を呆然と見送るクラスメイト達。

 だが、美友は終ぞ、そっぽを向いたまま振り帰る事は無かった。


++++++


「な、なあ! ちょ、どこまで行くんだよ!?」


 六良手花凜と名乗った少女は、教室から俺を引きずったまま無言で階段を上って行く。

 ずっと腕を組まれているせいで色々と気になる感触に意識を持って行かれそうになるが、どうにか堪えて脚に力を入れ、その場に踏みとどまった。

 ・・・・・と、そこでようやく彼女がこちらを振り返る。


「屋上よ。人が居ない方が色々と話すのに都合が良いし、貴方だって、()()()()をクラスメイトの前でしたくは無いでしょう? この私が貴方如きに気を遣ってあげたのだから、感謝なさい」

「っ・・・・・・!」


 やっぱり、昨日のあれは現実だったのか・・・・・・。


「何を黙りこくっているの? もしかして、昨日の事が夢だとでも思っていたのかしら?」

「そりゃ、だって、あんな非現実的な事が起きれば、誰だってそう思うだろ。・・・・・・それに、昨日の俺の傷、あれはとても一晩で治るような浅い傷じゃ無かったはずだ。いったい、何がどうなってるんだ?」

「それを説明してあげると言ってるのよ。理解が遅いわね。あなたそれでも類人猿?」

「残念ながらこれでもヒト科ホモサピエンスの仲間だよ。と言うかそれ以前に、あんた、うちの学校の生徒だったのか?」

「・・・・・・?」


 俺の質問に、六良手はキョトンと心底不思議そうな顔で小首を傾げた。

 なんだその仕草。美人がやると無駄に可愛いな。もう永遠に黙ってずっとその顔してろよ。

 いや、今黙られても困るんだけどさ。


「驚いた。この学校に私の事を知らない男子生徒なんて居たのね・・・・・」

「何だその反応・・・・・・。こっちが驚くわ。どんだけ自信過剰なんだよ」

「そう言えばさっき、ホモの仲間って・・・・・・。なるほど、それなら納得」

「勝手に納得するな! 俺は断じてホモの仲間では無い!」

「女好きなら私の事を知らないわけが無いでしょう? 他の男ども同様、欲望に塗れた下卑た目で私を見ていないのがその証拠よ」

「あんたの見ている世界にはホモか女好きのゲス野郎しか居ないのか? 俺にとって性的な対象は女性だが、昨日会ったばかりのあんたの事をいきなりそんな目で見てはいない」


 何が悲しくて俺はこんな事を学校で言わなきゃならんのだ。


「・・・・・・ふん。まあ、あれだけ可愛い幼馴染みが居れば、そういう事もあるのでしょう。にわかには信じがたいけれど、取りあえずそれで納得しといてあげるわ」

「そんなUMAみたいな扱いされても・・・・・・。ま、茶月のお陰で美人を見慣れてるのは確かだな。あいつの母親もハリウッド女優かよってくらいとんでもない美人だったし」

「そんな事より、いい加減その失礼な口調をどうにかしなさい」

「こっちの話も聞けよ! ・・・・・ん? 口調?」


 と、首を傾げる俺の前で、六良手はおもむろに胸ポケットをまさぐる。そ、そういう仕草されると、欲望に塗れた下卑た目で見ちゃうんだけど・・・・・・。


「ん」

「生徒手帳? 二年次特進Ⅰクラス、六良手花凜・・・・・って、あんた、うちの先輩だったのか!?」


 衝撃の事実。


「そうよ。自分で言うのもなんだけど、この学校のマドンナよ」

「ほんとになんだな・・・・・・。てか、今時マドンナとか言わねーだろ、じゃなくて、言わないんじゃないですか、六良手先輩」

「名字で呼ばれるのは嫌いなの。花凜様と呼びなさい。あと口調だけど、やっぱり気持ち悪いからタメ口のままで良いわ」

「花凜さん。俺のこと嫌いならもうそう言ってくんない?」


 どうしろってんだ。


「別に嫌いではないわ。嫌いになるほど、あなたの事を知らないし」

「・・・・・・誰かさん達と違って、俺は別に有名人じゃないからな」


 なるほど。確かに彼女ほどの美人なら、同じ校内に居て知られていない事に驚くのも頷ける。

 対して、俺は通行人A。主人公達のストーリーに一切関与しない、通り過ぎていくだけの存在。

 俺の声は誰にも届かないし、誰も動かせない。


「その顔、不快ね」

「は? ってうえっ!?」


 花凜さんは、俯いた俺の顎に指を乗せ、無理矢理顔を上げさせた。

 ・・・・・え? 何コレ、もしかしてあれか? 最近流行の「顎クイ」ってやつか? 

 どうしよう、俺ヒロインじゃなくて通行人Aだからこういう時の対応分からないんだけど。

 取りあえず目を瞑って唇を突き出しとけば良いのかしら? 

 今日リップ塗ってないんだけど大丈夫かしら?


「えい」

「いってぇ!?」


 キス待ちしてたら頭突きを食らった。何でだ? あ、俺がヒロインじゃないからか。

 にしても、なんつー石頭だこの女・・・・・。

 しかも面積の小さい額でピンポイントに眉間の近くを狙ってきやがるとは。超痛いじゃねーか。美人の頭突きはもう二度と食らわないようにしよう。


「何を卑屈になっているのか知らないけれど、知らない事と興味が無い事はイコールでは無いわ」

「え・・・・・?」

「大体、わざわざあなたの為に時間を割いている私に対して、その態度は失礼だと思わないの?」

「それは・・・・・・」


 ぐうの音も出なかった。確かに彼女の態度は高圧的だし色々と押しつけがましいが、俺が世話になった事には変わり無い。・・・・・一人で勝手に拗ねて落ち込んで、馬鹿か俺は。


「まったく、そんな事じゃ先が思いやられるわね。ほら、ぐだぐだとつまらない問答をしている間にお昼休みが半分も過ぎてしまったわ。さっさと屋上に上がるわよ」

「ま、待てって! 屋上は立ち入り禁止だろ!?」

「問題無いわ」


 そう言うと、花凜さんはスカートのポケットに手を突っ込み、鍵の束を取り出した。


「なっ・・・・・・」


 ほんと何なの、この人。


++++++


 結局、花凜さんに言われるがまま俺は屋上に来た。

 そして・・・・・、


「服を脱ぎなさい」

「は?」


 唐突に、何の前触れも無く告げられた意味不明な指示に、己の耳を疑った。


「人が居ないとは言え、一応公共の場だし取りあえずは上半身だけで良いわ。早く脱ぎなさい」

「いやいやいやいや」


 何言ってんのこの人?


「大丈夫。初めては痛いって皆言うけれど、個人差があるし、そのうち慣れるから」

「すいません。初めては好きな人とって決めてるんで」

「なら問題無いじゃない。好きでしょ。私のこと」

「これまでのやり取りの中であんたを好きになる要素が一つでもあったと?」

「え・・・・・?」

「心底意外そうな顔をするな! どっから沸いてくるんだその自信は!」


 その自己肯定感を俺に少しでも分けてくれ。


「だって、私の事を好きにならない男子なんて、いるの?」

「言ってる内容が性格ブス極まってるのにここ一番の可愛い顔で小首を傾げるな」

「きゅ、急に可愛いなんて言わないでよ! 照れるじゃない・・・・・・」


 わざとらしく頬を赤らめて顔を背ける目の前のクソ女に、俺はふつふつと怒りが湧き上がる。


「都合の良いとこだけ拾ってんじゃねーよ! あと何だ、その取って付けたようなツンデレキャラ! 今更手遅れ過ぎるだろうが!」

「あ、貴方こそ何よその突っ込みキャラ! 言っとくけど、突っ込みキャラなんて二次元の世界にしか市民権は無いんだからね! リアルで居ても小うるさくて鬱陶しいだけなんだから、勘違いしないでよね!」

「そっくりそのまま返すわ! このエセツンデレ女!」

「酷いわ! 私の柔肌を思うままに堪能しておいて、自分は服一枚脱げないなんて!」

「膝枕の事を言っているなら不可抗力だ! その節はありがとうございました!」


 あれに関しては・・・・・・・・ありがとうございました!

 

「・・・・・・ふぅ。そろそろ飽きたし、本題に入るけど、服を脱げと言ったのはあなたが妄想しているようなイヤらしい行為のためじゃ無いわ」

「待て。頼むから少し待ってくれ。テンションの落差に心が付いて行かない。真面目な話を聞けるコンディションじゃない」

「仕方ないわね。そこまで言うならツンデレキャラのまま話してあげるわよ。こ、こんな事するの、貴方だけなんだからね!」

「分かった。もう俺は大丈夫だ。大丈夫だから真面目な話は真面目にして下さいお願いします」


 何でこの人こんなテンション高いの? 徹夜明けなの?

 

「始めから素直にそう言えば良いのよ。まったく、これだから童貞は」

「よし、表に出ろ。話はそれからだ」

「もう出てるわよ。四の五の言わず良いから脱ぎなさい童貞。じゃなきゃ話が始まらないわ」

「お、俺の名前は童貞じゃないもん・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・はい」


 どうやら俺が脱ぐことは決定事項のようなので、渋々シャツのボタンに指をかける。

 と言うか脱がないと無理矢理剥かれて犯されそうな雰囲気だったので素直に従いました。

 目がね、目が怖いんですよこの人。完全にイッちゃってる人のそれなんですよ。


「取りあえず見た目には、昨日の傷や痣は綺麗に消えているわね」

「あ、ああ・・・・・」


 上半身だけとはいえ、まじまじと裸を見られるのはかなり変な気分だ。

 オマケに屋外で、見ている相手が年上の美人なお姉さんというこの状況はもはやアブノーマルな羞恥プレイとしか思えない。

 まだノーマルなプレイも未経験なのに・・・・・・。

 そもそも、誰がそういう行為のことを「プレイ」と言い出したのだろうか。

 エロいこと以外で「プレイ」という単語に連想されるのは、スポーツ、或いはゲームだろう。

 もしそういう事に絡めて例えているのであれば、完全に行為そのものを娯楽と捉えているのではなかろうか。

 であれば、愛だの恋だのと綺麗言を並べ立てたところで、大衆は結局、そういった行為を生殖という本来の目的よりも、刺激や快楽を得る手段として捉えているのではなかろうか。

 そんな哲学っぽく偽装した死ぬほど下らない戯れ言を頭の中で垂れ流し、俺は上半身裸で抜けるような青空を仰ぎながら無限の彼方へ現実逃避しています。さあ行くぞー。


「そんな事ばかり考えているからあなたは童貞なのよ」

「何故分かった!? いや分かんないだろそんなこと!? ってあひゃっ!?」


 唐突に、容赦なく素肌を蹂躙された。


「・・・・・・ふむ」

「ひぁっ!? あ、あの、花凜しゃん?」


 あまりにアレなその行為もそうだが、花凜さんのほっそりとした指が見た目とは裏腹に思いのほか柔らかく、肌を這うその感触にぞくりとして奇声まで発してしまった。

 マジで何のプレイだよコレ。もう勘弁してくれよ。いくら好きな子が居てもこれで下卑た目で見ないのは無理だよ。思春期なんだよ。色々想像しちゃうんだよ。色々反応しちゃうんだよ。


「ふふっ。口では色々言っても、身体は正直ね」

「この状況でその台詞はマジで洒落にならないから!」

「ま、冗談はこれくらいにして」

「冗談て今の台詞だけだよな? 俺が脱いでからの一連の行為が全て冗談だったとか言わないよな?」


 だとしたら泣くよ? 俺普通に泣くよ? 変態に犯されたって叫びながら交番に駆け込よ?

 ・・・・・・いやそれ間違いなく捕まるの俺だな。この状況どっからどう見ても変態は俺だし。

 どうしよう唐突に死にたくなってきた。屋上でこの精神状態はマジで洒落になりません。


「まず、最も受け入れられないであろう事実を受け入れて貰うわ」

「ホント人の話聞かないな・・・・・。もう諦めたけど。で、最も受け入れられない事実って? あれだけの事があったんだ。大概の事にはもう驚かないぞ」

「そう、なら良かった。じゃあ気兼ね無く言わせて貰うけど」


 そう言って、花凜さんは一度瞑目し、小さく息を吸う。

 ・・・・・再び瞼を開けた彼女の表情は、これまで見せたどの顔よりも真剣で、俺は思わず息を呑んだ。


「宇治峰祐希くん。貴方はもう、人間じゃない」


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