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ゲームブック刑事

作者: げど☆はぐ

 波が岩を打つ音が響いている。海に面した崖で息を切らした2人の男が対峙していた。

「もう逃げられないぞ!今日こそ浅野優子さん殺害の件で話を聞かせてもらうぞ加藤聡!」

「説明どうも刑事さん。まさかホテルから800mも追いかけてくるとは思わなかったぜ。だけどよ、俺に目を付けてるのはあんただけだろ!証拠はあんのかよ!証拠がなきゃあ逮捕状も無い!そんなんで俺を逮捕なんかできるのかよ!?」

「落ち着けよ加藤。話を聞きたいだけだ。それにそう来ると思ってよ、今日はこれを作ってきたんだ。」

そう言うと刑事は懐から一冊の手帳を取り出した。

「何だそりゃ?」

「これは、犯罪ゲームブックだ!」

「犯罪ゲームブック?」

「ゲームブックって知ってるか?物語を読み進めるとやがて選択肢が表れる。AかBかってな。そしてそれを選ぶとそこに指示されたページへ飛ぶんだ。Aだったら12ページって具合でな。それを繰り返していってクリアを目指す形式の本をゲームブックっていうんだ。俺が小学生くらいの時に流行ったんだ。この犯罪ゲームブックはな、読み進めて行けば自然と犯人や動機なんかが分かるって仕組みだ!俺がこの前自分で作ったんだ!」

「あんたが作ったのかよ!いい年して何やってんだよ。」

「言っておくがお前に拒否権は無いぞ。捜査の一環だからな。断ったら公務執行妨害で逮捕してやる。」

「無茶苦茶だなあんた。そんなんで捕まってたまるか。いいぜ、やってやる。」

刑事は舌なめずりをした。

「よし、じゃあ行くぜ。」


【 取調室で容疑者に向かって刑事が口を開いた。

『あんたの人生についてさ、色々聞きたいんだよ。』

『へっ。別に構わねえぜ。何でも聞いてくれよ刑事さん。』

『これまでに一度でも浅野優子さんを殺害した事があるか?』

ある→7ページ、無い→4ページ】


「いや聞き方おかしいだろ。一度しか無いんだよ優子の人生は。」

「どうなんだ?」

「無視かよ。あ〜じゃあYESだ。」

「馬鹿野郎!真面目にやれよ!いきなり自白したらせっかく作ったのに話が終わっちまうじゃねえか!」

「なんで自白して怒られてんだよ・・・じゃあNOだ。」

「NOだな、じゃあ4ページと。」


【『6年前の12月20日だ、その日の午前11時、あんたどこにいたんだ?』

大阪のパチンコ屋Aの裏の通り→19ページ、成田空港の搭乗口→3ページ】


(大阪のパチンコ屋Aの裏の通りって、遺体が見つかった場所じゃねえか・・・下見に来てたと思われたら面倒だ。)

「・・・成田空港だ。」

「4ページ、と。」

「3だよ。」


【刑事はタバコをうまそうに吸って話を続けた。

『成田空港にいたあんたはどこへ向かってたんだ?』

ハワイ→13ページ、

イタリア→2ページ】


「加藤、あんた寒い国と暖かい国どっちが好きなんだ?」

「まあ暖かい国かな。」

「じゃあハワイだな、13ページっと。」

「イタリアも別に寒くねえじゃねえか、比較がおかしいだろ。まあいいや続けろよ。」


【ハワイに着いた加藤聡はホテルに荷物を置いてからさっそくビーチへ行くことにした。仕事に疲れていた加藤は海を見たかった。そしてそこで美しい日本人女性、浅野優子と運命的な出逢いを果たした。浅野は白いスカートを指で少し持ち上げ、足首に波を受けていた。加藤に気付いた浅野は微笑んだ。加藤も思わず微笑んだ。二人は意気投合し、一緒にランチをとることにした。

『お仕事は何をしてるの?』

『不動産の会社を経営してるんだ。』

『すごいじゃない。私が写った広告のポスターでも貼ってもらおうかしら。日本でモデルをしてるの私。売れないけどね。』

『喜んで貼りたいくらいだよ!あなたのような美人にイメージガールをしてもらえたら業績も倍増だ!』

『ふふっ、やーね調子いいんだから。何食べる?』】


「そのページだけ内容多くねえか?どうなってんだよそのページ。」

「手書きだから大丈夫なんだよ。細かい奴だなさっきから!」


【ふたりで楽しくハワイで過ごし、3日目の昼だ。浅野は町へ出かけようと言い出した。

買い物に行く→6ページ、墓地へ行く→11ページ】


「もう片方が雑だな。行くわけねえだろ墓地なんか。買い物だよ買い物!」

「もしかしたらハワイに眠ってる大事なご先祖様に出逢った彼氏を見せたいかもしれねえじゃねえか。墓地なんかとか言うんじゃねえ!」

「何にキレてんだよあんたは。悪かったよ。」


【 ショッピングに出かけた2人は特に贅沢はしなかった。それでも数枚のTシャツと土産などを買うと、加藤の両手は紙袋で塞がった。

『少し休憩しましょうか。』

『そうだね。喉も少し渇いたよ。カフェでお茶でも飲んでいこう。』

その時だ。2人の前に上半身裸に金のネックレスをした頭の悪そうな男と、黒のサングラスに黒のタンクトップの筋肉質な男が立ち塞がった。

『チ、チンピラ?』→14ページ、

『あ、浅野さんのご兄弟?』→14ページ】


「どっちも飛ぶページ同じじゃねえか。いったん区切りたかっただけだろこれ。じゃあ兄弟にしよう。」

「14ページ、と。」

「なんかリアクションくれよ。煙草あるか刑事さん?」

「ああ。ほらよ。」

「どうも。」


【立ち塞がった2人組は浅野目当てのチンピラだった。

『へいへいそこのかわいいお姉さん、今日これからヒマかなぁ?』

『そんなしょぼい奴じゃなくて俺達と遊ぼうぜ。』

『や、やめてください・・・!』

加藤は当然止めに入った。

『あ、あの!』

『ああ?何だ文句あんのかコラ!』

『俺の彼女だ!彼女にちょっかい出すのはやめてくれ。』

タンクトップの男に殴られて加藤は吹っ飛び、テラスのテーブルを派手に倒した。

『すっこんでろこの野郎!俺達はこの姉ちゃんと話してんだよ!』

『さっ、楽しい所に行こうぜ姉ちゃん。』

上半身裸の男が浅野の腕をつかんだ。

『うぐ・・・!』

男達に追いすがる→5ページ、

痛いのでお医者さんに診てもらう→9ページ】


「聞くまでもないよな?」

「ああ、当然だ。男だったら5ページだ。」


【『待てよ!このまま行かせたりはしねえ!』

加藤は持っていた紙袋をタンクトップの男に投げつけ、腰のあたりに向かって体当たりした。

『ぐはぁ!』

タンクトップの男はもろにみぞおちに加藤の頭が当たり吹き飛んだ。

『てめぇ!』

上半身裸の男は浅野の腕を放し、加藤に殴りかかった。

『うわっ!』

加藤は頭を抱え込むようにしてパンチをかわし、再び頭を上げた際に上半身裸の男の顎に加藤の頭が当たり、男はたたらを踏んだ。しかし後ろから起き上がったタンクトップの男に蹴られ、加藤はバランスを崩して地面に倒れた。そのまま男は加藤の腹を蹴ろうとしたが、腕の角度が邪魔になり背中に蹴りを入れた。

『へっ、いい気味だぜ。』

だが加藤は諦めずタンクトップの男の足にしがみついた。

『ま、待て・・・!』

『て、てめぇ!』

その時笛の音と共に警察官が二人走ってきた。

『コラァお前ら!何をやってる!』

『チッ警察か!逃げるぞ!』

男達は走って逃げていき、警察官は男達を追っていった。浅野は加藤に駆け寄った。

『さ、聡さん!』

『いてて・・・。優子さん大丈夫?』

『私は大丈夫よ!聡さんこそ大丈夫?』

『いいとこ見せようと思ったんだけど、全然歯が立たなかったよ。』

浅野は涙を指でぬぐった。

『ううん、とってもかっこよかった・・・。』

近くのカフェの客からも拍手が起きた。太ったおばさんの店員が近寄ってきて加藤の肩を叩いた。

『やるじゃない若いの!うちのジュースごちそうするよ、飲んでいきな!』

『あ、ありがとうございます。いてて。』

『大してケガしてないじゃないか!若いモンが彼女の前で弱音を吐くんじゃないよまったく!』

周りで笑いが起き、つられて二人も笑った。】


「男はこうでなきゃな。若いモンは勢いがあっていい。」

刑事もたばこに火をつけ吸い始めた。

「・・・。それでどうなったんだ?」


【 早朝、浅野のハワイ旅行の最終日を迎えた2人は、出逢ったビーチに一緒に散歩に出た。顔にかかった髪を時折かき上げながら波を見ている浅野はさびしそうだった。

『今日でお別れなのね。』

『ああ・・・。とても楽しかった。』

海は静かだった。

『私、きょう日本に帰るの。』

『・・・俺も帰るよ。』

浅野は加藤を見た。

『俺も今日、日本に帰る。君と一緒に。』

『本当?』

YES→8ページ、NO→10ページ】


 刑事がゲームブックから顔を上げると、いつの間にか加藤はポケットに手を突っ込み崖から海を見ていた。加藤のネクタイが風になびいている。

「どうした?選べよ加藤。」

「・・・あの時NOを選んでいたら・・・いや、違うな。俺は後悔してる訳じゃないんだ。」

「・・・続けるぞ。」


【日本に帰った二人の交際は順調そのものだった。加藤の仕事もうまくいっていて、週末に浅野と仲良くレストランで食事をしている光景は、周囲から見てもうらやむほどのお似合いのカップルだった。このまま二人は一緒になるのだろう、誰もがそう思っていた。そう、あの男が現れるまでは。

浅野優子のお父さん→12ページ、ガラの悪い男→17ページ】


「・・・刑事さんよ。」

「どうした?」

「捜査本部は違うやつを追ってるんだろ?なんであんたは俺のことをこんなに調べたんだ?」

刑事は遠くを見ながらたばこの煙を深く吐き出した。

「お前の目だ。ただ恋人を殺されて悲しいって目じゃねえ。・・・長年刑事をやってると分かるんだ。」

「そうかい。俺が選ぶのは17ページだ。」


【 現れたガラの悪い男はヤクザだった。その日、加藤と浅野とヤクザの倉橋の3人は喫茶店にいた。

『加藤さん。浅野から手を引いてもらえねえか?』

『・・・どうしてですか?』

浅野は心ここにあらずでコーヒーカップを見つめている。

『浅野はよ、月島組長に買われた女なんだよ。』

『買われた?』

倉橋は吸っていたタバコの灰を灰皿に落として話を続けた。

『モデルってのは嘘だ。そいつは借金を抱えてどうにもならなくなった。そして月島組長の下で客を取るようになったんだ。極道のシノギなんだ。一生日陰の女だよ。カタギの人が手を出していい女じゃねえ。』

加藤は浅野を見た。浅野は下を見て震えていた。

『カタギの男を利用して逃げ出そうとする女はよくいるんだ。が、月島組長は寛大なお方だ。このまま引き下がればお咎めも無いそうだ。いいか加藤さん、浅野のことは忘れろ。これはお互いのためだ。』

そう言うと倉橋はタバコをもみ消し、伝票を持って店を出て行った。

『優子・・・お前・・・。』

『ごめんなさい聡。嘘をついたのは謝るわ。でもあの時あなたが私を必死に守ってくれたのを見て本当に嬉しかった。この人とならきっと人生をやり直せるって、そう思った。だから私、本当にあなたと離れたくないの。あなたを愛してる。』

浅野は顔を上げた。浅野の目から涙が一筋こぼれ、頬を伝っていった。

『お願い。私と一緒に逃げて。』

加藤は浅野の手を取り一緒に逃げた→18ページ、

加藤は浅野から目をそらした→20ページ】


 波が大きく崖を打ち付けた。加藤は何かを思い出しながら口を開いた。

「俺は卑怯者だよ。」

「・・・。」

「あの時、俺はまだ自分の身がかわいかった。怖くなったんだ。今ならまだ何もなかったことにできる。そう思っちまった。」

「仕方ねえさ。誰もお前を責められねえよ。」


【 加藤は何も言えなかった。

『そう・・・。そうよね。無理なこと頼んでごめんなさい。』

浅野は立ち上がった。

『楽しかった。夢のような時間だったわ。ありがとう、さようなら聡。』

浅野は店を出て行った。どうすることもできない。加藤は無力な自分がみじめだった。

 それから半年後、加藤はテレビのニュースで浅野優子が殺害された事を知ることになる。】


 刑事は手帳を閉じて懐にしまった。

「・・・とまあ、今まで俺が調べた手がかりをもとに話を考えるとこうなる。どうだ合ってるか?」

加藤は刑事に背を向けたまま答えた。

「ふん。まるで見てたみてぇだ。」

「これが正しいとなると自然と犯人が絞られてくる。浅野が働いていた店の金庫から金が抜き取られていた。金庫周辺に浅野の指紋が残ってる。おそらく浅野が店の金を盗んで逃げ出そうとしたんだ。それがバレて組に消されたんだろう。やったのは倉橋だ。一度お前と逃げようとした浅野をわざと追い詰め、金を盗んで逃げ出すように仕向けて殺したんだ。月島の指示で見せしめに殺されたんだよ。逃げようとした奴はこうなるってな。凶器は組長の屋敷に隠してあるんだろう。警察も簡単には踏みこめねえ。答えにたどり着くのは簡単だがこれほど確認が難しい場所もねえ。」

加藤は荒れ狂う波を見ている。

「そこまで分かってんならどうして俺んとこに来たんだ?」

刑事はタバコを携帯灰皿にしまった。

「言ったろ?俺はお前を逮捕しに来た訳じゃねえ。話を聞きに来ただけだ。事実を確認したかった。それに聞きたいことはまだ終わってない。あんたニュースの後・・・!?」

振り返った加藤の表情はさっきまでとはまるで別人だった。眼をギラつかせて不敵に笑う加藤には、恋人を失った悲しみや刑事の会話に動揺する先程までの若者の気配が全く感じられない。飢えた猛獣のような加藤の眼光に刑事はすくみ上がった。

「あ、あんたは浅野が殺されたニュースが流れてから3年ほど世界を飛び回ってた時期がある。一体何をしてたんだ?」

「別に?傷心旅行さ。ブラブラ遊び回ってただけだ。」

加藤の口調は変わっていないものの、放たれる声にはさっきまでとはまるで違う凄みがあった。

「つまらない男だよ俺は。いっぱしに女を愛することもできねえ。ガキの頃からずっと力と自由だけを求めてきた。あの後所轄の刑事が来て、ばらかまれた万札と一緒に死んでた優子の写真を見せられた時、ようやく事態が動き出したんだ。ここからはビジネスの話だ。あんたの出る幕じゃないぜ刑事さん。」

刑事は加藤の迫力に完全に呑まれていた。

「お、お前一体・・・?」

その時2人のもとに黒いバンが2台近付いてきて停止した。前方のバンの後部座席のドアが開き、ロシア系とアラブ系の外国人が一人ずつ降りてきて加藤を迎えた。

「日本でここまで俺に近付いたのはあんたが初めてだ。なかなか頭の切れる男だな刑事さん。転職を希望する時は歓迎するぜ。」

そう言うと加藤は刑事の横を通り抜け、バンに乗り込もうとした。が、思い出したように振り返った。

「そうだ、刑事さん。その本の最初の質問だがな。答えはやっぱりYESだ。」

「え?」

「最初に優子を殺したのは俺だ。俺が優子の心を殺したんだ。」

「・・・。」

「それとひとつ間違ってるぜ。優子が月島から逃げるために俺に近付いたんじゃねえ。」

「え?」

「俺が口実を作るために優子に近付いたんだ。」

そう言うと加藤はバンに乗り込んだ。

「じゃあな。次のゲームブックも期待してるぜ。」

加藤がスライドドアを閉めると、外国人2人も刑事を一瞥してからバンに乗り込み、走り去って行った。残された刑事の背後で波が荒れ狂っていた。


 次のニュースです。日本最大の暴力団、月島組本部とその傘下の32個の組織が襲撃された事件で、事態を重く見た日本政府は今日の会見で、犯行を行った多国籍の外国人で組織された武装勢力のリーダー、加藤聡を国際指名手配し、国連に協力を要請する方針を表明しました。加藤聡容疑者は日本の不動産王と呼ばれていた人物で、世界中に拠点を持っており、その影響力も大きく世界に波紋が広がっています。総理は終戦以来これまでに経験した事のない危険な事態であるとして・・・。

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