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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第二章 イーサ町

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97 曰く付きの新規魔法スキル

 セーラは患者の無事なほうの手を取ってから、頭を下げた。


「ごめんなさい。私の力では、手足を元には戻せなかったわ」

「え?」


 彼は何が何だか分からない様子ながらも、自分の手足に視線を向けて、顔を歪めた。


「貴女が治してくれたんですね、ありがとうございます。命が助かっただけでも感謝しなければ……うっ……ぅ」


 目覚めたら手足が無くなっていたなんて、誰だってショックだ。

 彼は泣き出してしまったが、俺はどう声を掛けてよいのか変わらず、見守る事しか出来なかった。


「少しの助けにしかならないけれど今度、義足をプレゼントするわ」

「ぎそく……?」

「足の代わりになる物よ。それを装着すれば歩けるようになるわ」

「あ……ありがとう……ございます……うぅぅ」


 彼は少し希望が見えたのか、セーラに何度もお礼を言いながら大泣きした。


 この世界にも義足はあるのだろうか。構造が分かれば生産スキルを駆使して作れそうだが。

 セーラはプレゼントすると宣言したあたり、構造が分かるのかもしれない。


 二人のやり取りを見守っていると、俺の後ろで寝ている患者が、うめき声のような声をあげた。


「俺……も、たす……けて……」


 彼はどうやら意識があり、隣の患者が治ったと理解しているようだ。


「セーラ、他の患者も頼む」


 心のケアも大切だが、今は苦痛を取り除くのが先だ。

 セーラは頷くと、テントの中の患者に一人ずつヒールしていった。


 全員の傷が綺麗に治り、セーラは手足を無くした人達一人ずつに、希望を持たせるような声を掛けてからテントを出た。


 聖女というよりは、聖母のような慈悲深さだ。


 それに比べて俺ときたら、本当にただ横にいる事しか出来なかった。

 こういう時、どう接していいのか分からないのは、それだけ俺の周りが平和だったという事だよな。

 セーラはあの状況で自分の役割を果たした上に、優しい言葉までかけていたんだから、本当に凄いとおもう。


「まだまだ、怪我人はいるようね……」

「姉上、まさか全員治したいとか言わないでくださいよ。一人でこの人数はさすがに無理です」

「……治したいわ。けれど、この人数を一人ずつ見るのが無理なことくらい私にも分かるわ」


 セーラはしょんぼりしたが、洋介と俺は一安心して顔を見合わせた。

 彼女の気持ちは分かるが、今日はもうポーションを飲みすぎだ。

 薬草から作られるポーションは、薬みたいなものだと思う。飲み過ぎて副作用が起きないか心配でならない。


「後何人か、怪我がひどい人を治したら宿へ戻ろうか」


 そう提案すると、セーラは何かを決意したように杖を握りしめると、俺と洋介を見た。


「私、アレを使ってみるわ」

「アレって……、姉上もしかして……」


 驚く洋介にセーラは頷く。

 俺もセーラが何をしたいかについては、心当たりがある。


「セーラ、いいのか……」

「ここはもうゲームの世界ではないもの。なにも怯える必要はないわ」


 悲しそうに微笑む彼女が、まだ吹っ切れていないのは目に見えて分かる。


 SSランクが実装された時、目玉として新規スキルが追加された。

 SランクまではEランクからあるスキルがひたすら強化されるだけで、面白みに欠ける仕様だった。

 それがプレイヤー離れの一因とも言われていたため、改善策として新規スキルが実装された。


 だが、張り切りすぎた運営は、阿保みたいな高性能にしてゲームバランスを崩してしまった。


 神聖魔法使いに追加されたスキルは、フィールド上にいる全員をヒールできるという、とてつもない万能スキルだった。


 実装直後、五十人程度集まってボスに挑むレイド戦で、新規スキルを見たいという皆の要望に応え、俺達は新規スキルを使う事にした。


 セーラの新規スキルのヒールは、説明書き通りフィールドの隅々にまで行き渡り、一人の死者も無くレイド戦を終えることが出来た。

 戦闘後セーラは、女神降臨だと多くの戦闘員に持ち上げられたが、一方で他のヒーラーたちからは敵意を向けられてしまった。


 その人たちにとっては役割を取られたのだから、面白くない気持ちも分かる。


 俺もその日は新規スキルを使ったおかげで、一番多くボスにダメージを与える事が出来た。

 一番多くダメージを与えると撃破時に『カイトとその仲間たちによってボスは撃破されました』というようなテロップがサーバ全体に流れる。

 ただそれだけだが、誰が強いか一目瞭然なため気にする人は多かった。

 俺も敵意は向けられたが、元々ライバルだったのでさほど気にはしていなかった。


 だが、セーラはそうではなかった。

 ヒーラーは今まで競う必要もあまり無かったので、和気あいあいとやっていたようだが、その日を境にセーラは孤立してしまった。

 今まで仲良くしていた子たちに敵意を向けられセーラは、相当ショックを受けたようだった。


 新規スキルは苦情が多かったようで次のアップデート時には、三十日の待機時間が設けられた。

 だが、セーラは新規スキルがトラウマになったようであのレイド戦以来、一度も使っていない。

 それを今、使おうとしているようだ。


 セーラは胸に手を当てて深呼吸してから、杖を構えた。


「フィールドヒール」


 傷の手当で騒がしい広場の中心で、小さく囁いたセーラ。

 だが、その威力は強大なものとなった。


 地面からヒール特有のキラキラした光が湧き出す と、それがセーラを中心にして放射線状に町中へと広がっていった。

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