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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第二章 イーサ町

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96 ヒールの限界点

怪我の生々しい描写があります。

苦手な方は、テントの中に入る前までと、最後の二行だけお読みください。



「それにしても、怪我人の数が多すぎるな……。外にはこんなに人が住んでいたのか」

「それもありますが、お祭りの時は毎年深夜まで酒盛りをしている人が多いんです。広場で騒ぐと注意を受けるので、外に集まるんです。それに宿に泊まるお金がない見物客は、野営をしますので」


 ナッシュさんがそう教えてくれる。


 なるほど、深夜まで外にいたからワイバーンの標的になってしまったのか。

 年に一度のお祭りで羽目を外したい気持ちは分かるが、今回ばかりは運が悪かったようだ。


「カイト、私お手伝いしてきて良いかしら」


 セーラは立ち上がると、俺を見上げた。

 もうかなりの魔法を使った後だし、明日は一日中移動だから休んでもらいたい気持ちはあるが、この状況は放っておけないよな。


「あぁ、俺も手伝うよ」

「僕も手伝いましょう。包帯くらいなら巻けますよ」


 三人で手伝う意思を確認し合うと、村人からも手伝いたいと声が上がった。

 怪我の手当以外にも避難者の寝床の設営などもあるので、人手はいくらでも必要そうだ。


「明日は移動があるので各自、無理の範囲で手伝ってから家に戻ってください」


 そう指示を出すと皆、各自で出来そうな手伝いに向かった。


「俺達はあの辺りかな」


 視線の先には、ヒーラーと思われる杖を持った魔法使いが、何人も治療をしているのが見える。

 おそらく魔法の治療が必要なレベルの人達が集められているのだろう。


「そうね、行ってみましょう」


 セーラを先頭に俺達三人は、白衣を着て指示を出している男性の元へ向かった。


「お忙しいところ申し訳ありません。私もヒーラーなのでお手伝いさせてください」


 セーラがそう申し出ると、白衣の男性は「おお!それはありがたい!」と両手を広げオーバーリアクションで歓迎してくれた。


「ヒーラーが全然足りなくて困っていたんだ!是非ともお願いするよ!お嬢さんのランクを聞いても良いかな?」


 どうやらランクによって治療する怪我の度合いを分けているようだ。セーラはDランクの装備を着ているが確認のために聞いたようだ。


 セーラは一瞬、俺を見てから白衣の男性に向き直った。


「私はAランクです」


 ここを出る前に俺はBランクと言ったので、ドラゴンを倒してランクが上がったという設定だろうか。


 白衣の男性は目を見開くと、先ほどまでとは打って変わって真剣な表情になった。


「是非とも見て頂きたい患者がおります。どうぞ、こちらへ」


 案内されてついていくと、そこには大きなテントが一つ設けられていた。


「この中に重傷者がおります」


 短く説明して中に入る白衣の男性に続いて、俺達も中に入った。




 テントの中には木箱を並べた簡易ベッドが設置され、その上に重傷者が横たわっていた。

 九名の患者一人一人にヒーラーがついていて、ずっとヒールを当てているようだ。

 患者は皆、手足が欠損していたり大きく傷がえぐれていたり、素人が見てもかなりの重傷だ。


「すみません……僕、外にいます……」


 洋介は口元を押さえてテントを早々に出て行った。


 正直、平和な日本で育った俺達には耐えられない光景だ。

 俺もセーラがいなければ、ここから退散したい。


「セーラ大丈夫か?無理なら辞退しても――」

「大丈夫よ。カイトは洋介と一緒に外で待っていて」

「俺も大丈夫だ。何も出来ないが、いないよりはマシだろ?」

「……ありがとう、カイト」


 なんとか笑みを浮かべたような表情のセーラは、俺の手を握ってきたがその手が震えている。

 残念ながら今の俺には、強く握り返す事しか出来ない。

 だが、セーラの震えを止めてやることは出来たようだ。


 震えが止まって安心したのか、セーラは小さく息をはいた。


「こちらです」


 最も重傷と思われる男性の元へ案内された。

 ヒーラー二人がかりで傷を塞ごうとしているようだが、血液が噴出さないようにするだけで精いっぱいの様子だ。


「この町にはCランクまでのヒーラーしかいません。何とか血止だけでもしたいが、力及ばず……。どうか止血を試みていただけませんか?」


 ヒーラーたちも限界に近付いているのか青ざめた表情で、セーラを見上げた。


「分かりました。やってみます」


 セーラはポーチからBランクの杖を取り出した。

 どうやら俺達はドラゴンを倒してBランクに昇格したようだ。


「ヒール」


 セーラがその患者に向けてヒールを放つと、骨がむき出しだった腕や足の周りの組織が急成長し、綺麗に皮膚で覆われた状態となった。あちこちにあった傷も綺麗に治っている。


 さすがにヒールで欠損した手足を元通りには出来ないようだが、意識があるのか分からない状態だった患者は、豆鉄砲を食らったような表情で目を覚ました。


「あれ?俺はモンスターに食われて、死んだんじゃないのか?」


 横にいたヒーラーにそう問いかけるが、ヒーラーもぽかんとした表情で彼を見るだけだった。


「なっ……なんて強力なヒールなんだ!こんなの見たことが無いぞ!」


 白衣の男性は、腰を抜かして地面にしりもちを付きながら、そう叫んだ。

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