92 Cランク武器
北ゲートで救出した人達を壁の中へ入れる頃には、かなりの数のファイアワイバーンを倒したので、体感ではCランクになったような気がする。
そして、ランクがあがったおかげで完全にワイバーンが雑魚と化していた。
「う……スキルがぁぁぁ……」
既に洋介のガストアローだけで倒せる場合が増えて来て、こちらへ向かってくるワイバーンは半分以下に減っていた。
三秒待ちぼうけイコール、スキルが使えなくなる。
「ふふ、私達ランクが上がった気がするわね」
「セーラもそう思うか。試しにCランクの武器を取り出してみてくれないか?」
ぽつぽつやって来るワイバーンを、ジャンプして通常攻撃で倒す。取りこぼしなので一発で楽々撃破だ。
だがワイバーンはたまに口から火を噴くので、セーラを巻き込まないようジャンプして上空で倒すようにはしている。
「取り出せたわ!はい、Cランクの槍よ」
Cランクの槍と交換で、借りていたDランクの槍をセーラに返す。
「ありがとう。これで、さらに雑魚になるな」
っというか、洋介にもCランク武器を渡せば俺は完全に要らない子になりそうだ。
「洋介の所へ行こうか。この様子だと、Cランク武器を渡して洋介メインで戦ったほうが効率的だ」
「そうね。洋介のお腹もそろそろ、たぷたぷしていると思うわ」
敵の攻撃を受けるリスクは無いが、あれだけスキルを連発しているから、かなりポーションは飲んでいそうだ。
「セーラは大丈夫か?」
「結局、補助魔法もあまり必要なかったし、思ったほど飲んでいないわ」
初めはフルにかけてもらった補助魔法だったが、そこまで必要なさそうだったので徐々に減らしてもらい今はもう掛かっていない。
洋介の元へたどり着くと、彼は泣きそうな顔でセーラを見た。
「姉上ぇぇぇ、ヒールしてくださぁぁぁい」
「ふふ、ヒール」
「ありがとうございますぅぅぅ」
セーラの予想通り、彼の腹はたぷたぷだったようだ。
取りこぼしの攻撃で二人を巻き込まないよう、俺は少し離れた位置で歩く。
「洋介、俺達Cランクになったぞ」
「やはりそうでしたか!何となくそう思っていたんですよ!」
「武器を交換しましょう」
「ありがとうございます、姉上!これで、完全に僕の時代です!」
気合が入った様子で洋介がガストアローを空へ打ち上げると、攻撃を食らったワイバーンがバタバタと地上へ落ちて来る。
「うわっ……。上を注意しておかないと危ないな」
俺めがけて落ちてきたワイバーンを、ジャンプして後ろに退いて回避する。
「そうなんですよ。この辺りは避けるゲーなので、気を付けてください」
「危ないからセーラは少し後ろに離れたほうがいい」
「そうね、ヒールの時だけ掛けにいくわ」
そう言いながらセーラは倒されたワイバーンをポーチに回収した。
「もしかしてセーラ、ずっと回収しながら移動していた?」
「えぇ、思ったより私の出番がなかったので、せっかくだから回収していたわ。そのほうが戦いやすいと思って」
俺が上ばかり見て戦っていた間に、セーラそんな事をしていたらしい。
確かに、地面にゴロゴロとワイバーンが倒れていたら、かなり戦いにくかったはずだ。
俺は何も知らないまま、快適空間で戦っていたんだな。
「ありがとうセーラ。おかげでとても戦いやすかったよ。素材も売ればそこそこの儲けになりそうだな」
「ふふ、沢山拾って儲けましょ」
俺ももう戦う必要はなくなったので、セーラと一緒にワイバーンを回収しながら歩くことにした。
「それにしても、東側はワイバーンがあまりいないな」
どうやらワイバーンの群れは西側に集中していたようだ。
救出班は小屋を一軒一軒確認しながら移動しているが、進みが早いのでこの辺りの人達は割と避難できていたようだ。
東ゲートを抜け俺達は南ゲートまでやってきた。この頃にはもう、数匹しか見えなくなっていた。
「さて、あれが最後の一匹ですかね」
西ゲートが遠くに見え始めた頃、救出が完了したのか灯りを点滅させているのが見えた。
「そうだな。避難も完了したようだし、そろそろ本番と行こうじゃないか」
洋介が最後の一匹を撃ち落とすと同時に、セーラは補助魔法をフルにかけ始めた。
セーラの詠唱が終わると、辺りは息をのむほど静まりかえった。
その直後。
グオオオオオオオオオン!と、地鳴りのような音が辺りに響き渡った。
その響きで空に浮かんでいた雲は一気に消え、同時に巨大生物が出現した。
月明かりに照らされてはっきりと確認できたそれは、大きな翼をゆったりと羽ばたかせ、長い尻尾を揺らしながら泳ぐように飛んでいる。
赤い巨体のそれは、ファイアドラゴンだ。




