91 ファイアワイバーン
セーラは後ずさりながら「あの……人違いです!」と叫ぶと、俺達の方へ逃げてきた。
「カイトぉ~~~」
俺の後ろに隠れると、背中にしがみついたセーラ。
――かっ、可愛いいいい!
って、何を考えているんだ俺は。
襲われている人がいないとはいえ、早く外の人達を助けてあげなければ。
「それじゃ、始めるか!セーラ、今日は補助魔法盛り盛りで頼む!」
「ふふ、任せて」
セーラは俺の後ろから顔を覗かせて微笑んだ。
――かわっ……、ごほんっ。
俺達はDランクになったので、セーラも一通りの魔法は使える魔力になっているはずだ。
各自ポーチから武器を取り出していると、セーラは今まで戦闘では使ったことがない肩掛けカバンを取り出した。
「セーラ、それは?」
「この中にポーションを入れておけば、すぐに飲めると思って」
そう言いながら、魔力ポーションをポーチから取り出すとごっそりカバンの中へ入れる。
「うわぁ……それ全て飲む前に終わらせたいですね……」
「何を他人事みたいに言っているのよ洋介。今日は自力で回復してね」
セーラはカバンをもう一つ取り出すと、同じく大量の体力ポーションを入れて洋介に渡した。
「やっぱりそうですよね……」
洋介は顔を引きつらせながら、そのカバンを受け取った。
彼は弓使いなので遠くから攻撃したほうが有利なため、俺達とは離れて戦う事になる。
準備が整うと、セーラは三人まとめて補助魔法をかけ始めた。
「攻撃速度強化、回避率強化、防御力強化、攻撃力強化、命中率強化」
言葉通りそのままの性能なので、説明は割愛する。
セーラは一通りの補助魔法をかけると、ポーションを一本飲んだ。
「よし!行くぞ!洋介、一匹釣ってくれ!」
上空にいるモンスターは地面まで来てもらわなければ、俺は攻撃出来ない。
ワイバーンをこちらへ引き付けるには、洋介の攻撃が一番だ。
「お任せを!」
洋介は矢筒から矢を一本引き抜くと、上空で旋回しているファイアワイバーンに狙いを定めた。
「あ……お前の矢、それだったんだよな……」
洋介は、以前作った羽根無し矢を使っている。
ターキーの羽根は入手したが、そのまま町へ来たので組み立て作業を忘れていた。
これには洋介も苦笑いだ。
「ははは……まさか町で戦うとは思わなかったもので。姉上に命中率強化をかけてもらいましたし、なんとか当たるでしょう……」
そう言いながら放った矢は、幸いな事にワイバーンの翼に命中した。
俺達を見定めたワイバーンは一気に急降下しながら襲い掛かって来る。
洋介が後退するのと入れ替わりに俺は、ワイバーンに向かって走り出した。
攻撃範囲に入りそうな所で、思い切り地面を蹴ってジャンプした。
パッシブスキルのジャンプ強化があるので、自分の背丈の二倍くらいまでなら飛び上がることが可能だ。
ワイバーンの顔の高さと同じくらいに飛び上がると、そのままワイバーンの脳天めがけて槍を振り下ろした。
Dランクになったので、武器は木の柄の槍から鉄の柄の槍に変わっている。
前より重くなったが振り下ろしの威力は上がっているはずだ。
ワイバーンと共に地面へ落ちながらもう一発、脳天にお見舞いする。
脳震とうを起こしているのか、地面にドサッと崩れ落ちたワイバーンの額に槍を突き刺す。
そして、スキルを発動させた。
「ピアススピア!」
これは強力な突き攻撃ができる単体攻撃だ。
カッと見開いたワイバーンの瞳はそのまま輝きを失い、絶命したようだ。
「嘘だろう……」
さすがにスキル一発で倒せるとは思わなかった……。ワイバーンってこんなに弱かったろうか。
いや、俺達が強いのか……。
三秒過ぎると次のスキルが発動できなくなる。俺は慌ててスキルを唱えた。
「ターゲットギャザー!」
これでパーティーメンバーがモンスターに敵として認識されても、攻撃は俺に集中する。
ランクが低いとこちらへ向けさせる確率が低いが、SSランクだと100%こちらへ攻撃を向けさせることができる。
パーティーメンバーを守る盾の役割をする者が使うスキルで、戦士系の職業は全て使える。
槍使いは盾役には向かないが、俺達は三人パーティーなので主に俺がその役割を担っている。
これを叫んだと同時に洋介のガストアローが、まるで噴火花火のように夜空へ放出された。
洋介が攻撃した敵を、全て俺に集めるためだ。
ワイバーンが俺に向かって、大量に降下してくる。
上に向かって槍を構えた俺は、スキルを発動させる。
「クラッシュスピア!」
頭上のワイバーンの群れに向かって突き上げるように移動しながら攻撃を仕掛け、俺は夜空へ躍り出た。
そのまま体をくねらせ、再びワイバーンの群れに向かってクラッシュスピアを発動させた。
微妙に倒しきれなかったワイバーンが、翼をバタつかせながら落ちていく。
「インパクトスピア!」
それに向かって槍を突き立てると、衝撃波で虫の息だったらしい数体が巻き込まれ息絶えた。
。
セーラは俺が地上へ降りた隙を狙ってヒールをしてくれる。
再び降下してくるワイバーンに向かって、クラッシュスピアで攻撃しながら西ゲートを確認してみると、大人数が動いているのが見える。
救出が始まったようだ。
俺達はワイバーンを攻撃しつつ、北ゲートを目指して移動を始めた。




