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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第二章 イーサ町

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88 深夜のイーサ町

「セ……」


 心臓の音がうるさすぎて言葉が出てこない。


 今日はもう出かける用事はないし、何か危険に遭遇しているわけでもない。

 セーラは単純に、俺の手を握りたいから握っているんだ。


 彼女が俺の事を好きなのは、もう十分に確信を持てている。

 だからこそ、尚更この状況が緊張する……!


 ――ヘタレですまん。俺からは何もアクションを起こせそうにない……。


 俺にはとても長く感じられたが、実際にはおそらく少しの間だった気がする。お互いに見つめ合った後、セーラは嬉しそうな表情で口を開いた。 


「あのね……、今日は私の夢が一つ叶ったの」

「……夢?」


 今日のお祭りは楽しかったが、セーラが夢見るほどの出来事はあっただろうか。


 巨大なお菓子を作るのが夢だったとか?

 もしくは、激レアアイテムとも言えるスライムの杖が手に入った……から?


「えぇ。カイトと一緒にお祭りに行く夢よ」

「おっ、俺ぇ?」


 思わぬ返答に、俺は間抜けな声を上げてしまった。

 せっかくの雰囲気が台無しだ……恥ずかしい。


「ふふ、そうよ。日本にいた時に何度も誘おうと思ったけれど、勇気がなくて誘えなかったの」


 まさかセーラにそういう考えがあったとは、夢にも思わなかった。


 俺と出かけたいと思ってくれていたなんて、嬉しさがこみ上げてくる。


「お……俺も!お祭りだけじゃない……、いろんなイベント事のたびに誘いたかったけど、勇気がなかったんだ……」


 セーラの予定を聞くまではできたが、最後の一歩が踏み出せずPCの前で頭を抱えた結果、ダンジョンへ誘った事など何回も……いや、何十回もある。


「私達、いつも同じ事で悩んでいたのね」

「そのようだな。もっと頑張ればよかったよ……」


 もっと早くに一歩踏み出せていれば、日本でも幸せな毎日を送れていたのかもしれない。


「……カイト、明後日の午後、話したい事があるの」

「う……うん」


 それは、約束をしていた告白をしたいという事だよな?


 セーラは決意を固めたような表情だ。もう、昨日のような動揺は見られない。


「十四時になったらお庭へ来てね。二人でお茶会をしましょう」

「わかった。必ず行くよ」


 ついに日程が決まってしまった。

 楽しみにしていたが、実際にその日が来るとなると緊張してくるな……。

 俺はヘタレることなく、セーラに想いを伝えられるのだろうか。




 深夜。

 俺と洋介、セーラに分かれて既に全員が就寝していたであろう時刻。


 ゴーン!ゴーン!


 教会の塔のてっぺんに取り付けられている鐘の音が、町中に鳴り響く音で目が覚めた。


「……これは」


 完全に就寝モードに入っていた体を何とか起こすと、開けっ放しだった寝室のドアからセーラが顔をのぞかせた。


「カイト……」

「あぁ、起きてるよ」


 ベッドから出てセーラの元へ向かうと、彼女はパジャマ姿のまま不安げに俺を見上げた。


「バルコニーから様子を見てみよう」


 二人でバルコニーへ出てみると俺達と同じく、周りの建物の窓からは辺りの様子を伺っている人達が多く見受けられる。


 お祭りで設営されていた物は大半が既に撤去されていて、巨大スライムもディデリクさんが回収してくれたようだ。


 お祭り前のだだっ広い広場に戻っているが、そこには多くの人が集まっているのが見えた。

 石畳に座り込んでいる人や体を横たえている人も多くいて、広場へ様子を見に来たと言うよりは避難してきたと思ったほうが良さそうだ。


 尚も、鳴り響いている教会の鐘。

 時間を告げる音とは明らかに異なる、緊急事態を知らせる警音だ。


 そして俺は、この鐘の音に聞き覚えがあった。


「セーラ、この鐘の音が何だか覚えているか?」

「覚えているわ……」


 俺達にとっては何十回、何百回と聞いた音だ。


「セーラは洋介を起こして事情を説明したら、装備に着替えて外へ来てくれ!俺は先に広場へ行って様子を見て来る!」

「わかったわ!私達と合流するまで待っていてね!」

「もちろん!」


 セーラが寝室に駆け込むのと同時に、俺はポーチからセーラが刺繍してくれた体力強化の服を取り出した。

 素早くそれに着替えると「行って来る!」と寝室に向かって叫びながら部屋を出た。


 一階に下りると店主がいて、俺の顔を見てほっとした様子で声を掛けてきた。


「よかった!今、声を掛けにいこうかと思っていたんですよ!この町では冒険者は全員集まる事になっているんです!お願いします!どうかこの町を守ってください!」

「任せてください!」


 安心させようと店主に微笑むと、素早く宿屋のドアを開けて外へ出た。


 店主の慌てようからも、俺の予想は間違っていないようだ。


 これは、モンスター襲撃イベントだ。

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