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大好きなゲーム世界に転生出来たんだから、仲間とのんびり暮らしたい  作者: 廻り
第二章 イーサ町

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87 テーマ曲

 洋介は少し考える素振りを見せてから頷いた。


「お困りのようでしたら、一度お会いしましょうか。ただ僕は結婚願望が無いので、友達以上にはなれませんが……」

「長女にはよく言って聞かせておきますので、ご迷惑はお掛けいたしません。なにとぞ、よろしくお願いいたします」


 まずは手紙のやり取りをしてやってほしいと、洋介は住所を渡されていた。やはり、この世界では手紙から始めなければならないらしい。


 それから巨大スライムの譲渡方法について話した。

 目的が子供を喜ばせるためのようだし、使いまわしを譲るので格安にしておいた。

 ディデリクさんは先払いしてくれると言ってくれたので、巨大スライムはお祭り終了後に俺達が立ち会う事無く持って行ってもらう事にした。

 この騒ぎだとまた会場へ戻ると大変な事になりそうなのでありがたい。


 ディデリクさん親子がテントを出て行った後、外の様子を見に行ってくれていた運営委員さんが戻ってきた。


「もうすぐ会場で演奏会が始まりますので、その間なら出られるかもしれません」

「分かりました。それじゃ、演奏が始まったら裏通りを通って宿屋へ戻ろうか」

「そうですね、裏通りまで行けば大勢の目に触れる事もないでしょう」

「私もそれで良いわ。バルコニーから演奏が聞こえると良いわね」


 夜のお祭りを見て回れなかったのは残念だったが、宿屋の店主がバルコニーからの景色は夜がお勧めと言っていたので、それを楽しみに帰るとしよう。


「ここを出たらひたすら全速力で宿屋へ向かおう。セーラ、途中で何回かヒールを頼めるか?」

「えぇ、任せて」


 セーラはポーチから杖を取り出した。

 走りながらヒールをする事になりそうなので機能重視にしたのか、指揮棒のようなシンプルで軽量な杖だ。

 杖というより棒と言ったほうが相応しい見た目だが、分類上は魔法使いの杖だ。


「姉上、途中で転ばないように気を付けてくださいね」

「そうだな、何なら俺が背負おうか?」

「大丈夫よ……心配しないで」


 途中で無理そうなら、俺が背負ってセーラにはヒールに専念してもらおう。


 準備が整うと、外からは演奏が聞こえてきた。


「この曲……」


 とても聴き馴染みのある曲だ。


「あのゲームのテーマ曲ですね……」

「ふふ、ここで聴くとは思わなかったわ」


 異世界の曲はどんなだろうと、少し期待をしていたのにまさかの選曲。この次は、この町のテーマ曲でも演奏されるかもしれない。


「皆さん、この辺りで待ち伏せしていた人達は、演奏会のほうへ向かっていきましたよ。今がチャンスです!」


 小声で教えてくれた運営委員さんに頷く。


「皆さん、いろいろとお世話になりました。お土産もありがとうございました」

「僕が迷惑をかけてしまい申し訳ありませんでした」

「姉弟共々申し訳ありませんでした。夕食もとても美味しかったわ。ご馳走様でした」

「またイーサ町へ来た時には是非、役場まで遊びに来てください!」

「はい、たまに物を売りに来ますので、その時に立ち寄らせていただきます」


 挨拶を終えると、俺はセーラの手を握った。

 こうしておけば、転びそうになればすぐに分かるはずだ。


「それでは皆さん、お先に失礼します」


 テントを出ると、俺達は全速力で裏通りへ向かった。


「キャー!洋介様が出てこられたわー!」「キャー!洋介様お待ちになってー!」「洋介様!住所を受け取ってくださーい!」


 流石に見つからずに裏通りへは入れなかったが、俺達にはパッシブスキルの移動強化がある。これは歩く速度はもちろんのこと、走る速度も早めてくれるスキルだ。


 転生してからずっと邪魔でしかなかったこのスキルが今、本領を発揮してくれている。


 俺達は一般人の三倍の速さで、広場を駆け抜け裏通りへ入った。

 その頃には洋介を追いかける声も聞こえなくなって、ほっと一安心した。だが、またどこで出くわすかわからないので、このまま全速力で宿屋へ向かう。


 セーラに五回ほどヒールをかけてもらいながら、俺達は何とか足止めを食らわずに宿屋の中へと駆け込んだ。


「ヒール!」


 最後のヒールがかかり、俺達三人は同時に大きく息を吐いた。


「何とか無事にたどりつけたな」

「案外、楽勝でしたね」

「思ったほど裏通りに人がいなくて良かったわ」


 幸いな事に、今は皆お祭りに行っているのか、宿屋の一階にもお客は一人もいなかった。

 俺達は安心して部屋へ戻った。


 バルコニーへ出ると、ここからでも演奏がはっきりと聞こえた。

 今は予想通り、イーサ町のテーマ曲が演奏されている。田舎町っぽいのどかな雰囲気の曲だ。


 景色も店主お勧めなだけあり、ランタンの灯りが柔らかく浮かび上がっていて、とても綺麗だ。


 セーラが出してくれたソファーに腰かけると、一人足りないことに気が付く。


「あれ?洋介は?」

「ディデリクさんの娘さんに手紙を書くといって、寝室へ行ったわ」

「そうか」


 洋介も割とマメなやつだよな。

 友達以上にはなれないと宣言していたが、律義に交流を持つ気はあるようだ。

 婚約破棄するような令嬢と友達になって、トラブルが起きなければ良いが……。


「この曲、好きだわ」


 曲が変わり、エミジャ村のテーマ曲が流れ始めた。


「懐かしいな、これを聞くと出会った頃を思い出すよ」


 出会ってすぐの頃は、エミジャ村とダンジョンを往復する日々だったが、村で深夜までチャットをしていたこともよくあった。

 その時にずっと流れていたのが、この曲だ。


 目を閉じて懐かしい日々を思い出しながら音楽を聴いていると、暖かなものが手に触れた。


 驚いて目を開くと、セーラはランタンの灯りのような柔らかな笑みを浮かべながら、俺の手を取っていた。

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